第028話 「閑話 アマツの使命と数煌」
「ったく、有り難いんだが二人共無理しすぎなんだよ」
白い壁、白い天井、白いシーツに白い机。
全面どこを見ても白いその空間に、1点だけ。
机に見舞いで八龍冷躯さんが来た時、おいて行った花束だけが明るいワンポイントになっている。
プリザーブドフラワーとは、冷躯さんもやっぱり洒落てんだなと。
俺……神牙アマツは感じた。
プリザーブドフラワーってのは水分を抜ききった花のことだ。
何の花かは忘れたけれど花粉症だから、見舞いの花は基本的に断ってんだけど。
生花でないこれなら問題ないというわけ。
己の左手に繋がれた点滴を目でなぞって、次は右手。
包帯で巻かれた両手は、暴走した時に通常時では絶対ありえない「火傷」をしたから。
【顕現】を使っている限り、それによって凍傷や火傷が起こることはない。
それはわかってるが……。ということは、自分の許容以上をだすと自分で自分を傷つけることになるってことか。
と、ドアをノックする音が聞こえる。また鈴音かね。
ちっとは男だけとか、一人とか気兼ねなく過ごす時間がほしいんだけれど。
「どうぞ」
「お邪魔するよ、アマツ」
ああ、予想斜め下の人がやってきたぜこりゃ。
俺の目の前に現れたのは、亜舞照鳳鴻。
うはー、何でここに来たんだよどっかいけ。
「いや、どうぞじゃなかったどっか行ってくれ」
「酷い」
ショックを受けたような顔をするが、結局はさっきまで鈴音の座っていた場所に座る。
どうしたんだ、なにか用事でもあるのかね。
「これもらうよ」
「おい」
次は八龍カナンさんの持ってきた菓子を徐ろに食いだした男を睨みつけつつ、俺は溜息をつく。
全部食ったら退院の後、学園の中庭に埋めてやる。
「用がないなら出てけ」
「用はあるよ。さっき、八龍ゼクス君に会ったんだ」
俺の表情が変わったのを、鳳鴻が気づいたのかニヤニヤと笑い始めた。
何だコイツ。きめえ。
「終夜さんのことがお気になさったみたいだよ」
「若干人間不信気味のゼクスが? やったぜ」
正直、今ゼクスの周りに居てやれる人が少なすぎると考えている。
だって、俺だろ? 鈴音だろ? これしか居ないんだ。
アズサや鳳鴻が一緒に居てくれるんだったら、俺としても有り難い。
ゼクスは一人にしては危なすぎる人だからな。
今日の【結晶】破損だって、さっき言ってた蒼穹城との対面でストレスを溜めた結果だろ。
「思ったよりも落ち着いている印象だったな、もっと情緒不安定を予想していたんだが」
「【神牙結晶】を外してもそうじゃねえよ。ゼクスは無理し過ぎなんだ、中学時代は俺と鈴音で充分だったとしても、ここに入ってからは絶対に足りねえ」
7年間もここで暮らすことになって、なんとかなるとは思えねえんだよなぁ。
学園で人を殺せないとしても、試合でとんでもないことをやらかしそうで怖えんだよ。
特に恨みのないはずな善機寺を医務室送りだぞ……。
「アマツもそうだけれど、八龍君にたいして過保護だね」
「鳳鴻たちには軽くしか説明できてないからな。でも、俺は冷躯さんから全てを聞いている」
ゼクスは「友人」「幼なじみ」「家族」を一度失ってる。
そして、冷躯さんはその全てをもう一度与えると決めた。
俺と鈴音はゼクスに与えるべき「友人」なんだから、その使命には何があってもそれをやりぬくさ。
「昔から、使命感の強すぎる人だねアマツ。使命感だけでしか動いてないでしょ君」
「そうかもな」
俺は笑った。それは、自分が確認できるほど自虐に満ちたそれだった。
使命感でしか生きてないのは重々承知の上。
鈴音との許嫁関係を親から聞いて、すぐに承諾したのもソレが使命だと感じ取ったからだ。
そこに俺の意思も、鈴音の意思も関係ない。
「とにかく、ゼクスのことを頼むよ」
「彼の心を知りたいなら、まずは信頼関係を築いてみせろと?」
「んあ。まあ、気をつけろよ」
「気をつける……? まあ」
分かったよ、と鳳鴻。その目には「信頼関係なんて簡単だろ」と、自信が有り余っている。
ゼクスは難しいんだよなぁ……。
「【数煌】って知ってるか?」
「しってるよ。属性の扱いが基準以上になれば与えられる称号でしょ? 1属性なら【一煌】、2つなら【ニ煌】みたいな感じで、最強の冷躯さんでさえ【三煌】。それがどうしたのかな?」
急になんだと彼。
忠告を今のうちにしておかないと、後で文句言われても困るからな。
「ゼクスは4属性基準値以上だからな。気をつけろよ」
「……はぁ!?」
「絶対に睨まれるなよ、死ぬぞ」
俺の言葉に、鳳鴻が余裕もプライドも全てかなぐり捨てて絶叫した。
すげえうるさい。ここ病室だぞ。
次回更新予定は今日中。




