第192話 「尋問」
2016.05.14 1話め
亜舞照がいつもこもっている場所とはまた別な校舎裏に、蒼穹城進はトラン=ジェンタ・ザスターを運んでため息をついていた。
頬を数回ビンタして起こし、目覚めるとともに薬を数粒飲ませ、無理やり飲ませた上で包帯やら何やらを巻き始めた。
「カハッ……ソラシロ、どういうつもりだ……何故、俺を」
「ちょっと静かにして。……折角介抱してるんだから」
にっこり、と。相手に恐怖を植え付けるに等しい笑顔をみせながらも、テキパキと応急手当をこなしてゆく進に対し、トラン=ジェンタ・ザスターは何も言うことが出来ない。
手当が終わった頃、絞りだすように声を発するのがやっとだ。
「……クソッ、あんな奴ら【アレ】があれば……」
「そうだね、そうだろうけれど……僕からは何も言えないよ」
彼のいう【アレ】の正体を、進は知らない。けれど、あの自信は自分も見せたことがある。
そういう場合、まあ大抵の場合は勝利することが出来ないだろうが、と進は考えつつ……。
予防線を張ってよかった、と腕時計を見つめながら時間を測り、そろそろかと溜息をつく。
途端、ザスターは驚愕の表情を浮かべた。
口から悲鳴が漏れ、表情が激しく歪む。
体が動かない。その事実に気づき、それが包帯のせいではないことに気づく。
体の内側から、力が入らない。力を入れようとすれば、身を引き裂くような痛みが走った。
「ぐっ!? ……貴様、何を……!」
「ああ、これ? 麻痺回復薬だよ。しばらく動けないけれど、ほら回復しているでしょ?」
「どういうつもり、だ」
一時期、体が動かなくなる代わりに傷が早く治る薬、などと彼は笑っているが麻痺回復薬などという物は存在しない。
そもそも、回復する効果すらその薬には入っておらず、ただの【顕現】から作った麻痺毒である。
進はそもそも抵抗できず、許されていないザスターに対して【氷神切兼光】を突き付け、もう一度笑い……そして【顕煌遺物】に話しかける。
「【氷神切兼光】、ちょっと固めてくれる?」
『いいだろう』
【氷神切兼光】が呼応するように、白く光りだす。
次の瞬間、ザスターは自分の身体が、足の爪先から凍り出していることに気づき、狼狽した。
そんな彼を見つめつつ、蒼穹城進はもう笑っていなかった。
口調は穏やかであるが、その目は冷たい。
「ちょっと尋問させてね。君の言う【アレ】って、【顕煌遺物】なのか、それとも【顕装】なのか教えてくれないかなぁ?」
「……貴様……!? 貴様はどちら側に居るんだ?」
「僕は傍観者、だよ」
同時に、内通者。と、進は流石に口はしなかったが、自分の目的のためになにか含みのある視線を見せる。
彼は、彼の考えで動きを始めていた。
ザスターは、凍結が広がりついに首元まで達したのを感じて、慌てて返答をした。
「け、【顕装】だ」
「ありがと、では。今回、颯がやったのは模擬戦だったってことで話は通すこと」
「なん……!?」
けれど、凍結は収まらない。加えて条件を重ねられ、戸惑いを見せる。
しかし、彼の驚いきはこれだけでは止まらなかった。
次の、進の言葉にザスターは目を見開き、悔しそうに歯ぎしりを見せた。
「通さないと、【氷神切兼光】が暴走しちゃうなー。ヘタしたら死ぬかもね、これ【顕煌遺物】だし」
「貴様も……所有者か!」
「僕の実力じゃないけれどもね、いや。無駄話は必要ないんだよね」
この一言で、進はある程度状況を察した。
きっと、ザスターは今回送られてくる【顕装】を自分だけの【顕煌遺物】として扱っているのだろうと。
所有者、という言葉に敏感に反応した彼はそういう事情があるのだろうと勝手に判断し、進はしかし、心を痛めた。
自分の【顕煌遺物】、【氷神切兼光】は自分と本契約を交わしていない。
元々は自分を騙していたが、つい先日彼はそう言ってくれたのだ。自分に謝ってもくれた。
探している血筋が【御氷】、つまりは御雷氷でありそういうことではあるが、今のところは仮契約であったとしてもそれを破棄する気はないと、頭を下げられた。
けれど、進は知っている。いつか別れが来てしまうことに。
最初は、自分勝手な復讐心からだったけれど、数ヶ月絆を結べて進は満足している。
「では、またね」
進は指をぱちんと鳴らし、凍結を解除させて進はザスターを放置して去ってゆく。
その途中でふと考えたのか、自分の【顕煌遺物】に話しかけた。
「カネミツ、【顕装】を【顕煌遺物】化させることは可能? 逆でも問題ないけれど」
『この世は不可思議なものだ。その方法ももしかしたらあるのかもしれないが、少なくとも俺は知出来ない。そもそも【顕装】は【顕煌遺物】をもして作られた贋作であり、中に【コア】がなければ起動できない。が……俺たち【顕煌遺物】は、この存在自体が一つの【コア】だ。だからそれは必要ない』
「つまり……あ、そっか」
人工物である【顕装】と、神話や伝説の産物である【顕煌遺物】の違いを聞き、ふむふむと頷く、その途中で……。
――察した。
『そう。御雷氷ゼクスの【書換】やらで可能だ。まあ、本人に知る由もないことではあるが』
進は考える。八龍ゼクスは、何処へ行ってしまうのか――と。
昨日は更新できず申し訳ありませんでした。




