第210話 「未来の映像」
2016.05.30 2話め
『あと1人だね、ゼクス。君の今までが終わり、これからが始まるまであとたった1人だ』
『……誰なんだ?』
夢のなかで、またあの声が聞こえる。
どこか懐かしく、そしてどこか聞き覚えのある声、だ。
俺は我慢できなくなって名前を問うたが、彼は笑って流すだけ。
『まだ名前は明かせないね。だって』
と、俺を指で指差した――ような気がした。
俺には彼が見えない。認識できるのは声と、その気配。
人でもなければ【顕煌遺物】でもないと断言できる、しかし、それが何かははっきりと何かわからない。
俺は【顕煌遺物】の人格であるオニマルと関わったこともあるし、【神座】の神人格である雷君や國綱さんたちとも関わったことがある。
しかし、目の前の「何者か」は違う。
何かさっぱりわからない。
『君はまだ、その【領域】に片足を突っ込む前じゃないか』
そして、楽しそうな声で笑うと、少しだけこちらに姿を見せる。
……どこかで見たような顔だが……。そんなもの見せられても、正直微妙。
あったことはないはずなのに、記憶の中にはあるんだから不思議なものだ。ええーと。誰だコイツ。
困惑している俺には構わず、彼は両手に一つずつ、白と赤の球を作り出す。水晶球のような感じで、中に何かの映像が映っている。
『今から君に2つの未来を見せよう。1つは、僕が考えうる君の幸せ。1つは、最悪の展開』
「いや、いらない」
『はて?』
俺は即答でそれを拒否すると、彼は驚いたように首を傾げた。
「その未来は、俺自身が自分で見るよ」
『はは、面白い人間だねぇ。僕が今までこうやってきた人間は、みんな自分のありうる未来を見、必ず成功する方を選んだというのに。本当に君はへんな人間だね』
「わかってる未来なんて面白くねえよ」
今までこうやってきた人間、か。つまり、俺は少なくともこの眼の前の存在に「選ばれている」ということになる。
彼が俺がまだその領域に踏み込んでいないということは、俺がまだ途上ということになるのだろう。
カウントダウンがある。きっと、それがキーワードなのだと俺は考えた。
「カウントダウンは、あと何回だ?」
「……僕は君に教えるほど分かりやすいわけじゃないよ。でもね……確実に、近づいているよね」
ああ、ヒントはくれるのか。
俺はその言葉に満足し、夢の世界から現実世界に戻ることにした。
目の前が白くなっていき……。
「……おはようございます、ゼクス君」
少女の声が聞こえ、俺は目を開けた。
最近ではもう日課というか、習慣になりつつある古都音の部屋での就寝は、今日も成功のようで。とても今気分が良い。
「おはよう」
そもそも、自分と相思相愛の少女がずっとそばに居てくれるという事自体、俺が入学するまで考えられなかったことだ。
冷撫は確かに俺のことを想ってくれていたようだが、アマツの婚約者であることがすでに俺も知っていたし、そもそも他の男……それも親友の許嫁を彼女にしようとは思わないんだが……。
まあ、一番最初に出会った時から古都音のことは気になっていたし、彼女もそんな感じだったから構わないのさっ。
……朝だからテンションが可笑しいのかもしれない。
「よく眠れました?」
「眠れたよ。……いい朝だ」
俺は本心を口にし、もう一度目を閉じる。
が、すぐに揺り起こされた。流石に二度寝は許してくれないか。
今日は授業のある日だ。……この学園では、かなり休講が多い。
学園に教授として在籍している人々が、【顕現者】としてもかなりの権威を誇っていたり、神牙ミソラさんだって、特別授業のときに学園へやってきたり、父さんもくるからな、戦闘訓練に……。
【顕現者】ってのは、別格の存在がとても分かりやすい。
いつもいる教師の中でも、数人明らかに周りの人と違う、という人間がいる。
でも、今日の授業は退屈しないだろう。かなり予定が遅れたけれど、数人でグループを組んで活動する、新しい制度の説明だし。
誰と組むことになるんかね。【八顕】で組んだらそれはそれで頼もしいが。
「……古都音、どう思う?」
「何がです?」
「未来。どうなると思う?」
とりあえず、俺は授業のことを棚に上げて古都音に話を聞いた。
未来。全くもって曖昧で、何もかも決まっていないそんな未来。
古都音なら、何を言ってくれるだろうか。幸せになると言ってくれるだろうか。
「何があろうとも、私は私のしたいことをするだけですよ」
「……強いな、古都音は。ほんとうに強い」
しかし、彼女の言葉は俺の考えていたものとは違った。
何があろうとも、か。
俺なんかより、精神力はやっぱり強いんだろうな。
次回更新は明日です。
明日は2話以上更新を目標にするつもり。




