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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第1部 第1章 入学
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第020話 「神牙アマツの許嫁」

「もう寮の門限ですよ」


 結局、アズサさんと別れてからすぐに医務室に戻って。

 もう夜9時。看護師さんにそう言われても、冷撫は動こうとしなかった。


「鈴音さん、神牙アマツくんは私達が責任を持ちますから」

「お願いします」


 説得に何分かかっただろうか。

 でも、冷撫の終始泣きそうな顔を見ていると、困るのも分かる。


 俺はその表情があまりにも痛々しくて、声をかけることすら出来なかったから。

 彼女をアマツから引き離すと、彼女が壊れていきそうな気がした。


「……ゼクスくんも、ありがとうございました」

「ん?」


 俺がそう聞き返し、彼女を見やる。

 冷撫の髪の毛は月明かりに照らされ輝いており、物憂げな少女はその程度を更に一段階上げて俺を見つめている。


「アマツくんを救ってくれて、ありがとうございました」


 我慢できなくなったのだろう。すでに頬には涙の筋が残っていて、そこから止めどなく溢れている。

 部屋の中に何か食物残っていたっけ、と俺は考えながら彼女を見つめていた。


 冷撫とアマツが特別な関係であることは知っている。

 彼女がどれだけアマツのことを思っているのか、よく分かっている。

 そして、同時に俺のことも気にかけていることも。


 彼女が俺を気にかけているのは、アマツが俺を気にかけているからというのが強い。

 それは、俺が今考えていること以上に強いだろう。


 そこに俺は入るつもりはないけれどもね。

 彼女が部屋に忍び込んでくることも、膝枕してくれるのもアマツが俺を気にかけてるからかどうかは疑わしいが。


「俺は何もしてない」

「でも、自分の『式』を公開してまで救ってくれました」


 医務室にずっと居たのなら、医者から詳しい事情は聞いているか。

 ずっとそばに居て離れなかったら、特別な関係だと思われて当然だろうし。


 俺の『式』の公開は、正直復讐を達成するときには見せしめとして必要だからあの状態で使っても問題はなかった。

 問題があるとすれば、蒼穹城に知られたことだけれど。相手は助けてもらって感謝しているらしいし警戒は抱いていないだろう。


 本当、アマツの暴走以外は全てが上手く行っている。

 ……あとは明日のことだけだな。


「でも、これからの学園生活に支障が出るのでは?」

「何時もは手加減しているのがってこと? だって手加減じゃないし」


 実戦では有利であっても、試験ではとんでもなく不利なんだから問題はないだろう。

 学園だって、特例なんて出してくれないだろうし。【神牙結晶】が認可されているのなら、認可されているものを使って試験を受けろと言われるのが普通だ。


 でも、実戦試験は違う。

 実戦試験は本当に「なにやってもいい」らしい。人を殺すのはアウトだけれど。

 だから、今回のアマツは問題になるだろうな。試験中止と言われる前に暴走したんだし。


「入る?」

「お邪魔します」


 ということで、なんだかんだあってもう俺の部屋の中である。

 最悪見回りが来ても、窓から出て行けばいいんだしな……って、何考えてるんだ俺は。


 わざわざ部屋のなかまで見に来る見回りは居ない。


「……ゼクスくんは、知っているんですよね?」

「危険性?」

「はい」


 暴走の危険性は分かっているけど、正直【顕現オーソライズ】に謎が多すぎる。

 そもそも、【顕現】を研究しようと言い出したのが50年ほど前の話。アマツの祖父が始めたのが初めてなんだから。

 それまで「神の力」なんて呼ばれていた【顕現】を研究すること事態、タブーとされていたんだ。


 日本に【顕現者オーソライザー】が現れたのだって、100年と経っていない。


 50年で何がわかった? いや、わかったことはあまりにも少ない。

 【顕現】に属性があるというのもわかったのは20年ほど前の話で、全属性が何種類あるのかすら解明されていない。


 一番多いのが地氷焔風空で、次に多いのが光闇。

 ケースが少なすぎて、はっきりと断定されていないものだっていくつかある。


 極めたら煌めくとか、そういうのも本当に、本当に最近の話。


「でも、冷撫も俺もアマツも、【顕現者オーソライザー】として生きていくことを決めたんだろう?」


 それは、結局自分たちの選択。

 この学園に入って、アマツに「やめろ」なんて言えないことはれいなだって分かっているはず。


 ……ああ、だから悩んでいるのか。

 心を痛めているのか。


 本当、俺には出来ない芸当だなぁ。


 俺は一息つくと、インスタントのコーンスープを開けた。

 3人分のカップが、小さなキッチンにはすでに用意されている。


「まあ」


 俺が口をあけると、冷撫ははっとしたようにこちらを向くのが分かった。

 本当、アマツが羨ましいな。




 ……こんな優しい子が、許嫁いいなずけなんだもんな。






 それでも、冷撫が俺を気にかけているのは理由があって。

 アマツは『俺と鈴音は許嫁だけれど、恋人じゃない』って言ったからなんだよな。

 だから、あんなことやこんなことを彼女が俺にしていても、アマツは何も言わないんだけれど。




「これからも、こんなことがあったら約束する。また止めるよ」

「……お願いします」


 

冷撫はヒロインの一人ではありますが、真ヒロインは別です。

もうでた、まだ出てないはともかく。


この話で、第1章は終了。人物紹介を挟んで次へ行きます。

次回更新は明日のお昼ごろ予定です。

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