第251話 「激突」
砂埃と爆発、閃光が同時に巻き起こった時。観客の誰もが「勝負は決した」「御雷氷ゼクスの勝利は確定した」とそう思った。
少なくとも、ゼクスの攻撃は相手に直撃した。目の良い観客なら、【髭切鬼丸】が白い光を纏って一切の手加減なしに防御しようとした【雷霆斬】に叩きつけたのを認めることが出来ただろう。
「――まだだ」
しかし、埃が収まった頃。
刀眞遼は、そこに立っていた。
一旦距離をおいたゼクスを一心に見つめ、体に出来た傷は少しずつ回復していく。
ここでゼクスは、自分を産み捨てた元父親と戦った時もこうなっていたことを思い出す。
「【超回復】……だったか」
そこまで思いついて、灰髪の少年はしかし動じなかった。自分の体に内包されている残存顕現力と、【髭切鬼丸】が先ほど晦蓮屋から吸い取った顕現力を確認し、後どのくらい戦えるか【拒絶】は何度発動できるか、想定してみる。
「颯。もう【拒絶】は必要ないか?」
「問題ない」
先ほどから激しいぶつかり合いを繰り返している颯に声をかけて、現在の消耗を出来るだけ抑える。
とはいっても、相手が回復すればするほど自分達が不利になってくることがわかっているからこそ、ゼクスは次の攻撃準備に入った。
善機寺颯は、両手から黄色と紫色の混じった禍々しい剣を【顕現】していた。
そして刀を構えた少女が向かってくるのに対してカウンターを当てるようにし反撃する。
【瘴】と【燿】、固有の武器である能力を急造ながら1つにまとめる……颯がゼクスに宣言したことを体現するかのように煌めく大剣は、彼自身の能力も相まって栄都アインを圧倒していた。
「余所見をするな」
鋭く斬りかかってきた刀眞遼の一撃を、最低限の動きで避け――。
振り向きざまに握りこぶしを作ったゼクスは、そのまま顕現力を拳へ一点集中させて懐に飛び込み、腹に一撃を加える。
「刀眞遼、晦蓮屋。俺の手から古都音を奪おうとした相手への見本にしてやる」
ゼクスの顔は、怒っている。
父親が「狂うように護る」【狂護者】と呼ばれていた時の気持ちを、多少なりとも理解できたことに喜びながら、彼は【髭切鬼丸】を振るっていた。
自分を認め、自分が認めた人間を未遂とはいえ横取りされるようなことに対しての怒りが、今になってやっと噴出したのだ。
【超回復】で治すのは体の傷のみで、遼は自分が向かっていけば行くほど恐怖を刻み込まれている――ということにはまだ気づいていない。彼の心にあるものは、自分にとって大切な人を殺されたというのに何も出来なかった自分への怒りと、そうした本人への憎しみであった。
御雷氷ゼクスと刀眞遼、どちらも視野は極端に狭くなりほかが見えなくなくなる中――。
常人では捉えられないほどのスピードを出して、遼がゼクスへ突進した。
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「どうも、俺達はもう仕事を終わらせたみたいだね」
そんな戦いから少々離れた場所で、そうぼやくのはネクサス・ファルクシオンであった。
乱れた髪を書き上げたミュラクと、すとんと腰を下ろしたミオはすでに観戦モードへ入っておりネクサスは倒れた人の山と安全地帯に出来た人だかりの2つを見つめる。
リーダーが降参すればこの決闘は終了するらしいが、そのリーダーである少年が降参することをゼクスの顕現特性によって【拒絶】されている以上、決闘はまだ続いている。
ネクサスは、刀眞遼と御雷氷ゼクスの元は兄弟だった2人を見つめた。
そして、興味津々に見つめている2人の婚約者へ視線を移す。
「お疲れ様、ふたりとも。……ミオはどうだった?」
「簡単すぎますね。……やはり、あそこの4人くらい強い人がいないと」
たった3人で200人近く倒してしまった【ATraIoEs】組は、息を速急に整えながら雷と氷、斬撃と瘴燿の戦いを観察する。
【顕煌遺物】と【顕煌遺物】の戦いも見応えがあるが、【顕現】と【顕現】の戦いも見応えは十分にある。
とはいっても、【顕煌遺物】で戦っている双方が回復力と攻撃力で長期戦になる見込みであることに対して……。
【顕現】と【顕現】の戦いは、颯が圧倒しているせいで一部の人間には楽しくないものとなっていたが。
【瘴】、【燿】。そして トラン=ジェンタ・ザスター戦で発現することの出来た颯の本来の力、【煌】の証拠でもある颶風。
大盤振る舞いながら、そこに魅せるような戦いは見られなかった。
「加勢してさっさと終わらせたほうがいい気がするけれど」
「……私情に、俺たちが入り込む余裕なんてないよ。……晦蓮屋とならともかく、刀眞遼はゼクスに用があるんだし」
手でバトンのように【Vy-Dialg】を遊ばせながら、ネクサスは信念のぶつけ合いである【顕現者】本来の戦いをしている2組を見て、理解しながらも退屈だと思わざるを得なかった。
次回更新は今週中かと。




