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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2部 第1章 新学期
254/374

第254話 「友情か恋慕か」

 決闘が終わり、アマツが「事実」を公開した後の数分間は、誰も動くことが出来なかった。

 最初に動いたのはアマツの弟である神牙かみきばすばるはやての妹である善機寺ぜんきじかえでで、2人は顔を見合わせ静まり返っている会場をそろりそろりと示し合わせたように音も立てず外に出る。

 

 会場から抜けだした2人は、はぁと感嘆のため息をついた。


「……よかったの? 僕と一緒で」

「うん」

「そっか。……次元の違う戦いだったと思うよ」


 双方のレベルで次元が違う、というわけではない。

 昴は、明らかにゼクス側の人全員が相手を圧倒していると判断した。


 御雷氷ゼクスはその顕現特性、【拒絶リジェクト】によって相手の攻撃を完全にシャットアウトし、【顕煌遺物】と【顕装】によって相手を完膚なきまでに叩きのめした。

 対晦つごもり蓮屋れんやは完全勝利で、対刀眞とうまりょうも残存顕現力の調節によって勝利をつかむことが出来た。


 善機寺颯は、両手に宿る特殊な顕現力【ショウ】と【ヨウ】によって栄都アインを叩き伏せることが出来た。

 半年、神牙研究所に運ばれてきて苦痛に喘いでいた姿を昴は目撃しているが、今はそのような状態ではなく制御しきれている。


 ネクサス、ミオ、ミュラクの【ATraIoEs(アトラロイス)】勢は、恐るべき空間支配能力で敵を寄せ付けなかった。

 

「……僕も、なろうと思えばああなれるんだろうか」

「戦いは苦手じゃなかった?」


 楓の鋭い質問に対して、昴はガシガシと自分の髪を掻く。

 確かに昴は戦いが苦手であるし、たった数時間前にそう目の前の少女に言ったばかりであった。

 が、よく考えて見れば想い人がいる。ジェンダーなことを考えているわけではなかったが、それでも守りたいものである。


 何より、男としてのプライドがないわけではない。生粋の研究者であった父親とて、ただ母親に守られているわけではなかったのだ。

 

「戦いは苦手だけれど……自分が守られるだけってのは、嫌だな」

「私が守ろっか?」


 思いがけない言葉に、昴は目を見開いて口をあんぐりと開けた。そういった少女は涼しい顔で、また昴の気持ちなんて全く理解していないような顔で首をかしげると「変なこと言った?」と。

 昴は困惑しながら曖昧に首を振って、肩を竦める。


「もう少し慎重に選んだほうがいいよ。お兄さんのことを尊敬し、目標としているのなら尚更」

「……そう?」

「もともと善機寺家は、曖昧であれど蒼穹城側の人間で。そんな状況でも楓さんのお兄さんが離反を決意した何かが、ゼクスさんにはあったんだ。そのくらいのことがないとダメだと思う」


 惜しい話だったけれど、と昴は自分の願望を抑えつけながら諭すようにそう言った。

 楓はそんな少年の言葉を受けて、それもそうかと考える。きっと昴は、自分の何気なしに言ったことそのままの意味ではなく、本心を見透かしたのだと察してそうはっきりと言える彼を見直した。


「なら、私の手綱を引っ張ってて」

「……と、言いますと?」

「私が暴走しないように」


 思わず口調が丁寧に、かつ慎重になった昴に対して楓は涼しい顔であった。

 楓は知らないわけではない。目の前の昴の、自分に対する思いに全く気づいていないというわけではない。


 が、自分に向ける好意が友情としてのものなのか、それとも恋慕なのかがわからない。

 肝心な場所が理解できなかった少女は、先に歩を進める少年に慌ててついていきながら、「どこへ?」と質問をした。


「僕は部屋に帰るけど……ああ」


 昴は、ここぞとばかりにぐぅと鳴った楓のお腹を見つめて、やれやれと肩をすくめた。


「食堂でも行く? 初めての食堂だよ」

「……うん、行く」




---




「いたいた。……審判、お疲れ様でした」


 亜舞照あまて鳳鴻おおとりは、たった数十分前まで審判をしていた男の前へ愛詩いとし聖樹みさきの車いすを押しながら回り込むと、にこにこと笑った。

 審判の男は、フードを被って目立たないよう、周りを気にして少しキョロキョロしたあとにフードを外し、はぁと溜息をつく。


「鳳鴻、元気だったか? ……聖樹さんも、呪縛から解放されたようで良かった」

「父さん、今日は何故ここに?」

「学園側の要請で審判に来たが? 厳しくやってくれと言われてな」


 もともと様々なものを審判していた【八顕】の元当代である。血を血で洗う決闘の審判に一番適していると考えたのだろうか。

 少なくとも、御雷氷ゼクス側を贔屓しようとはしていないことくらい、鳳鴻達も理解できていた。


「僕としては、100%満足出来るものだったからいいけれど」

「私も私もー」


 御雷氷ゼクス君カッコ良かったなぁーと脳天気な少女に、鳳鴻はどうしようとも思わずにこにこしているだけである。

 平和な2人をみて、亜舞照朱雀すざくは目を細めると、「では私はこれで失礼するよ」とフードをかぶり直す。


「誰かから隠れているの?」

「隠居しているという扱いなんだが……、私は普段メディア露出も、ほぼしないのは知っているだろう」

「あー、はいはい」


 そう言って去ってゆく朱雀を、じっと2人は見つめ……その後逆の方向へ鳳鴻は歩き出した。




「あの、そっちは会場の方よ?」

「うん。……でも寮はこっちなんだ」

「あっ、はーい」

 


次回更新は明日です。

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