第023話 「八龍家の僅かな時間」
更新我慢できなかった。
「正直、ゼクスは要らなかったな」
学園長の話が終わり、両親を見送るために学園門へ向かう。
父さんも同じ意見だったようで、「ついでにいえばカナンも要らなかった」なんて言って怒られている。
「それよりもゼクス。善機寺家の長男を昨日ぼこぼこにしたって?」
「あー、うん」
「あそこに行く前、医務室にアマツくんを見舞いに行ったら、逆側に入院してるのな。【三劔】当主としては失格かもしれないが、笑った」
怒られるのかとビクビクしていたが、笑いをこらえようとビクビク……ではなくピクピクしているのは父さんのほうだった。
そんな彼とは逆に、母親のカナンさんは心配そうな顔をしている。
「ゼクス、無理は駄目よ?」
「大丈夫。昨日あれだけ【re】式使ったのに、全く疲れないとは思ってなかったから」
ああー、やっぱりこの空間はいいぞ。
自分の素を全くのつっかえなくさらけ出せる。
母さんは、「本当?」と未だ心配そう。
それを安心させるように、父さんが説明する。
「だって1ヶ月前まで、あのレベルの戦いをずっと俺と……へぶっ」
カナンさんの腹パン、今クリーンヒットしたぞ。
日本史上最強の【顕現者】が、今敗北を認めるように地面へ倒れこんだ。
鍛錬の場に、いつも母さんはいなかったからね。
今その全貌を知った、というような顔をしている。
「そうそう、アマツくんのことだが今週には目覚めるだろうってさ。後で言ってやるといい」
誰に言うかは、もしかしなくても冷撫のことだろうな。
ちなみに学校は、休校になった。
休校というよりは、1年生だけ休みという形。
本当は授業についてのガイダンスを行う予定だったらしいんだけれど、試験場でやる予定のが昨日でおじゃんになったらしい。
1学年全部が入る場所は、他に6つあるけれど何せこの「学園」っぽい育成期間は7年。
一般人の大学卒業まで続くからね。
「人間関係はどう?」
のそのそと、父さんが起き上がるのを一瞥しながら母さん。
とりあえず須鎖乃家の娘をアマツに紹介してもらった旨を伝える。
ああ、アズサちゃんねと納得の言ったような顔で、母さんは頷いた。
知り合いかな? 十中八九知り合いだろうけれど。
「あそこら辺の人たちとは交流を持った方がいいわね。【八顕】の立場を見ても、蒼穹城家と対立してるから」
「へー」
「しかも、将来のことを考えるならあの周りにはフリーの可愛い女の子が多い!」
意気揚々と、相当下衆なことを言いおった父さんは、男の大切なところにカナンさんの回し蹴りを食らって悶絶していた。
史上最強といっても、男は男という際たる例だと思う。
「冗談はさておき、ゼクスは【三劔】八龍家の長男なんだからね? 将来のことは、この7年で決めた方がいいよ」
こええ。
超こええ。
でも、7年か。
これを短いと捉えるか、長いと捉えるかで大きく意味は違ってくる気がする。
まず、1年こそクラス分けが特殊だけれど。
2年からは実技・実践・実戦テストの結果で割り振られる。
そこに身分は関係ない。強い人が上のクラス、弱い人が下のクラスだ。
ここは学校でないから、上のクラスと下のクラスの授業内容の質が全く違っても文句は言えない。
2年からはギスギスするだろう。その中で、人間関係を作って、ひいては……彼女を作ったり、将来を決めたりする。
んおお。
短いよ。超短い。
たった7年でこれ以降の人生全部決まるとか怖すぎるだろ……。
とか言っているうちにもう学園門である。
俺がここから出ようとするには許可証がいるからね、今はでれないんだけれど。
と、父さんが俺の方を振り向いた。
「ゼクス、5月の会議は出るか?」
「11家の? 何故?」
「楽しそうだから」
うちの父さんは愉快犯か何かかな。
強烈なものを感じる。
「ま、理由はさておき考えといて。どうせ日曜だろうし休みだろう」
はいはい、適当に手を振る。
でも、会えて気分が晴れやかだ。
ーーー
「またキレてー。冷躯貴方、最近ピリピリしてない?」
「だって息子だぞ? バカにされたら怒るだろカナンも」
「確かにそうだけれどね? でも、あの名前は正解だったでしょ?」
「イメージの一新、日本人らしからぬ名前、……んああ?」
「いいわけ無いだろ、俺は反対したぞ」
「胤龍よりはマシだと思うけれど。それとも『ゼクス』部分を漢字にすれば……」
「それは絶対にない」
「不定期」って便利な言葉。
次こそ更新は明日です。




