第232話 「護人の帰還と表現」
2016.07.13 1話め
終夜古都音に颯がゼクスからの伝言を伝えた次の日。
「……アガミ?」
颯は、目の前にいる人間が信じられないような顔をしながら唖然としていた。
目の前には、現在留学中であるはずの……終夜家の楯。蜂統アガミがいる。
その目には自信が宿っており、豊かな笑顔を湛えて颯達を見つめている。
「あっちの学園は休暇が始まるのが早いのさ。だからこっちに来た」
俺、結構成長したんだぜと得意げに話すアガミに、古都音は「おかえりなさい」と声を掛ける。
アガミの顔に、【顕現】に寄る攻撃ができず悩んでいた表情は見当たらない。
「善機寺、ところで許可証を持ってどうしたんだ?」
「所用で実家に一度戻る。明日には、戻れるはずだ」
俺がそう答えると、アガミは頷いて任せろといったようにサムズアップする。
こちらは問題なさそう。なら、俺は自分のしたいことをさせていただこう。
俺はそのまま飛び上がると、竜巻を顕現して一直線に学園門へ向かう。
アポイントはすでに取ってある。父さんはいないが、あるいみでは居ないほうが都合は良い。
それにしても……左手の痛みが時折悪化しているようにも感じられた。指すような痛みではないけれど、あの時……晦蓮屋に使ったときから、時間が経つにつれて鈍い痛みが侵蝕している。
たった数回の使用でこれだけ痛みを伴うとするのならば、できるだけ使わないほうが良いのかもしれない。
しかし……。使いこなすと宣言したのだから、なんとかして自分のものにしなければ。
瘴気の込め方はよく分かった。
右手から射出すればこの、新種の力を発動することが出来る。
効果はよくわからないが、神牙アマツに協力してもらった時は防御貫通、というよりも無効化が近い。
鎖が最も顕現しやすいものであり、ゼクスの【拘束】と、一見よく似たような能力を得たような気がする。
誰に聞いても力の正体はわからなかった当たり、自分で探るしかないようだ。
それは左手も一緒で。
……少なくとも、普通の【顕現】を扱う【顕現者】からは逸脱していたというのはわかっていたが……。
顕現特性と【顕煌遺物】をメインで使うゼクスと同程度に【顕現者】総合としても異端になるのか、俺は。
悪い気はしないから問題はないのだがな。
むしろ、変わっていた方が共通点が増えて親近感を覚えるし、同時に同じような能力を持っているのならば。
連携を取るのも容易い。ゼクスには好き勝手暴れてもらえばいい。
俺は、それに合わせる。
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「あら、おかえりなさい。颯」
御雷氷家から車で15分ほど北の場所。敷地内に小さな山がまるごと入っている広大な武家屋敷、それが善機寺家である。
元々は【顕現者】として認められず、はぶれた人間を匿いつつ共同生活を送る団体であったが、今はそんなこともなく。
この、武家屋敷も修行にくる人と善機寺家だけがいる場所となってしまった。
玄関で俺を出迎えたのは、母親である奏魅。
柔らかな笑みを浮かべてこちらを向いているが、その顔は少々堅い。
それもそのはず、いきなり昨日「母さんに話があって明日帰りたい」なんて言い出せば、何が起こったのかと気になるところだろう。
「どうしたの? 学園で嫌なことでもあった?」
「いや……ちょっと、困ったことになった」
俺は、この話を言い出すかどうか迷った上で玄関で話をすることではないと判断する。
中にはいろう、と提案すると「それもそうね」と納得して居間に入るよう指示された。
待っていると、茶を持ってきた母さんが入ってくる。
久しぶりの感覚だ。やはり、学園に居た頃に感じられなかった無償の愛情をひしひしと感じることが出来る。
「母さん、質問があるんだ」
「はい?」
「御氷冷躯さんを好きになった時の気持ちってどんなものだった?」
その途端、腰を落ち着けて茶を口に含んだ母さんは盛大にそれを噴き出した。
慌てて布巾で机を吹きながら、「なっ……なっ」と口を詰まらせている。
「……えっえっ。どうしたの……?」
「家族以外の人に向ける愛情がどういうものなのか知りたくて」
「……確かに、颪は妥協としてだったけれど。最終的に愛し合えたから、颯は生まれたのよ?」
落ち着こうとしつつ、顔を赤らめながらも現在の夫への気持ちをまず伝えるのは、それが本気だからだろう。
でも、俺が知りたいのはそれではない。学園時代の未熟な恋慕を知りたいのだ。
終夜先輩は、御雷氷雪璃が俺を慕っていると言っていた。
恐らく、あの時……東雲契を無力化するときにやったのが直接的な原因だろうとは考えられるが……。
「……学園時代は、冷躯君をみるだけで心がきゅんきゅんした。最初から答えは決まっていたみたいで、私を拒否も拒絶もしなかっただけって気づいたのはかなり後だったけれど」
答え、というのはカナンさんのことだろうか。
……最初から決まっていたが、……まあ大切な人なら全員まもってみせると宣言していた事を俺は知っているし、同時に【狂護者】と呼ばれていたのも知っている。
優しさか、甘さか。多分前者だろう。
しっかし、分からない表現だな。
「……心がきゅんきゅんする、とは?」
「繰り返さないで、とても恥ずかしいのよ。……真顔で訊かないで、本当に」
相変わらず熟れたトマトのように顔を紅潮させている母さんは、頭を振って机に突っ伏す。
相当恥ずかしかったのなら、最初から表現を変えればいいと考えたのは、俺だけだろうか?
次回更新は明日以降です。




