第215話 「無効」
2016.06.07 1話め
くっそめんどくせぇ。
というのが、俺の本心だった。
正直、このまま周りなんて一切関係なく、目の前の少女を滅ぼしたい衝動に駆られていた。
そんな俺が、自制できているのは何故だろうか。でも、昔の俺だって自制はできていた。
そうだな、俺は分別の出来る狂人だったものな。
いや、ここは【拘束】を使うという手段もあったが、俺は目の前をもう一度認識する。
黒のかかった紫色の【顕煌遺物】。俺と東雲契の間に倒れている蒼穹城進。
蒼穹城を救出するべきか、一緒に滅してしまうか本当に悩むところだ。
しかし、蒼穹城は「復讐対象」ではあるが「敵」では無くなってしまった。
これから、精神的に復讐をする機会はいくらでもある。
殺してしまえばこれだけで終わりだ。俺はそう判断して彼を攻撃対象から外す。
「壊れていく私を、誰も救ってはくれませんでしたから。次は私の番ですから」
「独りよがりの虚しい言葉だな」
「……なんですって?」
俺の言葉に対し、東雲契は簡単に反応してくれた。
結局、自分がどうしようもなかったことを正当化したかっただけなのだろう。
今まで力がなかったから抵抗できず、ここまで来てしまった。
けれど、今は力がある。だからこれは「復讐」なんだ、と。
……なんだ、俺と何も変わらないじゃないか。
哀れなことだ。俺も、目の前の少女も。
自分を取り巻く環境に、大きく人生を狂わされた結果だろう。
――だが。
だが、俺と彼女には大きな違いがある。
「人のせいにしてんじゃねえ、今の状況も、昔の状況も、自分のせいだろ」
「違う。違う。私は周りに抑圧されてきたから。今はそんなことが無くなったから、こうやって」
「なら、その【顕煌遺物】を捨てろ」
俺は【髭切鬼丸】を、善機寺颯に投げる。
超速で理解できたのか、それを完璧な動作でキャッチした颯は、目線を向けてくるが、俺は首を振ってそれを制した。
「自分の武器を捨てるなんて、愚か者のすることでしょ?」
「さて、な。俺の最大の武器はこっちじゃないからな」
『どういう意味じゃ、むぅ』
あ、オニマルがすねた。まあ良いや、今は重要な事じゃない。
俺は颯に教えてもらったことがある。
自分の最大の武器は、自分の中にあると、な。
「なら、とりあえず……私の満足のために、死んでください……よっ!」
力を入れて東雲契が大鎌を振った。
闇属性に、他の属性幾つかがぐちゃぐちゃに合わさったそれは、刃の部分が伸びて俺に襲いかかる。
俺は、首を狙って伸びてきたそれを後ろに下がるのではなく、横に飛び退ることによって避け、前に進み出る。
相手はこちらが丸腰で襲いかかってくるとは予想できなかったのか、1歩下がり、大鎌を防御へ回すのに一瞬の隙が見えた。
そこを狙わないはずがない。俺は雷君様からもらった雷属性の【煌】を掌に凝縮させ、掌打で押し出すように【顕現属法】を射出する。
正直、これはかなり危ない。俺や相手はまだしも、周りに被害を与えかねない。しかし、使った瞬間はほぼ自制が効かず、まあ……簡単にいえば、暴走気味に射出してしまったというあれだ。
「その程度で、この【タナトストルドー】を貫けると本気で思っていましたか?」
しかし、彼女は笑っていた。
俺の射出した光線に対し、順応するように鎌を一振りすると、大鎌は顎を持ち上げるように2つに割れ、それを飲み込む。
その先には、何もなかった。
後ろで、鳳鴻たちが息を飲む声が聴こえる。
「己の力なんて、笑わせないで。その己の力が何になるのか……」
「4:【Re】:【Strain】」
間髪入れず、唱えて俺は【煌】を押し出した動作のまま、掌を東雲に向けた。
現れたのは、4つの属性を持った虹色の鎖。
相手の動作が少々大振りすぎる。
だからこそ、俺はその……なんだ。
【顕煌遺物】を俺は見つめながら、俺はそちらではなく東雲契本体を拘束する。
振って効果を発動させるなら、振らせなければいい。
「……ふふ?」
しかし、彼女は消えた。
いや、確かに【拘束】で拘束できたはずなんだが、霞のように身体が消え、俺の真横に現れた。
……真横!?
「面白い能力を持ってますね。……やっぱり、貴方を倒すのは最後にしましょう」
そういって、完全に姿を消す東雲を。
俺たちは、呆然とした顔で立ち尽くすしかなかった。
次回更新は明日にしたいです。




