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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第9章 【毒】と【力】
227/374

第227話 「病室にて」

2016.06.30 1話め

「善機寺君、大丈夫?」


 ゼクスが復讐を完遂してから、約1週間が経った。

 俺、善機寺ぜんきじはやては今、学園の医務室で依然として半入院中ということになっている。


 ゼクスの精神はとても落ち着いていると思われる。身体に異常もなく、【八顕】当主の働きかけにより、来年度の直前までの自宅謹慎ということにとどまった。正直権力でどうにかした、という印象しか受けないが神牙アマツが何かしたらしい、ということは分かった。

 進級は危ういと思われるが、単位制で良かったと思おう。免除された授業は数多く存在するし、それらは取り消しにならないそうだ。


 しかし……1年多くなるのか。俺も1年わざと留年するとかという手もあるが、そうするか本気で悩んでいる。


 この件を受けて、終夜よすがら一家が掌を返すかと思われたが、スメラギ氏も終夜古都音先輩も、至っていつもどおりだった。

 俺が見かけたのはその2人だけであったが、古都音先輩はゼクスの事を心配しているようだったし、スメラギ氏もそう変わらないように感じ取れる。


 ……俺についてだが。

 右手に、……何故か右手だけに【煌】の力とも違う何かの力が宿ってしまった。これが強力なものだとは特に意識せずとも分かるが、結局どんな効果を発揮するのかよく分からない。


 逆の左手は、東雲契が持っていた毒属性が侵食して毒属性を持つようになってしまった。

 【顕現属法ソーサリー】は風と毒の交じる紫色の風になり、瘴気を撒き散らすようになってしまったし。こちらは制御できるだけマシということにしておこう。


 ゼクスに、2つのちからを使いこなすって宣言してしまったからな。

 この力を扱うのなら、俺はもっとゼクスの役に立てるだろう。


「……善機寺君?」

「ああ。済まない、別のことを考えていた」


 御雷氷みかおり雪璃セツリは、最近毎日見舞いに来てくれていた。

 正直、俺は健康体そのもので、毒属性による異常を検査するために入院しているわけなんだが、そんなことはお構いなしに色々世話をしてくれている。


 恩でも感じているのだろうか。……俺に?

 俺はゼクスと、彼のまわりにいる人間を守っただけで、それが俺に出来る唯一の事なのだが……。


「あの、やっぱり【浄化】しよっか?」

「いや、いい」


 俺はそれを否定し、彼女を制する。

 この力は毒ではあるが、俺が得た力でもある。


 ゼクスのために使うのなら、たとえそれに侵されようとも使い続けてやると決めたのだ。


「でも、私のせいで」

「俺の意志だ。俺が守りたいと考えたから護る、それだけだ」


 何度も彼女に告げてきた言葉を、俺はもう一度繰り返す。

 誰かのため、と言われれば2割くらいはゼクスのためだけれど、俺はゼクスに強制されてゼクスに下ったわけでもなければ、それはすべて俺がそうしたいからそうするのだ。


 使命感でもなければ、任務の責務を果たすためでもない。

 俺が俺の力を示すための相手が出来た、というのが一番なのだ。


「御雷氷雪璃、もうこの話はなしだ、いいな」


 これも何度も言ってきたけれど、相手は納得出来ないのだろう。

 だからこそ、何度でもくりかえすわけなのだけれど。


「退院はいつになるの……?」

「11月にはするとさ。まだまだ時間はあるが、その間に調整が出来る」


 神牙研究所が、ぜひとも俺を調べてみたいらしい。

 もちろん断った。少なくとも、頼むなら所長くらいは連れて来いと使者に言っておいたら、すぐあとに神牙ミソラ当主から詫びのメールが来た。


『職員を管理できなかった僕の責任だ、申し訳ない』


 と、ご丁寧にビデオメール。流石に同じ【八顕】の次代をモルモットにするつもりはないらしい。

 そんなことよりも、俺は早く退院したいんだが……。


 何より、後始末もそうだが色々と未だ終わっていないこともあるような気がする。

 もっと詳細に言えば……ゼクスの復讐はこれで終わらない。


 明日、一応の仮退院ができる。その時にゼクスの荷物を御雷氷家へ持っていくつもりだ。

 ゼクスは自宅から出てはならないが、外部からの接触は何も言われていない。


 その時に、色々と準備をするための事柄を聞こう。

 

「……全然私と話をしてくれない」

「…………」


 ああ、そういえば彼女はずっとここにいた。

 すねたような声がして、俺は我に返りそちらを見つめる。


 御雷氷雪璃は頬をふくらませながらも、少々顔を赤らめて俺の方を見つめている。

 ……熱でもあるのだろうか、それならここは医務に特化した場所だろうし、ここで診てもらえればいいな。


「医者、呼ぼうか?」

「……そういう意味じゃないの。……もう、いい」


 完全にすねたのか、そっぽを向いて部屋を出て行く少女。

 その途中で振り向いたかと思えば「また来る」と言って次こそ振り返らずに行ってしまう。


 ……うーん、何処がいけなかったんだろうかね。

 それとも、御雷氷の娘だから心配はいらなかったか。



---


 何処までも鈍感というか、兄様にいさまのことばっかりというか。

 善機寺君の考える事、笑う時、悩む時。

 全部兄様なのは、……むむう。


 アレが愛情や恋慕でないのは明らかなのですが、なにか特別な感情を抱いているというのも確か。


 明後日、兄様に聞いてみよっと。

 兄様の様子も見たいしね。

 


次回更新は多分明日です。

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