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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第8章 復讐鬼
200/374

第200話 「あり得なかった光景」

2016.05.21 1話め

ついに200話ですよ。

まだまだお話は終わらないので、長い目で宜しくお願い致します。

 午前11時過ぎ、ゼクスたち一行は準備を整え、決闘の会場へ向かいつつあった。

 その途中、ゼクスは古都音ことねの方へ向き直り、問いかける。


「古都音は何処で見てるの?」

「私ですか? 私は雪璃せつりさんと一緒に……あれ?」


 古都音は左の方へ首をくるりと回して、首を傾げる。

 立場上、ゼクスの妹となった御雷氷みかおり雪璃せつりと、今先ほどまで一緒にいたはずなのだが、いない。


 と思えば、後ろの方から「はい」と声がし、走ってくる少女の姿を見て古都音は「ここにいましたか」と笑いかけた。


「何処へ行ってたのです?」

「ごめんなさい」

「いえ、責めているわけではないのですが」


 怯えられてしまった、と苦笑しながら古都音は首をふる。ゼクスは特に心配していないのか、彼女へ極々自然な手つきで頭に手を乗せると、雪璃の顔を見つめながら古都音を指差した。


「セツリ、万が一何かあったら頼むな」

「うん、……出来ることは少ないけれど、大丈夫」

「ありがとう」


 ゼクスがこの数週間で、雪璃について再確認できたのは彼女の劣等感が想ったよりも強いことであった。

 とにかく、劣等感が強い。自分には出来ないことが多すぎると考えているのか、他の特別な事情があるのかわからないが。


 だからこそ、彼女の劣等感に対していちいち突っ込んだりはしなかった。

 自虐的なものも、スルーというわけではなく。

 一度受け取り、そして流すような態度をとっている。


「ゼクス君、颯君、鳳鴻君」

「ん?」


 そろそろ待合室へ向かわなければ、と腕時計を確認したゼクス達に古都音は声をかけた。

 古都音は彼等一人ひとりの顔を見つめる。


 どれもこれも、意を決したような顔であることを読み取るのは簡単だった。

 それを理解できたからこそ、古都音は余計な言葉を挟まない。


「ご武運を」


 返事はなかった。が、ゼクス達が踵を返したときその背中がいっそう力強く見えた。

 雪璃も、小さく「兄様、頑張って」と呟くだけに止め、古都音の次の言葉を待つ。


 3人の姿が見えなくなってから、古都音は雪璃へ振り返り、泣き笑いのような顔を見せつつ「……観客席に向かいましょうか」と。


「……古都音さんも、頑張ってるんだね」

「いえ、私なんてまだまだです。ゼクス君1人を支えるのにも、私だけでは足りない」


 だから、雪璃さんにも手伝ってもらいますから。と古都音は目に溜まった涙を指で払いながら少女へ笑いかけ、冷撫れいなたちがとっている観客席の方へ急いだ。






「……あれ? アマツくんは……?」

「先程、蒼穹城進と刀眞遼から連絡をもらい、そちらへ。……来ましたよ」


 観客席に到着した古都音は、そこに神牙かみきばアマツの姿が無いことに気づき、鈴音冷撫へ話しかける。

 返答は、そっけないもので。蒼穹城・刀眞からの呼び出しに古都音は首を傾げながら、冷撫が指し示した方へ顔を向ける。


 そこで目にしたのは、右手を隠すようにして歩きながら満身創痍といった状態の蒼穹城進を、遼とアマツが2人で支えながらゆっくりと歩いてくるという光景だった。

 たった数ヶ月前なら絶対に有り得ないだろうという光景に古都音はある種の感動を覚えつつ、進の右手――義手だったはずだ――が、引きちぎられている状態であることに気づく。


 同時に、進の身体が包帯で包まれていることに気づき、思わず問いかけてしまった。


「……どうしたのですか、それ」

「終夜先輩、ですかね? ……いや、ちょっと色々と有りまして」


「まともにこうやって、穏やかな雰囲気で話をするのは初めてですね」と苦しそうな笑顔を見せながら、進は何があったかをぼかす。

 相手が元はどんな人であれ。咄嗟に古都音は自分の【顕現オーソライズ特性】を発動させようとした。淡い黄緑色の光が彼女の両手のひらに宿るが、進は首を振って回復を拒否する。


「ああ、回復は結構です。……それは、ゼクス君たちの試合が終わった時にとっておくべきものですよ」

「…………」


 その言葉に、古都音は何も言い返さない。否、言い返せない。

 自分の持っていない情報を、目の前の少年は持っていると感じ取ったからだ。

 推測できる範囲では、決闘のあとに治療が必要なほどの激闘になるということ。


 少なくとも、自分が観戦してきたゼクスの試合ではそんなことは一度もなかったのだ。

 蒼穹城進との決闘も、榊有雲・無雲兄弟との決闘も、刀眞遼・栄都阿音との決闘も。

 ゼクスは、ずっと古都音の中では強さも何もかも、学園の中では別格の存在であったのだから。


「何か、知っているのですか?」

「まあ。脅して情報は手に入れ、それを颯には渡しましたから。颯が僕をまだ信用しているのかはともかく、颯は知っているでしょうし」


 進は嘘をつかない。少なくとも、ゼクス関係の事ではもう嘘を混ぜないと誓ったのだ。

 それ故に、すべてを伝えた。


「それよりも……今回は、もっと気がかりなことがあるのですけれどもね」

「その義手、どうしたのです?」


 ついに古都音が我慢できなくなったのか、進に問いかけた。

 応急処置的というか、隠してはいるのだが古都音に見つかってしまったかと笑ってしまう。


 けれど、こちらは状況を伝えるわけには行かなかった。

 決闘の途中で乱入が入ることは無いだろうが、それでも……。


 彼等、彼女らの近くに「置かせてもらっている」間、自分たちが何をすべきなのか。

 何をなさなければならないのか、分かっているから。


「……いや、これは……。何も問題は無いですよ」

「いえ、問題は有ります。可動部が完全にねじ切れてしまっているので、交換しないと」


 【顕装】のみならず、機械関係に明るい古都音の観察眼に隠し通せないことを悟り、進は心底焦っていた。

 首は動かさず目だけであたりを見回して、そして――。



 救い(わだいそらし)を見つけた。


時系列的にまだ1年の10月なんですよね、これ。

和解とは行きませんが敵であった人々が敵でなくなる、という光景をこの200話で描けて私は満足です。


これからもよろしくお願い致します。

次回更新は今日か明日です。明日は休みなので書けます。

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