第229話 「御雷氷家にて報告」
1週間ぶりですね。
学園を出、門衛達に礼をしてから最寄りの駅へ向かう。
今回、俺には護衛も送迎の車もつかない。いや滅多につくことは無いのが現実だ。蒼穹城や當眞と違って、善機寺には多少の明確な敵というのは存在するものの、表立っては仲がよく巧妙に見せかけられているから。
【八顕】の次代候補の誘拐は……小さい頃は未遂で何度かあったらしいが、この数年……特に、学校に通い出した頃からめっきり無くなってしまった。
それは、【八顕】に含まれている潜在能力に相手が恐れを成したか、他の理由があるのかはわからないけれど……も、だ。
一番に考えられる理由というのが俺がその時期に【一煌】として認められたからで、異例中の異例だったこともあって一気に有名になってしまった、というのもありそうではある。
結局、父親にあこがれて【顕現属法】しかほぼ扱わない【顕現者】となってしまったが。むしろ今までは【顕現】ができず、【一煌】の称号を得ても劣等生のレッテルを貼られていた時期よりも良い。
なんせ、俺は「使わない」であり、ゼクスは「使えない」だから。
それが欠点だと思えないのは、ゼクスの実力や才能がそれを補って余りあるものだからだろう。
それに意志もしっかりとしている。それは【顕現】や【顕現属法】、特性を最大限に引き出すものであるし、同時に老若男女問わず人を惹きつけるものだ。
そんな彼は、表に出さないものの今悩んでいるだろう。
「…………」
電車に乗り込みつつ、俺は自分が「仕えている」と主張した主の事を考えた。
最近、ゼクスのことを考え過ぎだと指摘されているが……関係ないか。
俺は自分のしたいことをする。
そこに強制力がないからこそ、本来の力を惜しみなく発揮できるというものだ。
「それにしても、将来……か」
とても難しい問題だ。今まで、魅力的な女性にほとんどであったことが無いから……。
「今の俺には難しすぎるな」
また今度、考えるとしよう。
終夜先輩が言っていた、御雷氷雪璃との関係も、考えてみなければ。
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「おじゃまします」
「どうぞ」
自宅謹慎中のゼクスの様子は、いつもとほとんど変わりないようにも見えた。
顔色が少々、いつもよりも青い気がするが、その声はしっかりとしたものであり、特段疑問を抱くほどのものではない。
むしろ、調子は良さそうに見える。復讐をついに一度、完遂できたのだから当たり前なのかもしれない。
「荷物……と。終夜先輩から伝言だ」
終夜先輩、という単語を聞いてもゼクスは殆ど表情を変えることはなかった。
余裕がある、というわけではないようだけれど、ゼクスのことだから問題は無いだろう。
俺は伝言を口から発する。
今まで、元々の家族に拒絶され、拒絶し。
元親友・幼なじみに拒絶され、拒絶してきたゼクスにとって、終夜先輩の言葉は彼にきちんと届いただろうか。
……その表情を見る限り、問題はなさそうだな。
「あと……冬休みには必ず会いに行くから、と」
「どこまでも古都音らしいね。……でも、良かった」
何かのタガが外れたのか、ようやく表情を決壊させた彼の目には何がうつっていただろうか、俺には想像が及ばなかった。
自分も終夜先輩と同じ気持である、ということを伝え来年までどうするのか聞いてみる。
「俺はもっとつよくなるよ。……俺への反対意見はひねりつぶせるほどに」
その言葉は、この世界を程よく表しているようにも感じられた。
だからこそ、納得が出来てしまうようにも……考えてしまう。
「ともあれ、俺のやるべきことは決まっているからな。……好きに使うと良いぞ」
「……そう言ってもらえると本当に助かるよ、颯。……来年は大忙しだろうし」
……きっと、彼の考えているのは【ATraIoEs】についてのことなのだろうな。
蜂統アガミから聞いたが、どうも半年ほど留学しにいけるらしい。
メンバーは定員5人で蜂統が決定権を持つ。
が、……彼自身と終夜先輩、ゼクスはまずはずさないだろうし、ゼクスは俺も誘いたいと言ったらしい。最終的には恐らくはになるだろうが、御雷氷雪璃も選ばれるのだろう。
しかし、それは来年度の後半の話だ。
前半は、向こうからネクサス・ファルクシオン達がやってくる。
確かに大忙しだろう。
同時に、楽しみである。
すべての情報は聞き及んでいるはずのファルクシオン……並びに【ATraIoEs】から、そんな招待が来るとは思っていなかっただろうから。
【ATraIoEs】に向かえば、俺はもっとつよくなれるだろうか。
ゼクスや、ゼクスが大切にする人間達を今まで以上に守れるようになれるだろうか。
「……俺はそろそろ学園に戻る」
「……ああ。雪璃の事、よろしく頼む」
俺は腰を上げながら、それはどういう意味だろうかと少々考えこんだ。が、すぐに思考を振りほどく。
今は、そんな事をしている時期ではない。
次回更新は明日以降です。今月はもう、これ以上に更新頻度は堕ちないと思います。




