第262話 「有効的手段」
「善機寺君は、どこまでいってもぶれないのねー」
「……そうだね、言っていることはいつも同じなのに、段々とその力が増しているようなきがするんだ」
鳳鴻と聖樹は、インカムから流れてくる会話をきいていた。
聖樹は話を鳳鴻から幾度なく聞いていた、颯の行動そのものを実際に聞いて聖樹は満足そうに目を細める。
「ねーね。あそこにいるのはゼクス君?」
「あ、本当だ。おーい」
鳳鴻が手を上げると、それに気づいたのかゼクスも手を上げてこちらに向かってくる。
隣には古都音もいる。ということから颯の単独行動に何かを感じ取った鳳鴻は、「やあ」と声をかけてきたゼクスに手を振ると、彼をじっと見つめる。
「……ん? 何かついてるか?」
「今、どこに向かってたの?」
「どこって……いつものスタジアムかな、今から【顕現属法】の鍛錬をネクサスたちとやるつもりだったし」
学園側が、特別に一つの小型スタジアムを用意してくれたんだ、と鍛錬中毒のゼクスは嬉しがっていたが鳳鴻はただの隔離ではないかと溜息をついた。それをゼクスに伝えるか否か悩んだが、彼はゼクスが気づいているだろうと判断して何も言わない。
代わりに、「それは僕達も使っていいのかな?」と訊いてみた。
「いいんじゃないか。『自由に使ってくれ』って言われたから、普通の耐久性しか持っていなかったらスタジアム無くなる可能性がありますよって言っておいたけれど」
「完全に脅しなんですよね……それ」
古都音は、はぁと溜息をつきながら頬をふくらます。
その姿は、明らかにゼクスの身を案じているようだったが聖樹は納得が行かない。
なぜなら、目の前の御雷氷ゼクスには何も心配することがないのだ。
「古都音さんは、なんでそこまで心配しているの?」
「……?」
聖樹の質問に、古都音は首を傾げた。
古都音としては、むしろどこに心配しない理由があるのか分かっていない。
勿論、ゼクスのことは誰よりも信用している。誰よりも慕っているという自信はあるし、今までもこれからも彼のことを気にかけていたものである。
「ゼクス君、問題ないと思うけれど?」
「……そうですね」
聖樹の言葉に対して素直に頷く。ゼクスの方を見て、自分の手を胸辺りに持っていく古都音に、灰髪の少年は気づかなかった。
「ゼクス、俺の目の前で【顕現属法】ぶっ放してくれ」
「……アガミ? 古都音が本気で心配しているから、やめよう?」
蜂統アガミは、盾を【顕現】させた状態でゼクスにそう言った。
言葉を受けてちらり、と古都音の方を見やったゼクスは慌てて首を振るが、正直試してみたい気持ちがないわけではない。
一般人の身体的鍛錬は一人でもできるが、【顕現】関係の鍛錬は一人でやるには難しい。
新しい【顕現属法】を開発するのは一人でもできるが、それの威力などを試すには何かの装置か相手が必要だ。
アガミとしては自分たちの盾の防御性が、ゼクスや他の人としては自分たちの攻撃性がどれほどのものなのか試したい。
しかし、それは古都音がいることで成り立たないものになる。
「古都音、ちょっとすまないが斬灯たちといてくれないか。鍛錬訓練にならない」
ゼクスの斬灯、という言葉を聞きつけた本人がテクテクと歩いてきて古都音の手をにぎる。
古都音はうつむいて、毎度のことであるがそのまま差し伸べられるようにスタジアムから出て行った。
「いつもこんな感じなの?」
「うん」
鳳鴻に古都音と斬灯の後ろ姿を見ながら訊かれ、ゼクスは同じ方向を向きながら静かに答える。
一緒にいて安心するのはあるが、緊迫感の必要な擬似戦場でそれも必要ない。
斬灯や、ここにいる雪璃なら対戦相手になるから問題ないが。アガミやゼクス、颯は時折今回のような無茶をしようとする。
古都音は医療役としてそばにいるが、あの様子で無駄に心配性。そのため、ゼクスは斬灯やアズサに頼んで無茶をするときだけは連れ出してもらうように頼んでいるのだ。
「よし、じゃあやろうか」
アガミは顕現させたままの盾を構え、ゼクスと1メートル程度のみ離れて対峙する。
ゼクスは右手を握りこみ、顕現力を拳ではなく、その中。
握りこんだ拳の中に雷属性の顕現力をため、前に突き出すようにして吐き出す。
右手から勢い良く放たれた、太い金色の稲妻がアガミの認識に触れた瞬間、彼自身のアイデンティティーである盾へ直撃した。
――途端、アガミは吹き飛ばされたように後ろへ下がる。踏ん張りが無駄になり、二転三転と地面を転がって地面から最終的には壁へ。
しかしアガミは、クッションになるように【顕現】を発動させて自分の体ごと受け止める。
「……くっしょっ」
罵り言葉、というよりもくしゃみに近い言葉を吐き捨てて、アガミは顔をゼクスにむけた。
アガミの顔は笑っていた。それもそのはずで、アガミの盾には罅どころか、傷一つ入っていなかったのである。
「次は、受け流せるようにならなきゃな」
「受け流したら盾の意味がなくないか? 後ろの人を護るのが役目だろう?」
「それもそうだな」
今度は自分を固定するための何かを【顕現】するべきか……とアガミが考え込んでいる間、ゼクスと見ていた鳳鴻、聖樹は再び彼の防御の硬さに感心する。
「俺は無理だな」
「……そもそも攻撃当たらないじゃん」
ゼクスの言葉に、鳳鴻が笑い「まあ、自分も同じようなものだけど」と笑ってみせる。
御雷氷ゼクスが「攻撃を【拒絶】する」というのなら、鳳鴻はその前提以上の話だ。
亜舞照鳳鴻はそもそも、大抵の相手の攻撃をそもそもさせない。
――その「気」にさせない。
「果たして、攻撃させないのは相手にとってプラスか、マイナスか? っていう話だね」
「そういうものか? それは俺にだけだろ?」
「まあね」
でも、意志の強い人間に効かないのが【顕現】だから。と鳳鴻は言いながら、ポケットの中に隠していた本物のナイフを見せる。
「ある意味では、【顕現者】に1番有効なのはこういう武器なのかもね」
と。
しかし、ゼクスはそれらすら自分は【拒絶】させることが出来ることを知っていたため、首を縦には振らなかった。
「ちなみに、これ【顕装】なんだよ。実体の刃を覆うように、【顕現】されるようになってる」
「それを持って何をするのかねぇ」
「護身用だよ」
普段の僕には無用のものだからねと、真顔でそう言われたゼクスは、何も返すことが出来ない。
そうこうしているうちに、古都音達と颯がスタジアムに帰ってきて。
「何の話を?」
と、訝しげに首を傾げる颯に、ゼクスは笑って茶を濁すことしか出来なかった。
次回更新は今週中です。
今章は平和に行きたいところですが、そうも上手く行かないようです。
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