第263話 「傍に居る訳」
一週間ちょっと放置して申し訳ございません
ゼクスと古都音以外のみんなは立ち代わり入れ替わり、ゼクスと古都音はずっと訓練を続けて現在時刻は夕方6時。
やっと顔を上げたゼクスは、汗だくで倒れている鳳鴻と斬灯、そして立って肩で息をしている颯とアガミを見回してため息をつき、肩の力を抜く。
「今日はこのくらいでいいか」
アガミ相手に無茶をすること十数回、颯と鳳鴻を同時に相手すること数回、斬灯と戦うこと数回。
今日も充実した実践鍛錬であった、と半分ほど満足しながらゼクスはスタジアムの解放されている天をみつめた。
「古都音もお疲れ。どうだった?」
「外傷はなんとかなりそうですね」
ずっと戦っていたゼクスよりも、古都音は消耗していた。
対象をの回復を早めるだけでも、ゼクスたちが戦闘するのと変わらないほどの顕現力を消費するし、即時回復となれば比べ物にならない。
こなれてこれれば消費する顕現力も抑えられるのだろうが、古都音は今だその域に達してはいなかった。
「みんなも疲れたみたいだし、今日はここで解散していいか?」
「異議なし」
鳳鴻と聖樹、斬灯がスタジアムから出ていき、ゼクスたちは戸締まりを軽くして集合。
集まったのは今だに肩で息をしている古都音と、息を整え終えたアガミ・颯の4人。
「ゼクスは今日を通してどんな鍛錬を?」
「【顕現属法】を、予備動作なしで発動させる鍛錬」
ゼクスはなんとでもないように、手を開いたり閉じたりしながらそう答えた。
颯は、その言葉を受けて少々首をかしげる。
【顕現】ならともかく、【顕現属法】はそもそも自分の思考を現象として再現する、もともとから奇襲性に優れた戦い方である。
確かに、【八顕】当代のレベルとなれば必要なのかもしれないが、今のゼクスにとってはおそらくオーバースペックすぎるものであるのだ。
それを考えるくらいなら、そちらではなく古都音と同じように新しい【顕現属法】の習得を目指し、それに加えて省顕現力に向かったほうが良い。
そもそも、ゼクスのように自分の癖を見極めている人間なんてかなり少ないのだから。
「例えば俺なら拳を一度握ってから開く、だとか。そういうのをなしに【顕現属法】を発動できるのなら、不意もつけるし攻撃のタイミングも早くなる」
思考だけで【顕現属法】を発動する、というのは普通であるが、予備動作もなしということは瞬間的にそれを発動するということである。
確かに、【顕現】のスピードが異常なゼクスには可能なことなのかもしれないが……と、颯は納得した。
と、ここでアガミの腹が音をだす。
赤面する彼に対して笑いをこらえながら、ゼクスは提案した。
「食堂に行こうか」
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「場所がわかれば俺達もできれば参加したかったんだが」
「そういえば教えていなかったか。後で位置情報送っておくよ」
食堂では、ゼクスら4人とネクサスら3人が合流していた。
彼らの話を聞く限り、【ATraIoEs】組は自分たちの鍛錬場所を確保できなかったという。留学生達が【八顕】とつるんでいるのなら尚更のことであり、ゼクスは現在提供されている「ほぼ」自分たち専用のスタジアムを使ってくれと微笑む。
と、右側から視線を感じてゼクスはその方向――、ミオ・ミスティスの方向を見やる。
少女は慌ててゼクスから目をそらすが、それに気づかないほどゼクスは鈍感な人間ではない。
「……なんだよ」
「いいえ、何も」
「そうか」
しかし、「何もない」と言われればそれ以上追求しなかった。
が、数十秒後に次は颯がミオ・ミスティスの視線に気づき同じような反応をする。
「……何か?」
「いいえ」
ミオの返答は同じようなものだ。颯もゼクスに習い、それ以上の追求はしない。
……が、ついに数分後ゼクスが我慢ならなくなった。
「……視線が気になるんだが?」
「あの」
ここでやっと、ミオ・ミスティスは意を決するように直接ゼクスを見た。
「私は、貴方達……特に御雷氷ゼクスが、なぜここまで支持を受けているのかわからないのですよ」
出てくる言葉は、疑問だ。
ミオはこの一週間、ゼクスを見てきた。
確かに、【顕現】による戦闘では無二の強さを誇る。
その強力すぎる顕現特性の数々。【終夜グループ】の協力によって得た【顕装】も彼の戦力を増強させる要因となっているし、それに加えて【髭切鬼丸】という【顕煌遺物】も少有している。
しかし、それだけでは人は惹きつけられないような気がするのだ。
そもそも、身内以外は完全排除という考えが異常である。
「私からすれば、自分勝手に力を振るう暴君にしか感じられないのです。自分の好む人間のみに温情を与える。気に入らない人間は徹底的に拒否する」
「していることは子供じみた我儘です。最終的には自分しか見つめていない、そうでしょう?」
「間違ってはないな」
ゼクスはあっさりとそれを認めた。自分しか、という時期はもう終わったものの、古都音を大事に思う気持ちや颯らを気遣うのも、最終的には自分のためである。
颯が純粋に自分に仕えてくれていたり、古都音が自身を思ってくれたり、養親がわが子同然に扱ってくれたり。それに感動し、答えようとはするものの考えの根幹を理解してはいないのだ。
「一度訊いてみたかったのです。善機寺君、終夜さん……何故、彼と一緒にいるのです?」
ちょっと言いすぎじゃないか? と制止しようとするネクサスとミュラクを完全無視して、ミオは2人に迫った。
颯と古都音はお互いに顔を見合わせ、数秒後観念したように颯の方から話し始める。
「俺は……最初は、仕えたいわけじゃなく【敵に回したくない】というのが大体を占めていたな」
善機寺家は、まず刀眞・蒼穹城の後ろにいる限り傀儡であった。
裏では御氷とつながっていたとしても、その権力を取り戻そうとするためには2家から離れるほかない。
そこで現れたのが、御氷=八龍家であった。
もし、ゼクスがこのような力を持っていなく、刀眞に捨てられたまま弱者であったならそれもかなわなかっただろうが……八龍ゼクスという存在は復讐者としても、【顕現者】としても十分すぎるほどの力を持っていた。
だからこそ、適当な理由をつけて離反し……むしろ下に人がつく経験のなかったゼクスによってそのまま取り込まれたということである。
決して颯はゼクスに追いつくことが出来ないかもしれない。が、彼は彼独自の道を征くことによって、【颶風】・【瘴】・【燿】の3つを現在仕えるようになっている。
本来の力を蓄えていたといえ、結局それはゼクスの存在がなければ……颯が真に仕えたいと思った人間がいなければ、かなわなかったことであるのだ。
「けど、今はゼクスに感謝している。おかげで善機寺は力を取り戻したし、俺も生きる理由と死ぬ理由が出来た」
「……それは言い過ぎ」
「俺の意志だ。言い過ぎも言わなさすぎも有るまい?」
これだから颯は……と。別の、とりわけ将来を伴にするであろう女性に言ってほしいものだなとゼクスは頭を掻きながらも礼を言う。
ゼクスの反応に満足したのか、颯はニヤッと笑ってミオの方を見やる。
ミオは思ったより具体的な回答に戸惑ったのか、こほんと咳払いをして視線を漂わせた。
そして、少々すねたように「わかりましたよ」と投げやりに申したあと、古都音に目を向ける。
「終夜さんは? どうなのです?」
「私は――」
次回更新は今週中です。
実に申し訳ない。
 




