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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第8章 復讐鬼
218/374

第218話 「疾走する2人」

2016.06.13 2話め


「……御雷氷雪璃、本当に良いのか?」

「私には出来ることが少ないから、このくらいしか出来ないの」


 俺……善機寺ぜんきじはやては、隣を必死に着いてきている少女に話しかけながらこの少女をどうしようかと考えていた。

 【立場上】ゼクスの妹である雪璃が出来ることは、彼女が自虐的に言うとおり少ない。


 終夜よすがら先輩のように【回復】が出来ない。

 月姫詠つきよみ斬灯りとのように【封印】が出来ない。


 けれど、俺の顕現が何かを示している。

 この少女は、ゼクスや冷躯さんのように【特別】なのだと叫んでいる。


「好きにしろ。……ただ、決して東雲契本体は傷付けるなよ」

「……わかってる。飽くまでも。わたし『たち』の標的は【顕煌遺物】、でしょ」


 私達、か。

 俺はその言葉を聞き、ふっと笑いをこぼす。


「……東雲契の顕現力は覚えているか?」

「貴方も辿れる、でしょ?」


 質問に質問で返されるが、特に気にしない。

 雪璃は「貴方も」と言った。つまり、彼女自身も辿れるということなのだろう。


 俺はそうと判断した上で、探りを入れ始めた。

 あの汚れた顕現力。混ざり合った属性。


 心の闇が【顕煌遺物】を汚し、【顕煌遺物】が心を闇に沈めていく……といったようなところか。

 ほぼ無限機関に近い。お互いに共鳴しあって波長の振れ幅が強くなっていく。


 その結果が、あれか。


「……顕現特性は、何を?」

「分からないの。まだ……設定されてない」


 俺はこのくらいの速さならどうということはないのだが、雪璃は苦しそうだ。

 正直、ゼクスに俺たちが消えたことを把握される前にかたを付けたい。


 復讐の妨げになるものだけを排除し、対象をゼクスに差し出さなければ。


「……っと」


 俺達が探すまでもなく。相手からやってきたようだぞ。

 目線のみで少女に合図を出して、俺はさてどうすべきだろうかと考える。


 東雲契の目線は、俺へ。

 なるほどな。


「進様のそばでいながら、何も出来なかった貴方が。お情けで蒼穹城家や刀眞家と一緒に居た善機寺家が。今になって地位を得るなど、許されませんね」

「……それはどうかな? 善機寺家は少なくとも、前代から離反計画は立てていたのだろうし。俺たちは自分の意志でやってきたさ」


 俺は今にも東雲契へ襲いかかりそうな形相をしている雪璃を制しながら、返答をする。

 東雲契からは、明らかな侮蔑の表情が読み取れた。


「負け犬が腰巾着のように八龍ゼクス側についただけではないのですか?」

「俺は負け犬でも構わないさ。だが、それと逆恨みするのとは違う」


 俺は……。自分への仕打ちに対する反応が薄いとよく言われる。

 例えば、ゼクスや終夜先輩が傷つけられたら烈火のごとく、暴風の如く怒り狂う自信はあるが……。


 正直、今「負け犬」といわれようが、「腰巾着」だろうが言われても特に思うことはない。

 むしろ、言い返したいのだ。


「お前はどうなんだ?」


 と。


「私は力を手に入れましたよ、善機寺颯。貴方は成長しましたか……?」

「そうだな……。成長はしていないかもしれないな。俺は元から強い」


 今までは、それを披露する機会がなかっただけだ。

 今なら。これからはゼクスの為にこの力を捧げることが出来る。


「善機寺の次代候補を潰せば、私の復讐も1歩前進しますでしょうか?」

「俺が倒れれば、次は俺よりも才能のある人が立ちふさがるだけだ」


 学園の中に、俺と「同類」の顕現力が入ってきたのを感じ取りながら、俺は笑う。

 善機寺家は一枚岩ではない。


「善機寺一家の話など、結局は虚構に過ぎませんから。今、それを証明してみせましょうか? 貴方が『臣』としていかにも相応しくないか」


 挑発しようとしているのだろう、ということは理解できたのだが。

 それは、俺には通じない。


「やれるものなら、やってみるがいい」


 だが、今は。

 その挑発に乗るのも悪く無い。




---



「やれるものなら、やってみるがいい」


 私、雪璃はこちらの動きを制している善機寺颯が、闘争心たっぷりにそう言い返したのを聞いてため息を吐きそうになった。

 なんといえばいいのか、私にはわからないけれど。


 私は、今目の前の東雲契に怒りを覚えている。

 兄様を初めて事実上の敗北に貶めた人間。


 兄様の復讐対象。

 ただその2つの要素だけでも私は十分。


 私にできることはとても少ないけれど。

 目の前の女をとっちめる程度のことなら出来る。

 なんとかして、兄様に褒めてもらいたい。


 ずっと、気を使って「兄」で居てくれようとしているのは有り難いことだけれど。

 こちらは、まだその資格が無い。


 優しくしてもらえるだけの、成果を挙げなければ。


「そこの女性も……あの、終夜古都音も……私がその位置に立つはずでしたのに!」

「兄様を見捨てた人間に、それをいう価値なんて無いわよ」


 この人は、結局何を言いたいんだろう?

 先程から人をけなしたり、復讐だと言ったり、私や古都音さんを妬んだり。


 そのすべてが「私は悪くないのに!」という言葉に集約されているような気がして。

 どうしようもなく……腹が立った。


「善機寺颯。私が」

「……俺がやる」

「譲らないなら、2人でやりましょ? 元々からそのつもりだったのでしょうし」


 私の提案に、彼はこちらを向いて……。

 ぎょっとした顔を見せる。


 自分の顔がどうなっているかはわからないけれど。

 どうも、私は。


 かなり怖い顔をしているようだ。




 


雪璃はやっと初戦闘になりますね。


次回更新は明日だと思います。

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