第246話 「復讐が生み出す復讐」
「……晦先輩は、終夜古都音先輩を手に入れたい。そのために、彼自身の手を使う必要はない……か」
決闘まであと1時間。所変わって空き教室の一角に、刀眞遼ら3人の姿はあった。
遼は落ち着かない様子で足を机にのせてすわり、それを見たアインは不安そうな顔をしながらおどおどとし、進はそれを静観している。
緊迫した状態の中、最初に話し始めたのは遼であった。
「アイン、どう思う?」
「……私は。私は、もういいんじゃない? って思うよ」
「アイン」
今の状況をどう考えるか。遼の質問に、栄都アインは悩みつつも本心を口にする。
蜂統家が終夜家に仕えてきたように、栄都家は刀眞家に代々仕えてきた家系である。自分の恋はかなわないものだったとしても、主人の側でサポートする彼女の立場からすれば、危険な存在である【御雷氷ゼクス】という人間から離れてほしい、と考えるのは至極普通のことであった。
しかし、遼はそんな答えを期待していたわけではない。
立ち上がってアインの胸ぐらを掴み、そのまま持ち上げ凄みを帯びた声で低く唸る。
「ふざけるな。俺の復讐に文句でもあるのか?」
「ひっ」
バチバチ、と遼の両手から電気が弾けて少女の目の前で炸裂。
それを見た進が腰を上げて遼の肩を掴み、遼がアインを持ち上げた時のように強引に引き剥がす。
そして、冷め切った目で遼を睨みつけた。
「やめなよ、遼」
「進もかい?」
「見苦しいよ。女の子に八つ当たりするなんて」
「……女の子を電池扱いしたお前に言われたくないな」
刀眞遼は、怒っていた。
彼女を救えずに傍観者としかなれなかった自分にも怒っていたが、彼女を追い詰めるように「モノ」として扱っていた進や、傍観者どころか離反した善機寺颯にも同様の怒りを蓄えている。
自分は少女を守ってやれなかった、と後悔しているが。蒼穹城進と善機寺颯はそもそも後悔すらしていないのだろう……と。
「僕はいちいち否定したりしないよ。復讐は何も生まないなんて言わない。もともとは僕の責任だし、責めたいなら責めればいい。」
進は、自分の罪を認めた。目の前の少年が東雲契に思いを寄せていたことは知っていたが、その頃はそれすら「そんなこと」で済ませてきたのだ。
だからこそ、今は認められる。罰せられるのなら罰せられたいところであるが、それも御雷氷ゼクスの復讐によって【顕現者】的に半身不随になり。
目も腕も片方が擬似的なものに変わったことで、遼はこれ以上何かをしようとする気も起きなかった。
「けれど、それを諭そうとする人間に逆上するのは良くない」
チッ、と。
遼は舌打ちをして、吐き捨てるように言葉をこぼす。
「お前、本当に悔しくないんだな」
「……そうだね。僕は冷徹な人間なのかもしれないね」
進も、この半年間いろいろと考えたのだ。しかし、悲しみや後悔という感情は思ったほど湧いてこず、また自分の今後も考えられなかった。
蒼穹城は落ちぶれた。【八顕】での発言権はほぼなく、次代からも苦労必至である。
刀眞家よりは状況は良いのかもしれないが、それでもどっちもどっちの状況であった。
「でも、もう自分を振り返ることにしたよ。僕は」
自分を振り返っても、いいところは何も考えつかなかった。
今まで、自分がどれだけ自分勝手にやってきたか、はっきりしただけであった。しかしそれも、全くしていない人よりはいいだろうと考えている。
「君は、今になっても過去を振り返らないのかい?」
「それとこれは……別だろう。俺は……俺は……」
遼の言葉は、次第に尻すぼみなものとなってゆく。
そんな彼を進はただ見つめていた。
「……遼。最後にしましょう?」
「そんなわけには行かない。それでは満足できないんだ。……ゼクスに地獄を見せるまで」
暴走気味の遼に構っていられないと、進は「気持ちを落ち着かせてから決闘に挑むんだよ」と諭してから教室を後にする。
数分歩き、校舎を出て周りに誰もいないことを確認してから大きくため息。
「復讐って、やっぱり復讐を産むのか……」
と、元も子もない話を考えついたのだった。
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