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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2部 第1章 新学期
252/374

第252話 「結末と磔」

 決闘の結末は、突然だった。

 先程まで、視認するのも難しいほどの激しい駆け引きを行っていたゼクスとりょうの2人は、顕現力が底をつきいきなり消えた遼によって試合が終わってしまう。

 【雷霆斬ライテイギリ】に供給させる顕現力を意識していなかった結果である。


 あっけなく終わってしまった結果に、ゼクスは呆気にとられていた。

 颯に「終わった」と、栄都アインを叩き伏せながら言われてやっと我に返り、審判がゼクス側の勝ちを判断したあとで最初にとった行動は――。


 安全地帯でへらへらと笑っている晦蓮屋……最後まで逃げ続けた臆病者に、【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】を投げつけることであった。


「……え?」


 槍のように飛んで行く【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】は、切れ味を持っていなかった代わりに安全地帯から観客席の奥まで彼を跳ね飛ばした。

 漫画やアニメのように、壁が一部崩壊して磔の状態になった晦蓮屋を横目で視認しながら、次は【始焉】を刀眞遼へ投擲する。


 さきほどまで感心して眺めていたネクサス達も、この行動に対しては理解が追いつかず慌てて立ち上がった。

 観客たちも、見せしめの状態になっている2人と、ゼクスをあっけにとられて交互に見つめている。


「今まで警告していなかったのが悪かったな」


 地面に響くように低く、しかし観客の一人ひとりに聞こえるように顕現力を通して話をするゼクス。

 

「俺が終夜よすがら古都音ことねと婚約関係にあるかぎり、横槍を入れようとした人間には一切容赦しない」


 アレと同じ状況以上にする、とゼクスは磔になっている刀眞遼と晦蓮屋を指差して宣言すると。そのまま颯を伴って会場から去ってゆく。

 慌てて続くようにネクサスら【ATraIoEs(アトラロイス)】組はそれに続き、会場はそのままの状態で放置される。


 観客席で生徒が騒然となっている中、最初に動き出したのは古都音であった。

 顔を少々赤らめながら、席を立つとそのまま会場を後にする。ついていって行先を確かめようとする人間はいない。


 次に動き出したのは神牙アマツである。無言で会場の真ん中へ飛び込み、注目を古都音から逸らすと指をパチンと鳴らす。360度どこからもしっかり見れるようにディスプレイが展開され、そこに映しだされた光景に、観客は静まり返ってしまった。


「これが真実だ」


 アマツが見せたのは、東雲契が【顕煌遺物】の【タナトストルドー】を使って人を襲った映像と、最後の時に雪璃せつりはやてがそれを無効化し、ゼクスが最後に成したことまでの一部始終である。


「これでも、ゼクスが悪者だと。本気で思うのか?」


 少なくとも、その映像だけで颯が下手をすれば【顕現者オーソライザー】人生を終わらせられること、雪璃の背中が黒く塗りつぶしたようにただれ、目をつむりたくなるほどに傷ついている様子は理解できる。

 同時に、蒼穹城進を始めとした数人の怪我が、【顕現者オーソライザー】でない普通の人間なら病院送りどころか冥土送りになるだろうこともわかるものであった。


 アマツは静まり返った会場を一回り見て、静かに姿を消す。

 その声には、最後まで憤慨の表情が見て取れた。




---



「ゼクス君」


 会場を出ていき、終わったと肩の力を抜いて寮に戻ろうとした俺を引き止めたのは、古都音の声だった。

 振り向くと、古都音はちょうど俺に向かって駆け寄ってくる途中で、そのまま次の瞬間には彼女の腕の中に包み込まれている。


 俺は、何も言葉を発することが出来ない。

 正直、少々やり過ぎたという感覚はあるが……そう考えてもいられないものだ。

 刀眞遼との戦いはまだ終わっていないし、俺の復讐もまだ終わっていない。


「……ゼクス君、嬉しかったですよ?」


 ――彼女は一体何を言っているのだろうと、俺は数秒考えたうえで先程のことかと推測した。

 ある意味では脅迫だろうし、またある意味では見本を見せている時点で俺の……実力の提示にもなっていると考えたい。

 これからどうなるかは別として、俺の言いたいことと、これからするべきことは先程言い切った。


 会場に来ていない人は知らないが、そもそも俺達に決闘を挑んだ一団はこちらに反感のある人だろう。

 観客席満員も、結局は俺達がなすすべなくやられる姿を見たい人が大半。そもそも興味のない人間は来ないと考えたほうがいい。


「少し、歩きませんか?」

「……ん?」


 古都音からの提案に、俺はやっと声を絞りだすことが出来た。

 やはり、彼女の中は暖かい。古都音ではなく、斬灯と結ばれていたとして……俺はこのぬくもりを手に入れられていただろうか、と考えてみて「ないな」と確信できたのは、今回が初めてではなかろうか。


「皆様も、よろしいでしょうか?」

「どうぞ。……俺たちも、汗くらいは流したいし」


 颯は、黙って頷くと竜巻を起こして上昇、そのまま寮の方向へあっという間に消えて行く。

 俺はそれを見送って、ネクサス達も見送る。


 そして、2人。そろそろ観客が出てきても良い頃だとは思うんだが、人っ子一人いない。


 でも、古都音は特に気にしていないようで、俺の手をにぎると引っ張り始める。


「……さて、行きましょうか」


 いいや、今回は古都音に任せよう。

 


次回更新は明日です。

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