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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第8章 復讐鬼
221/374

第221話 「殺意の黒い炎」

2016.06.17 1話め

 【桜霞おうか】が指し示した方向に急ぐと、そこには凄惨な光景が広がっていた。

 死人が出ていないだけマシだったのかもしれない。


 地面をのたうち回りながら痛みに喘いでいる颯の左手は、肩まで黒紫色に変色している。

 雪璃は背中が焼かれたように焦げていながら、後ろに存在する「敵」から颯を護る楯となっていた。


 そして、東雲契は、黒い灰を呆然と見つめながら、顕現力を纏った右足で何度も、何度も雪璃を蹴りつけていた。


 【桜霞おうか】が到着したのも今しがたで、5つのユニットが発光したかと思えば東雲契を斜め上方向へ吹き飛ばし、雪璃たちから引き剥がす。


 俺は地面に降り立ちながら、慌てて2人に駆け寄る。

 状況はひと目で見てもわかるほど、ひどい。


 しかし、何よりも。この状態でいながら2人とも意識を失っていないことが奇跡のようでもあった。

 古都音がココに居れば……手早く処置を施せていたかもしれないが。


 流石に、こんな場所に古都音を連れてくるわけにも行かなかったし……斬灯とアズサさんに頼んだから、安全だろうけれど。


「……ゼクス。やったぞ」


 息がヒューヒューと聞こえる中、颯はそれでも笑っていた。

 右手には普段の【顕現オーソライズ】とも、【煌】とも明らかに違う顕現力が宿っている。


「この力は、いいな」

「その傷は?」

「【タナトストルドー】を無効化した代償と思えば、それ相応かと」


 俺は目をつむりたくなるような色に変色している颯の左手から、目を離して次は雪璃を見る。

 ……痣と顕現力の負傷によって、露出された背中がこちらも黒く変色してしまっている。


「雪璃?」

「…………」


 返事はない。だが、意識はあるようで口をパクパクさせて何かを俺に伝えたい事はわかる。

 その視線が、何度もその場に残り続けている黒い灰と、颯に注がれていることを見て推測できる。


 半泣きでいるのは、きっと東雲に蹴られたせいではないのだろう。


 ……2人とも、満身創痍を超越してしまっている状況だと判断できた。

 体の傷もそうだが、2人からは残存する顕現力がほぼ見当たらない。


 俺は【桜霞おうか】を展開させ、2人への応急手当を命ずる。

 古都音の顕現特性が、この【顕装】にも宿っているのならばそのくらいは容易いはずなのだ。


 さて……と。

 俺は、目の前の少女を見つめた。


 そうした瞬間、怒りが心のなかで鎌首をもたげたのを感じ、力が抜けた。

 怒りが、憤怒が、恨みが、殺意が。


 一つのドス黒い炎となって、すべての感覚をもぎ取っていく。


 そもそも、俺があの時彼女に対して有効打を与えられてさえ居れば、こんな事にはならなかったのだ。

 颯は毒に襲われ、雪璃も傷だらけにならなかった。


 2人は、揃いもそろって俺の為に命を賭ける思いで【顕煌遺物】を無効化させたのだろう。

 その思いは有り難い。確かに有り難いし、俺はこれで復讐の理由も増えた。


 しかし……。


「2人とも、生きろ」

「……ゼクス?」

「颯も雪璃も、俺のそばに居なければこの後の人生は楽しめそうにないからな」


 俺は、すでに1人ではなかった。

 「あの日」に1人になって、心は確かに孤独だったのかもしれない。


 けれど、冷躯とうさんに、カナン(かあ)さんに出会って。

 アマツや冷撫と出逢い、学園では古都音や颯や……最近は、雪璃だっている。


 【欠けていい】人間と、【欠けてはならぬ】人間は明確に俺の中で存在する。

 むしろ、【消えて欲しい】人間も、明確に。


 めったに居ないが、一番最後の枠にたったこの前まで、トラン=ジェンタ・ザスターがいた。

 けれど、それも鳳鴻が本当に消した。


 だから、あとは東雲だけなのだ。


「ち、違うんですツグ君! 私はこの人達に襲われて! 否応なく抗戦して!」


 「力」を失って、いつもどおりの責任転嫁に入った彼女の行動は、俺の怒りを増大させるのに最も適した起爆剤となっていた。

 

「交戦した結果、2人を【武器】の道連れにしようと?」

「ちがうんですって! ……私の【タナトストルドー】に比べれば、2人の命なんて安いもの、なのですよ! ……あっ」


 東雲は、俺から顕現力が立ち上ったのを感じ取ったのか、それとも決定的で致命的な失言をしたことに気づいたのか。

 しまった、とでも言いそうな顔で口をつぐみ、取り繕うように笑顔を浮かべる。


「どうしても、死にたいようだな」

「いや、あの。違うんです。人間の命の価値と、【顕煌遺物】の価値の違いを……ですね!」

「そう思うのなら、勝手に思っていればいい。ではこう返してやろう」


 両手がひとりでに、叫ぶような音を発して光り煌めいた。

 鳳鴻に「使って」と手渡された 【WARCRY】が、俺の顕現力の高まりに呼応して発動したのだろう。

 増幅された顕現力を、手に宿しながら……。


 俺は【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】に手をかけて、引き抜く準備をし。

 彼女に、話しかけた。

 






「【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】がさらなる力を得る為に、死んでくれよな」


 申し訳ないが、俺は【顕煌遺物】の価値が、自分の「大切だと思える人々」の命の価値より高いとはどうしても思えない。

 それは【顕装】も同じだ。


 俺が【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】を1人の人、として扱ってもいる限り、彼女は捨てるものではない。

 けれど、それも颯達と同等という意味でしか無いのだ。


 どちらかを切り捨てろと言われたら、俺は。


 俺は、迷わず自分を切り捨てるだろう。

 他人が思っている以上に、俺は自分の中での、自身の価値が低い。


 だが、目の前の東雲契という少女の価値は、もっと低い。

 

「鳳鴻の気持ちがよく分かるな、こりゃ」


 俺は【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】へ顕現力を与えながら、抜き放つ。



 最後の復讐だ。


 意を決していこう。


決闘を起点とした合法性を、武器にしていない時点でゼクスの怒りゲージの溜まりようがわかるかと。


次回更新は明日か明後日です。木金土日は遅くなりがち。

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