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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2部 第3章 【ATraIoEs】
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第293話 「異質な存在」

「颯くん?」


 ゼクスと古都音が個室へ姿を消した頃。

 颯に呼び出された雪璃は、備え付けられたバーにやってきていた。


 残念ながら、今回乗っている客は全員が未成年であるため酒類は用意されていない。

 が、雪璃の顔にはサイダーを飲みながらゆったりと自分を待っていただろう颯が、その場の雰囲気も相まってかっこよく見えてしまう。


「……話がある」

「はい、なに?」


 颯は、覚悟が完了したと言うように深く息を吐く。自身をじっと見つめる彼の目の中に、「何か」を見た気がして、雪璃は固まってしまった。


 その視線は、古都音を見るゼクスの目によく似ていたから。


「善機寺家次期当主の、妻になるつもりはないだろうか」

「ちょっといきなり過ぎないかな……? だ、段階を……」


 古都音とゼクスでさえ、段階を踏んで今のステージに上がっている。

 雪璃は戦々恐々と現在の状況を理解できかねていた。少なくとも、唐突すぎる。


 嬉しくないかと問われれば嬉しい。兄であるゼクスもそれを望んでいるだろうし、颯についていけば間違いあいことは雪璃にもわかっている。

 それに、雪璃は普通に颯が好きなのである。


「不満点でもあるのか?」

「ない、けど。恋人から始めない?」


 颯は、ここで初めて自分が早とちりしすぎたことに切っいた。差も当然のように古都音とゼクスが付き合い始め、高スピードでそのまま婚約まで済ませてしまったから感覚が狂っていたのだ。


 無表情の中に、少しだけの気恥ずかしさを隠しながら颯は頭を掻く。

 息を吸い、もう一度雪璃の方を向く。少女は顔を真っ赤にしたまま、少年の言葉を待っていた。


「付き合ってくれ。――俺なら、一生守り通せるだろうから」

「……うん、分かってるよ」


 流石に好きだとはっきりは話してくれなかったか、と雪璃は少しだけ残念に思う。けれど、どちらかの一方的な恋愛の始まりではない。両思いで、颯も覚悟を決めてこう言ってくれた。

 自分の秘密は言えずじまいであったが、雪璃はきっと彼なら受け入れてくれるだろうといったんは封印することにした。

 遅かれ早かれ、彼には知られることになるだろうから。


ーーー


「雪璃と付き合うことにした」


 決意が完了した颯は、雪璃の兄であるゼクスを前にしても真顔であった。本人である雪璃は顔を真っ赤にしていたというのに。

 このままでは、熟れたトマトとそう変わらない。


 ここは空港だ。【ATraIoEs(アトラロイス)】の広大な敷地内にある、【ATraIoEs(アトラロイス)】のためだけの空港。

 【Neo-Val-Xione(ネオ-ファルクシオン)】の業務用旅客機が着陸したのも、ここである。


 ゼクスは、真顔で返事を待っている颯を見つめた。

 ――うーむ、真顔だ。という感想しか出てこない。前々からそんなそぶりは見せられていたし、ゼクスとしても颯なら安心だと考えている。


 そして何より、颯が雪璃と斬灯の板挟みになりながらも「雪璃」を選んでくれたことが嬉しかった。

 斬灯には申し訳ない気もするが。斬灯は事情が事情である故に難しいことは本人も分かっていただろうし、という判断である。


「雪璃のこと、頼むよ」

「ゼクス同様、守り通すつもりだ」

「……ゼクスを護るのは俺の仕事だ。取るな」


 アガミがニヤニヤしながら割り込んできた。真の護衛とは自身のことである、と自信満々である。

 流石に、颯も文句を言わずここは引く。


 と、和気藹々としていると――。


「やーやーや-」


 ネクサスをそのまま年取らせた様な声がした。

 そちらに注意を向けると、ネクサスとその父親が立っている。


「初めまして。【Neo-Val-Xione(ネオ-ファルクシオン)】CEOのネクスト・ファルクシオンです。よろしくね」


 息子と同じく、気さくな態度でそう自己紹介をした男が最初に注目したのは、ゼクスであった。何だこいつは、と怪訝な顔をされるがゼクスはもうなれっこである。

 【顕煌遺物】と同化してしまっている現在、初めて会う【顕現者オーソライザー】からの視線はいつも同じようなものだ。人であると同時に【顕煌遺物】でもある、この世でおそらく初めての生命体。


「父さん、ちょっと失礼だぞ」


 父親の視線に気づいたのか、諌めたのはネクサスであった。ゼクスが「こうなった」原因の光景を目の前で見たネクサスとしては、自分の親族がそんな視線を彼に向けるのがとてつもなく嫌であった。


「ああ、済まない。悪気はないんだ」

「分かってますよ」


 ゼクスは意に介していないと首を振り、ジッとネクストを睨みつけていた颯を制した。


「取り敢えず、寮まで案内しよう。割り当てられた寮の中で、自由に部屋を選ぶといい」


 ネクストの言葉に、古都音の心はわずかに踊った。


「明日は形式的にテストもある。心を落ち着かせるといい」


 古都音の心は沈んだ。

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