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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第8章 復讐鬼
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第198話 「大鎌【タナトストルドー】」

2016.05.20 1話め

「……ちぎり、何をしているの?」

「何がでしょうか、進様」


 僕、蒼穹城進は目の前の少女が隠れて何かをしていることに気づき、声を掛ける。

 彼女と婚約者ではなくなってからもう1ヶ月ほど。最初は僕の方を恨めしく見つめていた契も、今は僕の方を見なくなったんだけれど。


 最初から、そんなに接点なんてなかった。蒼穹城家が東雲家にちょっかいをかけていなかったら、僕は彼女と出会うこともなかっただろうし。

 その人生のほうが、彼女にとっては幸せだったのかもしれないけれど、僕にはもう関係のない話だと割り切りたくて。


 今、東雲契の周りには顕現力が漂っている。今まで彼女の中からこんなに強い顕現力があっただろうか、と記憶を探ってもわからないような高濃度に、それは存在していた。

 【顕現オーソライズ】の色は、なんとも名状しがたい紫色。それが結果的に本当に、紫色なのか、それとも焦げ茶なのか、それとも黒に近い何かなのか。

 僕には理解が追いつかなかった。彼女が持っているのは短剣の形をした【顕現オーソライズ】で、こちらに向けているようにも見えるけれどよく分からない。


「それは?」

「ふふふ」


 彼女は、どこか恍惚とした虚ろな目でこちらを見て笑うのみであった。

 ただただ、そうして。僕をじっと見つめる。


 こちらが、不気味さを感じ取り一歩下がったのを感知してから、笑う。

 ニタニタとも、ケタケタともつかない、ただただ不気味な声が。


 本当に、契から発せられたのかもすら定かでない、そんな声が僕を襲う。


「進様、貴方には感謝しているのです」

「……どういうこと?」

「この前、私を電池扱いしてくれたじゃないですか」


 ……僕は、その記憶を持っていた。人道的な行いをしていなかったことは、認めざるをえない。

 三人分、それも一人分でも普通ならぶっ倒れるだろう【顕現属法ソーサリー】を、契の人並み外れた顕現容量を利用して、法者の負荷を彼女に写した。

 数ヶ月の間、彼女を昏睡状態にしてしまったのは紛れも無く僕で、それを許してくれなんて言えない。


 そう決心したはずなんだ。改心したはずなんだけれど、なんだろうこれは……。

 この、背筋を走る寒気は、何なのだろう?


「そのおかげです。そのおかげで、私はこんなにも強くなったんですよ?」


 先程まで短剣型だった【顕現オーソライズ】は、姿を巨大な鎌に変えていた。

 伝説で見るような、死神が持つような。魂を切り取れそうな形をした大鎌を構え、契は笑っている。


「この前のお返しをしなければ、ですね」

「……僕にはほとんど、顕現力はないよ」


 半分以上、ゼクス君のおかげで【拒絶】されてしまったからね、と僕はウインウイン音を鳴らしながら関節を回してみせる。

 右腕は肩から、顕現力の通らない義手だ。普通の手よりも少々の遅れはあるけれど、ただそれだけ。


「いえ。貴方の顕現特性を頂きます。……学園ではまだ一度も使っておりませんが、強力なものを持っているのは知っていますから」

『……進、どうする?』


 僕の顕現特性、か。確かに、この学園ではまだ使っていないけれど。

 学園に入学する前から僕のことを知っている契なら、それを知っていてもなんの問題もないのか。強力、って言っても結局はそこまで強力じゃないんだよね。

 亜舞照鳳鴻とか、ゼクス君とかのものを見ていたら僕のなんてちっぽけなものだ。


 【氷神切兼光ヒョウジンキリカネミツ】が、僕の危機を察知したのか声をかけてきた。契は呼応するようにカネミツが光ったのを認識したのか、警戒するように大鎌を構え直した。


『さすがに、あれはとられるわけには行かないね。……これが無くなっちゃうと、次代が無くなっちゃうから』

『了解。……殺さない程度に抗うとしよう』


 さて、それが何か、とりあえずは聞いてみるとしようかな。


「それはなに? 少なくとも【顕現オーソライズ】による武器ではなさそうだけれど」

「……そうですね。……進様ですから、教えましょう」


 そういって、契は再び歪んだ笑顔を僕に見せた。


「彼の名前は【タナトストルドー】。冥土の土産ですし、しっかりと刻ませていただきますね?」


次回更新予定は明日。けれど早く書けたなら今日。

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