第204話 「閑話︰直感」
『周りをとにかく警戒して。お願いだよ、カネミツ』
『神経質か?』
『評価は後で聞くよ』
観客席で、進は祈るように手を組みながら、【顕煌遺物】に話しかけていた。
【氷神斬兼光】を通して、空間を把握しようとする。
顕現力の流れを感じ取り、あの時自身に襲いかかった東雲契の気配を警戒しているのだ。
そんな進のことも知らず、話しかけたのは遼である。
会場全体ではなく、ゼクス達の決闘に気を配るだけで良い遼は攻撃の素振りを見せただけで跳ね飛ばされる彼等を見つめていた。
「それにしても、何故攻撃しようとしたら吹き飛ばされるんだ?」
「……多分、あれは属性を含んでいない純粋な顕現力なんだと僕は考えるよ」
「は?」
遼には、その言葉の意味が理解できない。
顕現力はその個人の持っている属性に準ずる、それが彼の中での常識であり。
世間一般の常識も遼と同じようなものであったからだ。
しかし、進は頭を振る。
「こんな身になってから、神牙ミソラの研究に幾つか目を通したんだ」
「……邪魔したことがどれだけ愚かだったか、分かったか?」
その言葉に反応したのはアマツであった。
研究者一家に生まれて、蒼穹城家に邪魔され続けてきた一人として一言。辛辣な言葉を発する。
流石にまずい、と冷撫と古都音がアマツを制止しようと立ち上がりかけるが、進は俯きながらうなずいた。
「残念ながら、言い返す言葉が見つからないよ。……先代たちのせいで、日本の【顕現者】研究は取り残されていたかもしれない。それをなんとか最小限にとどめたのは、神牙派たちの努力の結果だと、僕は思う」
僕は、と進が強調したのをアマツは正確に理解し、頷く。
ここでやっと、冷撫と古都音が安心したように息を吐いて席に戻った。
会場ではまだ決闘が続いている。
ゼクス達は突破口を見いだせてはいなかったが、だからといって負けているというわけではない。
彼らは、見えない弾丸を感じようとしていた。
勘に、感覚に。顕現力の流れを読み取るという、第六感に。
「まあ、先代はそんなこと絶対に認めたくはないだろうな」
「認めたくはないだろうね」
進とアマツは。お互いに一瞬だけ笑い合う。
しかし、すぐにアマツは表情を変えて厳しい物に変貌させた。
「蒼穹城、お前は俺たちともう闘うつもりはないのか?」
「無いよ。信用出来ないというのなら、今までどおり監視していても構わないけれど」
即答。その確固たる意志にアマツは猜疑心が自身の中から完全に消え去るのを感じる。
直感的に、それが真実だと判断し、再び笑顔を見せた。
「……いや、やめておこう」
次回更新は早くて今日。遅くても明日です。




