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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2部 第2章 同盟
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第287話 「反省点」

「古都音さんは――、いいんです?」


 雪璃とゼクスが兄妹デートに行ってから2時間。朝の授業を終え、正式な護衛である蜂統はちすべアガミと、食堂へ向かっていた古都音に少年は話しかけた。


「いい、とは? ……おそらく、今日のデートのことでしょうね」

「古都音さんは嫉妬しないんだなぁ……って思いましてね」


 アガミは雪璃の美貌を思い浮かべながら、そう考えていた。

 いくら兄妹とはいえ、それは義理の関係であり。漫画やゲームでありそうな「間違い」は起こるのかもしれないと妄想に心を膨らませているのである。

 

 実際、雪璃に誰も手出しをしないのはそれが悪名高いゼクスの妹であるからだろう。

 今隣りにいる古都音だって、アガミが入学するまでの1年間は色々と酷い有様だったと聞く。


 この八顕学園は、有力者の次代が集まることでも有名であり、生徒の中でも玉の輿や逆玉の輿を狙っている人も少なくないのだ。

 顕現力の有用性がものを言うこの学園で、古都音の回復能力とその美しい姿は男をひきつけるには充分過ぎる効果を持っている。


「いいえ? 私は特に何も?」


 古都音はにこにこしていた。その顔に、一切裏の感情がないことに気づいてアガミは自分の浅はかさを認識せざるを得ない。


「私は正直、私を充分に愛していただけるのであれば。ゼクス君が他に女を作っていても構いませんよ」

「それはそれで――ああ、相手が【八顕】の次代だから」


 反論を喉まで出しかけたアガミは、古都音の相手が誰か気づいて慌てて言葉を飲み込む。

 【八顕】というのは、そういうのが許される身分なのだ。


 最も、それをゼクスがするかしないかは別の話である。

 斬灯、【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】。女性にアプローチを掛けられながら、彼の恋愛感情というのは古都音にのみ向かっている時点で、その可能性はないのだろうと。


「彼なら、『添い寝程度』・『膝枕程度』って言いそうだし」

「私も最初に、自重しなくても良いと伝えれば良かったのかもしれませんが」


 アガミは、いまいちゼクスの一線ボーダーラインを測りかねていた。


「ゼクスは、そういうことしないと思うけどなぁ……」


 斬灯と一緒に寝ても手を出さなかったと聞くし、女が寄ってくるだけでゼクスは欲にまみれているようには見えない、というのが少年の判断である。

 古都音としても、ゼクスは自分に隠し事をするような人間ではないことは分かっていた。やましい事を考えていないかぎり、のはなしであるが。


「結局、ここでうだうだ言ってしまっても仕方のないことですよ。本人達がどう思うか、です」

「まあ……」


 少女の言葉に、護衛の少年は苦笑して肩を竦めるのみであった。




---


「なんだかなぁー! 今回は何もできなかった感じが否めないね」

「ぐ」

「確かに冷躯さんはすごかったけど、あれに便乗して援軍に言っても良かったと、私は思うんだけど?」

「ぐぐ」


 御雷氷家と【三貴神】を除いた、【八顕】の面々より少し離れた場所に、【ATraIoEs(アトラロイス)】の3人は陣取りサンドイッチを頬張っていた。

 その中で、前回の戦いを振り返っていたのはネクサスとミュラクである。燃える炎のように紅い髪をした少女――ミュラクが反省点を言い、指揮権を持っていた整った顔立ちの少年――ネクサスが、彼女の言葉に封殺されている状態。


「いやー、完全に気圧されてた。それだけ」

「それが一番問題なのですよ。古都音さんだって、それが防衛手段のようなものなのですから」


 ネクサスたちが目を向けた先には、ほわほわとしながら優雅な出で立ちの少女が、パンを摘みながら月姫詠斬灯と何やら楽しそうに話をしている。

 直接的な顕現力による攻撃の手段を持てない彼女にとって、その有り余る顕現力を外に発散させ、威圧すると言う手段は大きな武器だ。


 ーー正直、面と向かって【威圧】されたらなぁ……。


 ほんの一瞬なら、【八顕】レベルまで放出できる彼女を見てネクサスはため息を吐くしかない。


「英雄になるには勇敢さが足りませんね」

「ミオまで言うか」


 婚約者2人に鋭い指摘を食らったネクサスは、流石に落ち込んだのか机に突っ伏した。


「まあ、そういうところが好きなんですけどね。いい具合にまだ人間味がある」


 ミオの言葉に、ミュラクも頷く。ネクサスは、逆に人間味のない人とは誰だろうと頭を巡らせる。


「……ゼクスと鳳鴻か」

「そうです。やはりどこか歪んでいるのですよね。……なんというか、私は古都音ことねさんや聖樹みさきさんが心底凄いなと」


 気づかないふりをしているのか、それとも本当に気づいていないのか。

 ……気づいていながら、それを許容できているのか。


 ミオには分からない。生まれてこのかた、男はネクサスしか知らない彼女は、ただ『人として』彼らが少々異常であるとしか判断できない。

 復讐心がその原因になっていることは、少女にも分かっていたことであるが。


 亜舞照あまて鳳鴻は既に復讐を完遂させたし、御雷氷ゼクスだって一区切り付けている。

 それは理解できているのだが……。ミオには、2人がまだ「かなり」復讐を引きずっているようにも感じられた。


「……気になるのかい?」


 団体の中に足りない人物を探すように、視線を泳がせるミオに対してネクサスはニヤニヤしながら尋ねた。今は、鳳鴻もゼクスもいないがピリピリと殺伐した様子はない。

 当の本人は――ネクサスに、非難するような目で一瞥した後。呆れたように息を吐く。






「私は、自分もそうなっていたかもしれない……と恐怖していただけです」


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