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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2部 第2章 同盟
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第276話 「融合」

「外で【顕現者オーソライザー】が昨夜、殺された」


 次の日の朝、ゼクス達はたった今情報が入ったと慌てている様子の鳳鴻おおとりから話を聞いていた。

 八顕学園は学園とその周辺だけで生活が出来る。その為、外に興味の無い生徒たちは情報を持たされるまで外の世界が全くわからない、ということもよくある。

 ゼクスもその一人で、訓練のことしかほぼ頭にないあたり、外の情報については一般人でも察しがつく。


 そもそも、この話は一般にまだ公開されていない話なのだろう。と、ゼクスは鳳鴻の表情から読み取り、隣で震えている古都音の背中をゆっくりと擦った。

 

「鳳鴻がわざわざ外の情報を伝えてくるってことは、今回に関係あるんだろう?」

「そうだね。……現場には、消えかけの顕現力が残されてたよ。勿論――」


 鳳鴻は息を吐き、ごった返す食堂を見回して。


「東雲契の顕現力がね」

「……一人で行動してると思うか? そもそも、東雲が強大な顕現力を持っていたとは考えられないんだが?」


 そう発言したのははやてだ。彼の向かい側で雪璃せつりもこくこくと頷いている。

 直接、【顕煌遺物】である【タナトストルドー】と対決した2人に、そもそも東雲契から脅威は感じられなかった。


 雪璃の背中を焼いた、紫色のかかった毒々しい波動は【顕煌遺物】の精神侵蝕によるものである、という予想を立てていた颯たちは、思わず顔を見合わせた。

 

「そもそも、確実にゼクスは東雲を――したのか?」


 アガミは、不謹慎と自覚しながら喉を指で掻っ切る仕草をする。

 今まで、一度も追求されてこなかったそれに、ゼクスは思わず姿勢を正すと、周りの人でもわからないほど僅かに首を振った。


「殺してない」

「は?」

「俺がしたのは【拒絶リジェクト】だよ。 精神と身体を【拒絶】させ、精神と死を【拒絶】させた。精神と身体は切り離されたから肉体が生きることは許されないけれど、精神は然るべき場所に行ったんじゃないかな」


 確実は殺していない。その事実に人々が唖然とする中、鳳鴻だけは深く頷いていた。

 『死』は終わりではなく、苦しみからの解放である。ゼクスがそう考えていたように、鳳鴻もできれば「ヤツ」ににげみちを与える復讐の方法はしたくなかった。


 だが。鳳鴻の場合はその手段を持っていなかったこと。また生存していること事態が聖樹みさきへ恐怖を与えていたことを鑑みて、それ以上の策を考えられなかったことから実行に移したに過ぎない。


「ゼクス、もしかして変なこと考えてる?」

「変なこと、というわけではないが。雪璃が【浄化】したはずの【タナトストルドー】と、魂状態であった東雲契が融合後。復活したと考えているけれど」


 彼の言葉を、「馬鹿馬鹿しい」と一蹴する人は居なかった。

 【顕煌遺物】だって人格を持つ。【神座】に関しては、【八顕】の初代だ。

 不可能では決して無いのだろう。


「こうやって考えると、心底【顕現者オーソライザー】関係って闇魔術に近いよね」

「幻想的なものが全てとは言わないけれど、【顕現者オーソライザー】に起因すると研究結果が出ている限り、むしろ闇魔術が顕現に似ているんじゃないかな」


 そんな話をしている斬灯りととアズサに、目をやってからゼクスは流石に【顕煌遺物】が単独行動するのか、【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】へ問いかけた。

 彼女の返事は「YES」である。


『我もしようと思えば出来るからの』

「へえ」

『しないのは、ゼクスと一緒にいるコトに満足しているからじゃがな?』


 茶目っ気たっぷりにそう言った【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】に、ゼクスは何も答えなかったが――。

 斬灯と古都音が、ゼクスのニヤケ顔に気づいてギョッとした顔をしていた。


「何笑っているんです?」

「いや、なんでもないよ。それより、今日はどうする? 俺は顕現力をオニマルと辿って、誰とつながっているのか確かめるつもりだけれど」


 真顔に戻ったゼクスの言葉に、古都音は少々気分を害したような顔をしていた。

 

「……また、私は置いてけぼりですか?」

「ん?」


 彼女の言葉に、ゼクスは顔を歪めた。


 決してゼクスは、彼女を置いてけぼりにしたつもりはない。むしろ、戦闘の出来ない彼女のみを案じてのことであったし、自分が彼女のそばにいる限り、【桜霞おうか】や【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】、自分の顕現特性のお陰でそもそもの護衛であるアガミの仕事も極端に少なくなってしまう。

 アガミに対して、仕事を与えるというわけではないが。

 少なくとも、危険とわかっていながらも突っ走っていく自分と一緒にいるよりは安全かと思ったのだ。


「そんなことはしていないつもりだけれど。……古都音には安全な場所に居てほしいんだ」

「――それは、斬灯さんとまた一緒ですか?」


 ゼクスには、古都音が軽く嫉妬しているようにも思えた。実際、古都音は軽く嫉妬していた。

 自分が戦闘を行えない、防御もままならない。そんな自分がゼクスについて行っても、足手まといに成るのはわかっている。


 だが、既にその争いは終了して、現在は良き友であったとしても。ここ数日に彼と行動をともにしているのは斬灯であった。

 平等に接してくれるのであれば、彼を自分が独占することもないだろうと考えていたが……。


「……いや、今日は颯と雪璃と。もしかしたら、戦闘になるかもしれないからな」


 夜また会えるから、と古都音にそう話しかけたゼクスは席を立ち、2人に目配せをしてから食堂を出てゆく。


 古都音は、何か嫌な予感がしてならなかった。


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