第214話 「鉄塊になった義手」
更新が遅れて申し訳ありません。
「ガイダンス、かぁ。僕たち、組めるんだろうか」
「……集まっても2人だろ? ……昔からだけれど、完全に俺たちは逸れものでしか無いからな」
蒼穹城進と、刀眞遼は、ガイダンス終わりに食堂棟へとやってきていた。
彼等に近づこうという人はいない。正直、暴虐を尽くしてきた刀眞家、蒼穹城家に近づくどころか、目を合わせようと言う生徒すらいなかった。
落胆したように肩を落とす進に、遼は仕方ないと言った雰囲気で元気づけるように話しかけた。
進の義手は昨日直してもらったばかりだ。特に重要な場所は壊れていなかったため、パーツを一部取り替えるのみで治ったのだが、かなりのガタが来ているらしい。
自分の義手も気になるが、今一番気にすべきことは、グループをどうしようかということであった。
「同級生ではほぼ無理、かな」
「そうだな。……10人まで、とは言われたけれど流石に5~10人を想定しているだろうし、2人で組むことはできなさそうだね」
御雷氷たちにたのみこむ、ということもやろうと思えば出来ただろうが、それは出来るだけ進としてはしたくない手段であった。
申し訳がたたないというものもあるが……と。
そう考えていた2人は、目の前に現れた、「大鎌」を手にした少女を認識して思わず1歩後ずさる。
「お、おい。……進」
「……これはちょっと……どうしようか。逃げる?」
しかし、逃げられなかった。恐怖だけでなく、他の何かによって体が動かないことに気づき、進は恐怖する。
目の前の少女はこちらに気づいたようで、薄ら笑いを浮かべて一歩一歩近づいてきたのだから。
やっと、周りの人も自体の異常さに気づいたようで、周りに野次馬ができはじめた。【八顕】で完全に力を失いつつある蒼穹城家の次代候補と、すでに【八顕】でなくなった刀眞家の次代候補。
それに、今までは腰巾着程度の認識でしかなかった1人の少女とが、立ち位置を完全に
「見つけましたよ、進様」
「き、今日は何のようかな?」
進は出来るだけ穏便に事を済ませようとする。
そもそもここは人が多い。単純に考えて、相手から【顕煌遺物】の攻撃を食らってはまずいのだ。
自分たちだけでなく、周りにも被害が出る。
その前に、なんとかしなければ……と。
「【タナトストルドー】、行きましょう」
『進! 援護する……!?」
しかし、契は取り合わなかった。大鎌の柄を撫でながら前に進み出ると、咄嗟に進を【氷神切兼光】は護るようにバリアを顕現する。
その援護も虚しく、大鎌の切っ先が伸びたかと思えば、バリアが途端に砕け……【氷神切兼光】は完全に沈黙してしまったのである。
進は何が起こったのか、全く理解できなかった。
「黙ってなさい、【顕煌遺物】」
東雲契は、冷たい声で沈黙した【氷神切兼光】を見つめると、また前に進みだす。
「そうですね、今回はこれを使って貴方を破壊しましょう、楽しそうですわね」
言葉に危険を感じ取り、進が遼の前へ1歩進み出る――。
庇うように右手で目を覆った瞬間、進は悲鳴を上げるほどの痛みを味わった。
義手が手の先から肩まで完全にねじ切れていた。それだけでなく、一瞬で鉄塊に近い状態まで義手が化してしまっている。
悲鳴を上げつつ、ただただ進は呆然としていた。遼も呆然としていた。
たった一瞬で何が起こったか、瞬時に理解し……。
野次馬の1人であった女子生徒が、悲鳴をあげた。
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悲鳴を聞きつけてやってきたのだろうか、と。
進は、目の前に現れた2人の少年と、それを追いかけるようにして現れた少年少女を見つめる。
野次馬は混乱をますかとも思われたが、逆に静かになった。
【三貴神】、神牙、善機寺、蒼穹城、そして御雷氷。ここには【八顕】の殆どが揃っている。
「……何で来たのかな? 神牙君、御雷氷君」
「悲鳴を聞きつけてきただけだ、俺は」
そっけなく言って、神牙アマツは目の前の光景をもう一度認識しようとした。
蒼穹城進が苦痛に喘いでおり、その身体の右肩から腕までがごっそりなくなっている。
義手は、原型を留めないまま直ぐ近くに転がっていた。
「やっと釣れましたね、胤龍君」
「……どういうことだ?」
そんな光景に呆然とする中、犯人はゼクスに話しかける。
ゼクスはその言葉に違和感を覚えたが、冷静に聞き返した。
今までであれば、激情で襲いかかることも出来たはずだ。
しかし、ゼクスはそれを抑える。
「貴方が【顕現者】に選ばれなかったせいで、私はこの5年間とても苦しい生活を過ごしていたのですよ?」
「……見捨てたのはそちらだがな。強いて言うなら、ここにいる蒼穹城進と、刀眞遼を含めた刀眞家全員にも、だが」
家族の繋がりを否定した時点で【神座】は自分に恩恵を与えられなくなる。だからこそゼクスはそれを逆手に取って刀眞家への復讐を果たした。
東雲契、という存在は自身のせいによって何かが起こった、と一切感じられない性格である。自分が刀眞胤龍を見捨てたのはあの時、自分を救ってくれない存在だと判断したからであり、まず罪悪感を持っていない。
それにゼクスには謝ったのだ。それで済むと本気で考えているし、その結果、逆恨みすることによって自分を正当化しようとしている。
今までの弱い自分とは違う、強い力を手に入れたと【タナトストルドー】をふるって。
最初はずっと自分を虐げてきた蒼穹城進、続いては傍観者に徹しようとしていた刀眞遼。
そして、蒼穹城家や刀眞家と接触しておきながら、自分を救おうとしなかった人々。
最後に、自分が見捨てたはずの刀眞胤龍であり――自分が好きであったはずの、御雷氷ゼクス。
「とりあえず……一旦は東雲契、お前を無力化する」
「出来るものなら……やってみなさい?」
ゼクスは、ここで復讐することを考えなかった。
そもそも、復讐は自己満足の為にやっていることで、決闘によってそれをなすのは、当事者以外に被害が向かわないからである。
自己満足のために、全くの他人を巻き込むことは流石に出来なかったのだ。
ゼクスがさて、どうやってこの状況を切り抜けながら目の前の少女を無力化しようかと思案している中で、【髭切鬼丸】がひとりごとのように言葉をつぶやいた。
『なんじゃ、あの【顕煌遺物】は。不気味じゃのう』
「……そうか?」
ゼクスはわけが分からず、一度周りへの被害ではなく目の前の【顕煌遺物】に目を向ける。
なるほど、確かに泥に毒が混じったような印象だ。
『濁りきっておるのう』
と、オニマルは憎々しげに呟き、【髭切鬼丸】は淡く点滅した。
活動報告にて謝罪をさせていただきましたが、最近心身共に(特に身体)が悲鳴を上げ始めたので最低でも1週間は更新が遅くなります。毎日更新はもちろんしていきたいのですが、難しい状態になっています、本当に申し訳ありません。
元気になったらまた更新速度をあの、一番早かった頃に戻したいと考えております。
これからもよろしくお願い致します。
次回更新の「予定」は明日です。




