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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2部 第1章 新学期
246/374

第246話 「復讐が生み出す復讐」

「……つごもり先輩は、終夜よすがら古都音ことね先輩を手に入れたい。そのために、彼自身の手を使う必要はない……か」


 決闘まであと1時間。所変わって空き教室の一角に、刀眞とうまりょうら3人の姿はあった。

 遼は落ち着かない様子で足を机にのせてすわり、それを見たアインは不安そうな顔をしながらおどおどとし、進はそれを静観している。


 緊迫した状態の中、最初に話し始めたのは遼であった。


「アイン、どう思う?」

「……私は。私は、もういいんじゃない? って思うよ」

「アイン」


 今の状況をどう考えるか。遼の質問に、栄都えいとアインは悩みつつも本心を口にする。

 蜂統はちすべ家が終夜よすがら家に仕えてきたように、栄都家は刀眞家に代々仕えてきた家系である。自分の恋はかなわないものだったとしても、主人の側でサポートする彼女の立場からすれば、危険な存在である【御雷氷みかおりゼクス】という人間から離れてほしい、と考えるのは至極普通のことであった。


 しかし、遼はそんな答えを期待していたわけではない。


 立ち上がってアインの胸ぐらを掴み、そのまま持ち上げ凄みを帯びた声で低く唸る。


「ふざけるな。俺の復讐に文句でもあるのか?」

「ひっ」


 バチバチ、と遼の両手から電気が弾けて少女の目の前で炸裂。

 それを見た進が腰を上げて遼の肩を掴み、遼がアインを持ち上げた時のように強引に引き剥がす。


 そして、冷め切った目で遼を睨みつけた。


「やめなよ、遼」

「進もかい?」

「見苦しいよ。女の子に八つ当たりするなんて」

「……女の子を電池扱いしたお前に言われたくないな」


 刀眞遼は、怒っていた。

 彼女を救えずに傍観者としかなれなかった自分にも怒っていたが、彼女を追い詰めるように「モノ」として扱っていた進や、傍観者どころか離反した善機寺ぜんきじはやてにも同様の怒りを蓄えている。


 自分は少女を守ってやれなかった、と後悔しているが。蒼穹城そらしろしん善機寺ぜんきじはやてはそもそも後悔すらしていないのだろう……と。


「僕はいちいち否定したりしないよ。復讐は何も生まないなんて言わない。もともとは僕の責任だし、責めたいなら責めればいい。」


 進は、自分の罪を認めた。目の前の少年が東雲契に思いを寄せていたことは知っていたが、その頃はそれすら「そんなこと」で済ませてきたのだ。

 だからこそ、今は認められる。罰せられるのなら罰せられたいところであるが、それも御雷氷ゼクスの復讐によって【顕現者オーソライザー】的に半身不随になり。

 目も腕も片方が擬似的なものに変わったことで、遼はこれ以上何かをしようとする気も起きなかった。


「けれど、それを諭そうとする人間に逆上するのは良くない」


 チッ、と。

 遼は舌打ちをして、吐き捨てるように言葉をこぼす。


「お前、本当に悔しくないんだな」

「……そうだね。僕は冷徹な人間なのかもしれないね」


 進も、この半年間いろいろと考えたのだ。しかし、悲しみや後悔という感情は思ったほど湧いてこず、また自分の今後も考えられなかった。

 蒼穹城は落ちぶれた。【八顕】での発言権はほぼなく、次代からも苦労必至である。


 刀眞家よりは状況は良いのかもしれないが、それでもどっちもどっちの状況であった。


「でも、もう自分を振り返ることにしたよ。僕は」


 自分を振り返っても、いいところは何も考えつかなかった。

 今まで、自分がどれだけ自分勝手にやってきたか、はっきりしただけであった。しかしそれも、全くしていない人よりはいいだろうと考えている。


「君は、今になっても過去を振り返らないのかい?」

「それとこれは……別だろう。俺は……俺は……」


 遼の言葉は、次第に尻すぼみなものとなってゆく。

 そんな彼を進はただ見つめていた。


「……遼。最後にしましょう?」

「そんなわけには行かない。それでは満足できないんだ。……ゼクスに地獄を見せるまで」


 暴走気味の遼に構っていられないと、進は「気持ちを落ち着かせてから決闘に挑むんだよ」と諭してから教室を後にする。

 数分歩き、校舎を出て周りに誰もいないことを確認してから大きくため息。

 

「復讐って、やっぱり復讐を産むのか……」


 と、元も子もない話を考えついたのだった。


次回更新は今週中です。

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