第209話 「閑話;鳳鴻の完遂報告」
間に合わなかった……。
ザスターとの戦いから約3日。鳳鴻は、愛詩家にやってきた。
いつもの、思いつめたような顔ではない鳳鴻に、聖樹の両親は驚きつつも笑顔で出迎え。鳳鴻は聖樹の元へと案内される。
隻眼の美少女は片方の目だけで鳳鴻を認め、顔を綻ばせた。
大体何が起きたかは予想が付いている。けれど何よりも鳳鴻が元気であることが、聖樹は嬉しいことである。
「聖樹、お話したいことがあるんだ」
声も、心なしか明るく聞こえて、聖樹は彼が事件前の彼に、歳相応の彼に戻りつつあることを察した。
「……どうしたの、鳳鴻?」
「ちょっと散歩しようか」
聖樹がそれを断るはずもなく、鳳鴻は車いすを押し始める。
愛詩夫妻に一礼して、「少し遅くなります」と。
愛詩家が見えなくなった頃、聖樹が口を開く。
「長いお話になる?」
「いや、直ぐ終わるかもしれないよ」
鳳鴻は蒼穹を一瞥し、車いすから手を離して聖樹に向き直る。
「僕は復讐を完遂させた」
「……本当?」
察してはいた。けれど彼がそれをさせたのは、すべて自分のせいで。
自分が、あの時誘拐されていなければ、鳳鴻は復讐をするような人間にはならなかったのだ。
聖樹は、複雑な心境になりながらも頷く。
そして、次の言葉に耳を傾けた。
「トラン=ジェンタ・ザスターは死んだよ。アメリカ連合国へ呼び戻され、ザスター家についただろうその翌日に」
「……貴方がしたの?」
鳳鴻は、笑った。
それは聖樹が今まで見たことのない、獰猛な猛禽類のような笑い。
聖樹は、考えを改める。
彼は変わってしまった……と。
「正しくは違うけれど、そうだね。僕のせいだね」
「……そう」
聖樹は鳳鴻から経緯を聞く。
鳳鴻は、何もかも包み隠さず彼女に説明した。
自分の思いも、考えも。
そして「この方法しかなかった」のではなく「この方法を選んだ」ことを強調する。
「妙に、清々しい顔をしているね」
「ずっとしたかったことだからね。……早く、来年にならないかな」
「だねっ」
しかし、この世界ではしかたのないこと。そうとも聖樹は捉えている。
自分だって【顕現者】であり、【顕現者】同士の抗争に巻き込まれた人間である。
間接的であれ、直接的であれ、殺人を賞賛する人間ではない。けれど、こういう世界だからという逃げの部分もあった。
決闘内であれば、そこだけが治外法権になる。
その条件を使って、八龍ゼクスも復讐を果たしているという。
だから、聖樹は悲しいが状況を受け入れることにしたのだ。
「あのね。私は、鳳鴻に幸せになってほしいの」
「……幸せにしてくれる?」
鳳鴻はそう返し、聖樹はすぐにこくりと頷く。
自分の役割は把握しているつもりだ。鳳鴻も自分を幸せにすると言ってくれたから、自分は彼の精神を支えてやればいい。
名家:愛詩家とはいえども、【八顕】の【三貴神】とは天と地ほどの差すらある。
財力や権力で、彼を支えることは出来ないし、そもそもそれが亜舞照家になかったとしても、鳳鴻はそれを望まないだろうことはわかっていたから。
「そうね。お互い頑張りましょう」
「僕を、責めたりしないんだね」
「理由はどうあれ。私を守っただけじゃないんでしょ? 斬灯も、アズサも、古都音さんも守ったのよ、鳳鴻は」
だから、問題ないの。と、あくまでも明るく彼を否定しない聖樹に鳳鴻は救われた気分になりながら「ありがとう」と礼をいう。
「一緒に生きていんでしょ」
「……そうだね」
聖樹は、ようやく安心したのか泣き笑いを始めた少年に、聖樹は柔らかな笑顔を見せた。
鳳鴻の頭には、異変が起こる前の記憶が蘇っている。
今日はもう一話更新しようと思います。




