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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2部 第2章 同盟
268/374

第268話 「事件の傷痕」

 次の日、学園内は騒然となっていた。

 中庭で6年女子生徒の死体が見つかったためである、学生としても模範的であり、【顕現者オーソライザー】としての戦いは未熟であったものの、回復系統の【顕現属法ソーサリー】を覚え、成績優秀。


 ゼクスにとっては全く知らない人間であったが、斬灯りとが少々ショックを受けた様子で立ち尽くしているのを見て、多分良家か、それとも【八顕】に対しても物怖じしない良い先輩だったのだろうと察した。

 

 死体はすでに運ばれていたが、男子生徒が1人現場で膝を折っているのを少年は見かけた。

 兄弟か、恋人か、ゼクスにはわからなかったが、声をかける気はせず。


 そのまま、ゼクスは【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】を使って顕現力を辿る。

 ……やはり、前の【タナトストルドー】と同じ感覚。しかし、前回は使用者である東雲しののめちぎりの顕現力も感じ取れたが、今回あるのは【顕煌遺物】の顕現力のみである。


 【タナトストルドー】のそれは、彼の隣りにいるはやても感じ取ったようで、颯は難しい顔をすると「すまない」とその場を離脱する。

 

「……颯君、どうしたのでしょう?」

雪璃せつりに会いに行ったんだろ、多分」


 ゼクスは、義理の妹の顔を思い浮かべながら気にしたような素振りもなく返事をする。

 雪璃と颯の関係は、前よりも親密なものとなりつつあることをゼクスは知っていた。斬灯も颯にアタックを仕掛けているが、やはり【八顕】次代という立場が仇となっているのか……。

 斬灯はゼクスへのアタックをやめたというか、諦めたらしく彼の良き友となっていたが、それでもたまには甘えたく成るのだろう。なついた犬のようにゼクスの隣に座る斬灯に対して、彼も古都音も邪険に扱うようなことはしなかった。


「斬灯」

「…………」


 教師たちに追い払われて生徒が去っていくなか、立ち尽くしたままの斬灯にゼクスは声をかける。

 が、斬灯は聞こえていないのか、返事をしない。


「斬灯」

「……、ん、ん?」


 もう一度ゼクスが声をかけると、少女はビクンと跳ねてからおずおずと彼の方を向く。

 その目尻に涙が溜まっていることに気づき、ゼクスは古都音へちらりと目配せをした。


 古都音は察しが良い。斬灯の顔は見えなかったが、そのまま鳳鴻を見つけて授業に向かう。


「少し歩く?」

「……うん」

「なら、まずはその涙を拭いてくれ。……女の子を泣かせたまま一緒に歩く教育は受けてない」



---



 外出許可証は、迅速に取ることが出来た。

 守衛も事務員も、【八顕】が2人で「大切な話をしに」学園を出ることについて文句を言わなかったし、彼らは彼らで御雷氷みかおり月姫詠つきよみの次代最候補であるゼクスたちの都合の良いように勝手な解釈で通してくれた。


「……なんだか、こういうのも久しぶりね。ゼクス君」

「最近、馬鹿になった気がするよ。俺の記憶力が低下しているようなきがするんだ」

「前の半年にことが起きすぎただけでしょ」


 斬灯は悲しそうな顔で、笑っていた。無理に笑っているのではなく、ゼクスの隣に居ることによって笑っている。

 ――幸せだ、と斬灯は感じる。彼が自分の恋人であればもっと幸せだろう、と考えることも幾度もあったが、略奪は好みでない。

 彼の生涯を支えるただ1人の女性は、古都音に決定している。


「すごく、いい先輩だったんだ。【八顕】の先輩は私達の代にはいないからね。ほとんど学園に居られない私たちであっても、きちんと接してくれたし……」


 ゼクスには、先輩と言うものをこの学園で持ったことはない。

 良くも悪くも有名人で、また悪評高いゼクスに同級生すら寄り付かないなか、上級生が寄り付くわけもない。


 否、ゼクスに話しかけようとした生徒は何人かいた。が、それも取り巻きや仲間に抑えつけられてそれが叶わなかっただけである。


「もう、会えないんだね」

「残念ながら」


 ふと、ゼクスは斬灯の悲しそうな顔を見て、ある考えに至った。

 あまりにも衝動的で、かつ安直な考えではあるが、……少年は彼女に問いかける。


「その人は……斬灯の大切な人だった?」

「貴重な人だったし、大切な人。ゼクス君なら分かると思うけど、私たちに当世代で年上の、信用に足る人ができるのは難しいことだから」

「そうか」


 斬灯は、ゼクスの目つきが変わったことに気づいて、自分が悲しんでいたことすら忘れてしまった。

 彼が、何か行動を起こそうとしている。


 しかし、斬灯は具体的なことについて何一つわからなかった。


「ゼクスくん、お願いだから危険なことはしないで……」

「なーに心配してんのかわからないけどさ」


 再び涙目になった斬灯に、ゼクスは苦笑すると。

 そして彼女の顔に軽く左手を添え、右手の親指で泪を拭った。


「今まで俺が何かして、危険な目にあったこと、あったか?」

「……無いわね」

「そういうこと」


 社会的にはかなり危うかったけれど、と半年前の事件を思い出した斬灯であったが、すぐに口を噤む。

 そういえば、ゼクスは斬灯の前でピンチらしいピンチを見せたことがない。


「俺のことは気にしなくていいよ。……俺は、斬灯を悲しませた人に制裁を加えないとね」

「……心当たりがあるの?」

「……無いとも言い切れないな」


 斬灯は詳しくその話を聞こうと詰め寄ったが、ゼクスはそれを軽くいなしてしまった。

 

「斬灯こそ、復讐なんて考えるなよ」

「なんで」

「復讐をするべきなのは、斬灯じゃなくて……」


 ゼクスは、先程中庭で崩折れていた上級生を指差す。事務員も空気を読んだのか、それとも察したのか出してくれたのだろう。


「するとすれば、彼がすべきだと俺は考えるが?」

「……氷堂ひょうどう先輩」


 虚ろな顔をして公園のベンチに座っていた優等生は、指をさされたことに気づいたのかゼクスたちの方を見て――。




 飛び上がった。


スランプの分、逆リバウンドが来たみたいです

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