第026話 「アマツの復活と結晶の異変」
なんとか蒼穹城を撒いてアマツの病室まで向かうと、彼はすでに目覚めていた。
そばには嬉し涙を浮かべている冷撫の姿がある。
「お早い復活で」
茶化すようにそういうと、アマツはおどけたように胸を張ってみせる。
極々自然な笑顔が浮かべられているあたり、完治とは言わないが快復に向かっているということか。
「鈴音から聞いたよ。俺を助けてくれてありがとうな」
アマツは、優しい動きで冷撫の髪の毛をすきながら礼を言った。
その動作を行われながら、彼女はという蕩けたような笑顔を浮かべていた。
……んあー、なんていうか凄い顔をしている。
大好きなご主人に撫でられている猫のような感じ。
「助けたいから助けただけだよ。俺がああなったら、アマツだって助けたろ?」
「そりゃそうだけどさ。俺ほら、顕現力かなり強いから……」
確かに、試験場は半壊したからな。
暴走しやすいのかもしれない。特にあの時、どんな感情が引き金になったのか俺にはわからないけれど。
そもそもあの能力はなんだろう? 俺の【re】式は短いながらも詠唱が必要で、でもアマツのソレに詠唱がなされたという記憶はない。
アマツがキレて両手から金色の焔を噴き出した。そこから暴走した。
俺は、アレが【八顕】の人々が真に属性を開花させた結果だと知っている。
だけれど、その正式名称が何かしらあるはずなのだ。俺はそれを知らない。
アマツはそれを語ろうとしないように思えた。
だから俺も特に追求はしないでおこう。
「いつ頃退院できるって?」
「とりあえず、週末はここで過ごすつもり。何かあってもいけないし、月曜日から授業……はなくなったって?」
授業選択機関は5月初めまでだ。
それまでに、3週間自由に授業を見学できる。
本当は今日ガイダンスがあって、来週から早速見学と行く予定だったのだが。
アマツの件でできなくなり、代わりに月曜日に入学式の行われてた体育館ですることに。
「一応土曜日も授業はあるけれど、ガイダンスは来週だと」
「ほうー。まあ、この土日は外出許可書が必要ないんだっけ」
新入生だけだけれどもな。
概要的には、寮生活にて買いだめしたり、家具をある程度揃えたりということらしいけれど。
「うん。アマツの分も幾つか買っておくよ」
「助かる。……ところで」
アマツの顔が、妙に真面目なものへ変わった。
俺をじっと見つめ、何かを確信したような顔をしている。
「ちょっと、鈴音。席を外してくれないか?」
冷撫の髪の毛をすく手を止め、そういう。
彼女も彼女で何かを察したようで、不満げながらも頷き部屋を出て行く。
「ゼクス。使ったろ、俺の回復のために」
「なんのこと?」
さて、何を言っているのやら俺にはわからないな。
俺は何も特別なことはしていないぞ。うん、何もしていない。
首をふると、嘘つけと一蹴される。
「病室で使っただろ、鈴音にバレないように【re】式」
「いやーなんのことか分からないなー」
医者に昨日は来週まで目覚めないと断定されていたんだぞ、とさ。
そうだな、確かに俺はやったな。
……認めるしかないか、ぐぬぬ。
「体に負担かけたんじゃないか?」
アマツは、どうも自分のことを棚にあげて俺の心配をしてくれているらしい。
正直問題はない。
ただ、冷撫にバレないようにして能力を使うのが厳しかった。
彼女本当に離れようとしないんだもの。
「そんなことよりも、さっき蒼穹城に会ったよ」
「概要は鈴音から聞いた。助けたんだって?」
俺は正直助けたのを後悔していると漏らす。
さっきのアレをみたら、本当にそう思う。
蒼穹城にそうしたところで、後で色々御礼返ししないといけないしな。
それが蒼穹城進の墓場……は無理かな。
無理か。墓場は無理だが、入院送りは可能だろうな。
昨日のアレ程度で善機寺を入院させることができたんだ、簡単だろう。
「寝てたんだが蒼穹城って強いのか?」
「【顕現】ではどっこいどっこいだろうぜ。だからあっちの力を使おうとしたんだし」
アマツとどっこいどっこいか。なら少し気をつけたほうが良いかもしれないな。
憎い相手と戦う時、一番力を発揮できるだろうし。
神牙家と蒼穹城家って決定的に仲が悪いからな……。
「あの、そろそろいいですか?」
そんなに時間がかかっただろうか。
外の方からノックがして、冷撫が隙間からこちらを見つめている。
さながらホラーだ。怖い。
「ゼクスくんはこれから無理しないでくださいね」
「それは、約束しかねる」
俺は二人の為になら無理をすると約束してしまった。
助けるときには多少無理をしなければならない。
だから、冷撫の願いは聞けない。
……と。
アマツが妙に真面目な顔をして、俺を見つめている。
正しくは俺の首を見つめていた。
「【結晶】、ヒビ入ってんぞ」
次回更新予定は今日中。




