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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2部 第1章 新学期
244/374

第244話 「楓と昴、聖樹と鳳鴻」

すばる、久しぶり」

「や、やあ。かえでさん」


 桜舞い散る【顕現者オーソライザー】候補生の育成機関、八顕学園に一組の男女は出会っていた。

 片方は、限りなく中性的で性別のわかりにくい男子生徒。ひと目だけでは美少女とも見紛うほどの美貌を持った人。

 もう片方も、深緑の髪の毛を上品に垂らした美しい少女だ。新1年生ながら、それはすでに「可愛い」という表現ではなく「美しい」という表現のほうが似合っているといえよう。


 男の方は神牙かみきば昴、女の方は善機寺ぜんきじ楓。共に、新2年となったアマツと颯の弟と妹であった。

 両方共【八顕】の次代候補でもある。共通点は少ないとも多いとも言えない。


 淡々とした話口調の楓とは真逆に、どこか緊張している素振りをした昴はチラチラと少女の方に目をやってはすぐにそっぽを向いていた。


「昴、挙動不審」

「……久しぶりだなって、思って」


 夏会った時よりも美しくなったね、と言おうとして言い出せない昴の様子に気づくことなく少女楓は周りを見回す。

 【八顕】、という事もあってこちらに注目している人間は少なくない。特に去年の神牙家主催のパーティの中継を見ている人も多いのだろう。楓に目を奪われる男子生徒も居れば、昴の姿を見て色めき立つ女子生徒も居た。


「ここが集合場所で問題ない?」

「うん、ここで問題ないよ。……入学式には参加する?」

「…………」


 少年の問いかけに、楓は黙って頷く。

 その後で、「君が代表者で挨拶をするから、聞く」と発言。


 少女楓の一言の攻撃力が高く、昴は赤面してうつむいてしまった。昴→楓の片思い、という状況を知っているのは少年側だけで楓はそれを知らない。

 だが、自分の言葉が原因で目の前の少年がそうなっているということは、理解できた。


「……ごめん」

「ううん、嬉しかった」


 首を振って、頭のほてりをすっきりさせた昴は……。

 近づいてくる人影を認めて、顔を赤らめてなくて本当に良かったとタイミングに感謝した。


「颯さん、ゼクスさん。お久しぶりです」

「久しぶり、スバル」


 今日から先輩ですね、と話しかける昴に対してゼクスは慈しむように目を細めると、「早いがスバルも楓も入学おめでとう」と笑い楓と同じように周りを見渡した。

 こちらへの注目が1段階上がった代わりに、空気が張り詰めたことを確認して肩をすくめる。


「スバルたちはもう知っているかもだが、入学式の後に決闘が控えているんだよ」

「……ああ、聞き及んでます。最終的には250対5でしたっけ、観戦させていただきます」

「兄貴が有象無象に負けるはずがない」


 自信満々に言ってくれるのは有り難いことだな、と颯は妹の頭をなでつけるとゼクスと視線を交わす。

 ゼクスはすぐにそれを理解し「俺たちはこれで失礼するよ」と、昴と握手をして去っていった。


 ……空気が、元のものに戻る。


「……俺はよくわからないけれど、楓さんから見てお兄さまはどうだった?」

「兄貴はいつもどおり。自分のしたいことをし、ついて行きたい人に着いて行く。その行動に迷いは見られず、一陣の風のように場を支配する。ゼクスさんは私の見る限りは何処までも率直で明確。敵は敵で味方は味方。敵は断固として拒絶し、味方は受け入れる」


 なんだか詩的だね、と昴は少女の発言を評して彼女の兄と、その従兄弟の後ろ姿を見つめながら考えた。

 学園に入ってくるまでに、昴はあの2人の噂を風の便りに聞いている。


 昴が知っている限り、あの2人が最強なのだ。

 この学園で、最も特異で最も強い、そんな存在なのだ……と。


「私は兄貴に着いて行くけれど、昴はどうするの」

「……僕は」


 ここで昴は考える。確かに【八顕】は、刀眞家の失脚と交換で御雷氷家の加入が決定し。

 また蒼穹城家は発言権をほとんど持っていない。


 神牙家は……御雷氷家よりも、今は鈴音冷撫のことで大変だ。

 学園ではどうするか、昴には一つの課題となっていた。


「僕は……。とりあえず、今日を過ごしてから考えるよ」


---



「……ここが八顕学園、なんだね」


 所変わって八顕学園の門に、今しがた車椅子で進入した少女が居た。

 その後ろには鳳鴻おおとりが、ゆっくりとそれを押している。


 目に眼帯をした、少女の名前は愛詩いとし聖樹みさき

 少女は、見えない片目も輝かせながら周りをキョロキョロと見つめていた。


「今日から、鳳鴻との生活が始まるんだね」

「……そうだよ。出来るだけ一緒にいられるように、こっちが調節するよ」

「出来るの? 無理はしないでね」


 正直、車椅子という特殊な状況では聖樹も不安ではあった。だからこそ鳳鴻の申し出は嬉しいものである、がやはり申し訳ないという気持ちがにじみだしてしまうのだ。

 鳳鴻というと、目の前に居る少女と一緒に居られる「今」という瞬間を純粋に喜んでいる。


 この数年間、それがかなわなかった。だからこそ、復讐を遂げて危険も「排除」しきったいまから新しい人生は始まるのだ。


「鳳鴻が言ってた、御雷氷君にも会ってみたいな」

「そうだね。それは入学式が終わった後だね」

「……なんだっけ、決闘?が、あるんだよね」

「そうだよ」


 この学園の状況を知るには最も手っ取り早い方法だろう。鳳鴻はそう判断して、彼女を決闘の観戦に誘い聖樹は快諾する。聖樹は自分の非力さをよく知っている。

 だからといって、常に「守られる側」に甘んじられるほど面の皮が厚いわけではない。


「……私、自衛が出来るくらいにはなりたいな。それがこの学園での目標」

「そうだね。……情けない話だけれど僕にも限度がある」


 亜舞照鳳鴻は元々、顕現特性からして分かる通り精神への攻撃を主体とする【顕現者オーソライザー】だ。もちろん【顕装】である【WARCRY】から、膨大な顕現力自体を使って通常通りの【顕現者オーソライザー】としての戦闘も可能ではあるが、得意ではない。

 少なくとも颯やゼクスのように極化している、というわけでもないが。


 それに、めったに彼のアイデンティティである【精神操作】ですら使いたがらない。

 学園で去年使ったのは、結局片手で数えられるほどに留まっている。


「……一緒に成長しようよ、聖樹」

「うん。鳳鴻と一緒なら、大丈夫だって私信じてるよ」

「僕だって……信じてきたし、これからも信じてる」


次回更新は明日です。

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