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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2部 第1章 新学期
247/374

第247話 「決闘の価値」

「ゼクスくんゼクスくん」


 これから試合が始まる。入学式が終わり、決闘用にスタジアムが準備されたその前で、御雷氷みかおりゼクスは月姫詠つきよみ斬灯りとに呼び止められた。

 振り返ったゼクスは、少女が笑っているのを確認し……。


 興味津々に、ミュラクとミオがこちらに注目していることに気づいて、2人のロスケイディア人の視線を無視した。


「斬灯、どうした?」

「古都音先輩は私達と一緒に観戦するから安心して、っていうのと」


 斬灯は、まず少年を安心させる。

 友人として、同じ【八顕】の次代候補として、そして片思いの相手として。まずは彼を決闘へ集中させようとしたのだろう。


「……私たちは、ゼクスくんのことずっと信じてるから、そのへんのことは安心してね」


 そして、自分の気持ちを伝える。

 古都音がゼクスを「拒絶しない」といったように、斬灯もほぼ同じことを少年に伝えた。


 斬灯の意思を感じ取ったゼクスは、ハッとしたように目を見開くと素直に礼を少女に言った。


「ありがとうな、斬灯」

「えへへ。頭なでてくれてもいいのよ?」


 調子に乗り出す少女に対し、仕方ないなと頭を数回撫でるゼクス。

 斬灯は嬉しそうに目をぎゅっと瞑り、彼らに背を向けて観客席に戻ってゆく。


「じゃあ、最前列で観てるからね!」


 途中、1度だけ振り向き、自分たちの観戦している方向を指差す。

 そして次こそ、振り返らずスタジアムの選手控えから去り、姿を消した。


「……月姫詠さん、ねえ」

「ただの友人だよ」

「さあーね?」


 意味深な態度を取るミュラク。ゼクスはこういうの好きそうだなと一度にらみつけ、決闘に集中してくれと懇願した。





 観客席は満員であった。多くの者は、たった5人で300人に挑むゼクスたちを見世物として見に来。

 一部の人は、ゼクスたちが無双することを前提に予想して見に来ていた。


 対峙した彼らに、1歩進みでたのはつごもり蓮屋れんやである。


「よぉ。結局5人しか集まらなかったみたいだな」

「君たちには5人で十分、ってことだよ」


 嘲るような笑いに、涼しい顔で言い返したのはネクサス・ファルクシオンであった。

 ネクサスたち【ATraIoEs(アトラロイス)】の面々からすれば、相手はなんの特徴も持たない有象無象としか認識できなかった。

 もし、この中に【顕煌遺物】と契約を済ませている人間が一人でもいたならば……。例えば、蒼穹城そらしろしんが向こう側についていたのなら、状況は変わっていたのかもしれない。

 しかし、ネクサスが顕現力を伝って感じる限り、【顕煌遺物】どころか顕現特性すら特殊なものを持ち合わせている人間はいなさそうである。


 ネクサスは、心底げんなりした様子で「つまらない試合になりそうだ」と言葉を、わざと晦蓮屋に聴かせるような声量でこぼす。もちろん、晦蓮屋は噛み付いた。


「何だお前。【ATraIoEs(アトラロイス)】所属だからってこの人数差に勝てると思ってるのか?」

「思ってるけどね。【顕現オーソライズ】を持たない一般人なら質よりも数かもしれないけれど、【顕現者オーソライザー】は違うんだ。数よりも質なんだよ」


 自信満々に言い放った言葉は、一振りの槍になって晦蓮屋に刺さった。

 彼の作戦に対してクリティカルヒットしたネクサスの言葉に、なんとか反論しようと声を荒げる晦であったが。


「きさっ」

「ま、簡単にいえば。私達だけを倒そうとしても、【八顕】の有象無象を1000単位で寄越しなさい。それか、善機寺颯レベルを1人」


 ネクサスの意思を組むようにして、話を続けたのはミオ・ミスティスだ。

 男が見れば10人中10人が「美しい」と感じてしまう容姿から放たれる容赦ない言葉は、晦蓮屋や刀眞遼といった主格ではなく……。


 後ろに控えている、便乗した人々に突き刺さった。


「授業では成績であっても、決闘は才能と経験。それがどういうことになるかは、この決闘で教えてあげましょう」


 言い切ったミオは、満足したようにネクサスへ視線を移す。

 少年は少女に対しうなずき、ゼクスと颯に対して「ごめんね。ちょっと喧嘩っ早いんだよ」と弁解した。



 頃合いをはかって、発言をしたのは今回の決闘を判断する審判である。


「今回の決闘は特殊ルールで行う。このデバイスを参加者は絶対につけること」


 ゼクスたち、そして晦たちに手渡されたのは無骨でありながら、腕につけても動きに支障がないほどの小さな装置であった。

 腕時計のようになっており、配布されたのを決闘参加者が装着している間に、説明を始める。


「顕現力が底を尽きたら、所定の場所へ転送される仕組みになっている」


 神牙研究所が開発した瞬間移動装置、である。

 自動的に装着者の顕現力を計測し、限界量まで使用する直前にそれを無効化、同時に安全な場所へ転送して決闘の死亡率を下げるという目的のために創りだされたものである、と審判は説明した。

