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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2章 授業選択期間
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第024話 「出逢い。邂逅とすべきか」

 父さん母さんを見送って、俺は学園門から踵を返した。

 まずは医務室に行くべきだろう。アマツの様体を確認して、父さんから言われた言葉を冷撫に伝えて。

 冷撫を安心させなければ。


 医務室は八顕はちけん学園の6つの校舎のうち、真ん中に位置する巨大な校舎の中にある。

 単に医務室、と言っても【顕現者】育成機関。最新設備が整えられていて、入院も出来る。まあ全寮制だからね。


「およ、八龍ゼクス君じゃないか」


 「およ」という不思議な反応を示す俺の知り合いは一人しか居ない。

 須鎖乃すさのアズサさんだ。前に進む足を止めることなくそちらに目線をやると、アズサさんは慌てたように付いてきた。


 後ろで「待って」「ねえ」「話し聞いて」「止まって」なんて声が聞こえてくるが無視する。

 俺は今から医務室に行かなければならぬ。

 医務室に言って、冷撫を安心させねばならぬのだ。


「泣くよ?」


 アズサさんの脅しに、俺はやっと足を止めた。

 特定の人物には極悪非道な俺であっても、恨みのない人を泣かせるようなことはしない。

 立ち止まって彼女が追いつくのを待つと「わーい」、と先ほどのセリフは何処へやら。

 子供のように喜んだアズサさんは、両手を広げて襲いかかってくるではないか。


 俺は不測の事態に対して、【顕現者】特有の高機動を使ってバックステップを踏む結果になってしまった。


「冗談なのに」

「やっていい冗談と、やってはいけない冗談がある」


 普通にほかの人と接することは出来る。そこまで俺は重度ではないが、一気にパーソナルスペースを詰められると拒否反応を起こす。

 多分、まだ人間不信の節があるんだろうなと考えるのが適当だろう。


 だから、今はまだアズサさんの行為に対して拒否反応しか抱かない。


「それは済まない。……ちょっと紹介したい人がいるのだけれど、構わないかな?」


 紹介したい人? 俺に?

 何が何だか分からないが、今から医務室に行かなければならないことを伝える。

 それを相手も理解しているようで、「でも、少し時間がほしいんだ」と。


 俺を貶めようとしている? いや……んー。

 その純真無垢な瞳を見つめていたら、そんなはずはないと考えてしまうんだけれど。


「分かった」

「それは良かった。みんなー出てきていいよー」


 みんな?

 と俺が違和感を覚える前に、姿を表したのは男2人に女2人という編成だった。

 全員ただならぬオーラを放っている気がする。


 そして、全員綺麗。綺麗だという表現は間違っているのかもしれない。

 麗しい? いや、可愛い? ……頭が混乱してきた。


「一人ずつ紹介する。こちらが亜舞照あまて鳳鴻おおとり

「【八顕】所属。宜しく」


 うわぁ、すごい名前。

 俺が言うのもどうかと思うけれど。


 やっぱり、【八顕】って名前だけじゃなくて苗字も凄い。

 「須鎖乃」「亜舞照」は日本神話の三貴神から取ってきているんだろう。


 その名前に、なんの意味が込められているのかはわからない。けれど、神牙家のように意味が込められているはずだ。

 俺は亜舞照さんと握手をしながらそう考えた。


 煌めく金髪の好青年、といったところか。制服もバッチリ着こなしていて、アズサさんと比べるとどうしても……真面目で堅物なイメージ。

 アズサさんが軟派すぎる感覚が強い。


「昨日のアレ、見かけたよ」


 何故、とは思わなかった。

 あの程度だったら少し離れたところで見ることは出来る。安全にという訳にはいかないだろうが。


 アズサさんのように、見ていたということか。


「あれは極秘にしたほうがいいのかなと思って、このグループだけの秘密にしているけれど」

「助かります」

「あの……同い年なんだけど?」


 それは、敬語はいらないということだろうか。

 でも俺からすれば、15歳にしては人間ができすぎている気がするけれど気のせいか。

 そうかー気のせいかー。


 なら仕方ないな。


 こほん、とアズサさん。わざとらしく咳払いをして周りをしらけさせる。

 亜舞照さんは、なんか冷たい表情でそちらを見つめていた。


「こっちが月姫詠ツキヨミ斬灯りとと、終夜よすがら古都音ことね。古都音だけ2年生」


 月姫詠姓の少女は、……正直アマツやアズサさんよりも酷い格好で制服を着ていた。

 あれはもう制服じゃないだろ。改造して着物風にしてしまっている。


「何処見てるの?」

「制服」

「胸じゃないの?」


 容姿は、うん。確かに胸は大きいのだろう。だけれどよく分からない。

 着物って、体の凹凸を見せないようにされているから、貧乳の人の方が似合うという話を聴いたことがあるがそのとおりだ。


 胸の部分がなんだか、均整が取れていない。


「ない」

「酷い」


 初対面なのに酷いこと言っちゃった? まあいいや。

 変な改造制服を着ている三貴神苗字の1パーツから目を離し、俺は終夜よすがらと紹介された少女を見つめた。

 そして思った。

 

 なんだこの「ハイブリッド完璧少女」は、と。


「古都音と呼んでいただければ有り難いです」


 そう言葉を紡いだ口は、顔は均整の取れている人形のような美しさで、変に改造している月姫詠さんよりも大和撫子っぽい。

 紡がれた声は涼風のように耳を通って脳に響き渡り、その声を聞いているだけでリラックスできた。


 髪の毛は艷やかな黒だ。それを姫カットにしていて、さながら平安時代の貴族を感じさせる気品に溢れている。


 体型は貧乳。……やっぱりこっちのほうが和服は似合っているんじゃなかろうか。

 気品に溢れていながらどこか奥ゆかしさを感じて、でも堂々としている目の前の少女は、固まったように動かない俺を見つめ返して小さく微笑んだ。


 ……先ほど、父さんが相当下衆ゲスいことを言って居た気がするが、分かる。

 分かるよ。自分の頭がおかしくなったのかもしれない。

 

 【神牙結晶】が、俺の欲望を抑えるために急激な勢いで消耗しているのが予想できた。

 抑制してこれ。多分なかったら襲ってるな。


「ええと、二人共見つめ合っているところ悪いんだけれど」


 アズサさんが拗ねたように不満を漏らして、俺はやっと彼女……古都音さんと数分ただ見つめ合っていたことを自覚した。

 ……普通なら恥ずかしさで耳まで赤く染まっていただろう。実際古都音さんの方はそうだった。


 しかし、俺はそうならなかった。

 最後の一人を紹介したがっている様子のアズサさんを見つめ、頷く。


「で、これが蜂統はちすべアガミ」

「これっておい」


 人間扱いされていなかったな。




次回更新は夜になる予定です。

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