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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第8章 復讐鬼
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第207話 「自身が満足するために」

2016/05/27 2話め


「俺の……ザスター家の【 AURGELMIR(アウルゲルミル)】を、よくも!」

「そちらの手番は、もう終わりか?」


 善機寺ぜんきじはやての声は、冷たい。

 【 AURGELMIR(アウルゲルミル)】はすでに破壊され尽くしており、わなわなと震えるトラン=ジェンタ・ザスターを、3人は囲む形になる。


 その中で、ゼクスは考えていた。本当に、突破口が簡単に見つかってしまったらこれで終わるのだろうか、と。

 ザスター家が、こちらが高校生の時点で【煌】になる可能性は少ないと考えていたのだろうか……と。


 ゼクスは非公式なため無いが、【煌】と認められると全世界に公表される「情報」になる。颯はそのリストに乗っているのだし、ザスター家もアメリカ連合国の名家だ。【煌】の称号を得た顕現者のリストくらいは把握しているはずであり、それでも勝算があったからこそ、【八顕】に喧嘩を吹っかけたのではないか、と。


 それで無いというのなら、それは調べていなかった愚か者か、【 AURGELMIR(アウルゲルミル)】の性能を過信した愚か者かどちらかということなのだろう……。

 ここまで考えたゼクスは、完全に機能を停止したと思われる【 AURGELMIR(アウルゲルミル)】に目を向ける。

 登場時はカッコ良かったというのに、今はこの有様であった。


「投降をおすすめするぞ、トラン=ジェンタ・ザスター」


 ゼクスは一見、平和的な解決を求めるような口調で優しくそう言った。その真意は勿論、別にある。

 今回は決闘ではあるが、相手を叩きのめすのがメインではないのだ。

 トラン=ジェンタ・ザスターを護る「楯」はすでに無くなり、現在は【煌】を纏ったままの【顕現者オーソライザー】がこちら側に2人もいる。慢心しているわけではないが、【顕装】にすべてを頼っていた人間が、これ以上の何かを持っているとは思えない。


「なん……」

「きっぱり負けを認める人間を、僕は評価するけれどもね」


 復讐者であるはずの亜舞照鳳鴻にそう言われ、ザスターは静かに頷く。

 そして、地面に倒れていたザスターに対して、鳳鴻が手を差し出した。


 ひっぱり起こそう、と言った極々自然な動きに、思わずザスターはその手を握ってしまう。

 亜舞照鳳鴻の顕現特性、【精神操作】のトリガーは顕現か自分自身が相手の身体に触れること、である。


 ゼクスを気絶させた時も、それは変わらない。【顕現オーソライズ】で矢を作り、刺している。しかし、やはり大きな作用を起こすのなら――。


 例えば、相手の精神を完全に破壊し尽くすのなら、勿論直接顕現力を流し込める、接触のほうが強い。


「…………」


 トラン=ジェンタ・ザスターの目が、死んだ魚のようになった。

 見ている人のほとんどは、審判もが、何を起こしたのかはわかっていないのだろう。


 その瞬間、鳳鴻はザスターからとある感情を完全に消し去ったのだ。

 すぐにトラン=ジェンタ・ザスターの目は元に戻り、同時に審判が慌てて駆け寄ってくる。


「試合は終了で良いんですね?」

「はい」


 ザスターは完全に戦意を喪失しているが、その他に特段目立った場所はない。

 審判は特に疑うこともせず、「では、試合終了! 勝者、【八顕】!」と宣言して足早に去っていった。





「結局、何も変わらないけれど……一体何をしたんだ?」


 ぞろぞろと、観客席から人がいなくなっていく頃、ゼクスは【 AURGELMIR(アウルゲルミル)】を回収して何も言わず、こちらににらみも効かせず去っていったザスターの後ろ姿を見送りながら鳳鴻に話しかける。


 ゼクスの目には、何が変わったということは判断できなかった。彼自身には特に目立った外傷は少なく、【 AURGELMIR(アウルゲルミル)】が完全に壊された以外の損害はほぼ内容にも見える。


 けれど、その言葉を受けて鳳鴻は、今までゼクスが見たこともないような獰猛な笑いを見せた。

 クールな少年、というイメージからはとてもイメージできない高笑いをしつつ、説明する。


「彼から、死への抵抗感・恐怖心を消したんだよ。例えば、人間って『死にたい』と考えても、すぐにそれを実行したりはしない。追いつめられて、追いつめられて精神が持たなくなった時に……や本気で考えぬいて、その結果だったりするわけだよ。……でも、今のトラン=ジェンタ・ザスターは違う」


 息を1つ吸って、鳳鴻は笑った。


「彼は、これから少しでも『死にたい』と思えば、それを躊躇したり考えたりしない。簡単に死ぬだろうね。……僕としては、聖樹みさきをあんなにされてしまったから、それだけでも足りないのだけれど……。けれど、僕自身の手で手にかけてしまえば、聖樹はもっと不幸になる」


 ゼクスは、これが本当の復讐完遂なのか、と鳳鴻の言葉を聞いて考えた。今まで、人を殺すことだけはしてはならないと考えてきた。

 正直、怖かった。確かにそれですべてが終わるかもしれない。けれど、自分が人を殺す、復讐対象を殺すということは、その復讐対象よりも下種な人間になるということだと考えてきた。


 だからこそ、ゼクスは人を殺すことはしなかった。

 確かに1人は【顕現者オーソライザー】としての彼を殺したし、自分の元一家は【八顕】としての順風満帆な人生を殺した。

 けれど、その生命は断っていない。


斬灯りとやアズサには止められたよ、勿論。『復讐は何も生まない』っていうのは、本当にあっていると思う」


 けれど――と。

 鳳鴻は、同じ復讐者リベンジャーであるゼクスに目を向ける。


「でも、何を生む生まないの話じゃないんだよね? 僕達が、復讐をしたいからこそ、復讐は遂行するべきなんだ」

「……ああ、そうだな」


 ゼクスは、同意する。誰かのためではなく、自分の為に……。






 自分が満足するために、復讐はされるべきものなのだ。


ザスター戦は確かに終わりましたが、同時にザスターも終わってしまいましたね。


次回更新は明日です。

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