 

「それ以外のルールは一緒だ。助命は特殊のみ、武器制限は『なし』」

「でもそれって」

「人数差からして許可することにした」


 武器制限がない、ということに少々慌てる晦蓮屋であったが、審判は「この人数差で何を」と言いたそうな顔をしていた。

 そもそも、武器制限は片方だけに課せられるものではない。ゼクス側が制限なしならば、晦側も制限なしなのだ。

 そこに問題はない。


 ただ、ゼクス側にダメージはなくても晦側には大ダメージであった。

 晦蓮屋は、ゼクスが【顕煌遺物】である【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】と「本契約」していると情報を得ている。

 また、ゼクスは世界的にも名高い【顕装】メーカー、【終夜グループ】の全面サポートを受けていることは周知の事実であった。


「今回の決闘は300人対5人の決闘である。制限時間は『なし』。全滅もしくはリーダーのサレンダーにより勝敗がつく」


 審判は、文句を言わせない気迫を持ちながら晦蓮屋陣営を黙らせ、説明を続けた。


「ただし、サレンダー後の処遇は勝利側に一切委任する」

「は?」

 

 しかし、10秒も経過しないうちにまた晦側が反対した。決闘終了後、敗北側の身柄は勝利側に任せるという話も、結局両方の条件は同じなのである。

 それを受けてどれだけ自分たちに自信がないのかと、ロスケイディア二皇国陣営が呆れ返る中で颯はついに我慢できなくなった。


「条件が受けられないなら去れ。半端な気持ちで決闘するものではない」


 我慢ならなくなった弊害か、颯の右手から翼が開くように【ヨウ】の力が噴き出した。

 【顕現オーソライズ】は感情の体現、という言葉通りに会場の半分を覆わんとする颯の力に晦側の数人が腰を抜かす。

 

 今回、決闘をするにあたってゼクスがかけたのは古都音と、この学園においての地位である。

 晦・刀眞側にはリスクが殆ど無い。


 それを理解している人間はあまりにも少なく、遊び感覚で参加表明をした生徒すらいた。

 審判はそれを理解できている。だからこそ、ルールは厳しめであるのだ。


 八顕学園は、確かに【ATraIoEs(アトラロイス)】より教育のレベルが低い学園なのかもしれない。

 が、学園を出てからの……【顕現者オーソライザー】の世界。未だ密かに続く群雄割拠の世界を理解させるのに、決闘というものは一番わかり易いものである。

 

「晦側……。審判の立ち位置から訊くが……そちらに賭けるものはあるのか?」

「……こちらは、この学園の安全を守るためにやっている。犯罪者に居場所を与えてはならない」

「そうか」


 審判は、聞いてみただけで特に興味はないようであった。

 ここでやっとゼクスは審判の正体が気になったようで、その人に見覚えがないか思考を巡らす。


 しかし、いくら思考を回してもその正体はわからなかった。


「双方、準備開始」


 審判が、有無を言わせない気迫で戦闘準備を促した。

 質問はこれで終わりであり、退場者は結局おらず。

 ルールもこのままで行く、決闘がこれから始まる。


 ゼクスは【桜霞おうか】を展開し、【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】を静かに抜いた。

 青く白く、美しい日本刀型の【顕煌遺物】は使われることを喜ぶように煌めく。


 颯は、両手からそれぞれ【ヨウ】と【ショウ】、2つの異なり全く反対に位置する力を発動させ、準備を開始。


 ロスケイディアの三人は、それぞれ自分の固有武器を持って起動と終了を繰り返していた。


「これより、決闘を開始する」


 呆けて準備を始めなかった晦陣営に、最終通告として審判は開始の宣言。

 やっと我に返った数百人に対し、すでに準備も終わっている5人。

 

 観客は何を思っているのだろうか。晦陣営に期待は向けられているのか、ゼクスは疑問に思いつつもそれを振り払う。

 今、集中するのは目の前の決闘である。

 人数差は圧倒的だが質の差も圧倒的だ。


「はじめようか、晦蓮屋。刀眞遼……」


 ゼクスは二人だけに聞こえるほどの声で、にやりと笑いながら言葉を発した。


「ここが、俺の再出発場所だ」

「決闘……はじめ!」


次回更新は遅くて8月15日の月曜日です

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