第185話 「【Vy-Dialg】&【Kopio】」
2016.05.05 1話め
「おお。やっぱり、【顕装】ということは顕現力を辿っていると考えたんだね?」
「ああ。分かってしまえば、どれだけ早くても対応できる」
僕は、目の前の少年に視線を合わし、注意深く見つめた。
たった20秒程度の動作の中で、彼の実力というか……こちらに追いすがれることは理解する。
正直、彼が今のところはこちらに敵意無しで良かった。古都音さんが何か彼に伝えたのだろう、例えば……僕達ファルクシオン家は、ザスターけと対立しているだとか、そういうことを。
「そうやって対応できると断言できる君が心底恐ろしく、また心底素晴らしく感じるよ」
【Vy-Dialg】と僕の間に、顕現力が着色されて紫色の軌跡が見えるようになった。
これで、相手は僕が操作しているその先が分かったということかな?
でも、僕も負けて居られないからね。少々手の内を明かすことにしよう。
彼の顕現特性がこの場所で公開されるかわからないけれど、僕は少なくとも本国では普通に後悔していることだ、特に問題はないだろう。
「これはどうかな?」
僕は、顕現特性を発動した。【Vy-Dialg】を握った両手が光り出し、【Vy-Dialg】が3つ、4つ、5つと数を増していく。
それぞれが本物の【Vy-Dialg】であり、同時に僕が操作するもの。
本当に、顕現特性ってのは固有のもので、かぶることはほとんどないって言われているし……。
でも、僕のものってそんなに強くないんだよね。御雷氷冷躯さんの【不可侵】や、ゼクスの【拒絶】に比べたら、僕のものなんて大したことじゃない。
ゼクスの方を見やると、彼は顔をしかめてこちらを見ていた。
僕の【複製】も悪くないはずなんだけれどもなぁ。
多分、僕には顕現容量に比例した制限があるのに対して、ゼクスや冷躯さんは無いのが原因なんだろうけれどもね。
「それは見せてしまっても良かったのか?」
「手の内を明かさないほうが良いと判断したなら、だよ。僕は実質的な制限は【顕煌遺物】だけだよ」
ゼクスは、新しい脅威を気にしているのではなく、こちらの心配をしているようだった。
僕はそう返し、彼が「そっか」と気にした様子もなく【始焉(shen)】を構えるのを見て、5本の【Vy-Dialg】のタイミングを合わせながら、不規則な軌道を描きつつ追撃を加える。
それは例えるなら……赤い雷、だ。【顕装】だから効果は特に無いけれど、これには少々特別な事情があって……。
簡単にいえば、「半【顕煌遺物】、半【顕装】」っていうのが一番あっているような気がする。
……でも、僕の【Vy-Dialg】による突撃は一度として彼に当たることがなかった。
瞬間移動、という表現が正しいのかはわからないけれど、タイミングを合わせて攻撃しているのに、攻撃が当たる頃にはゼクスがそこに「いない」。
ミサイルのように軌道を急いで修正しても、またもやそこにいない。
そんな事を数回繰り返して、ゼクスは最終的に何処へやってきたかというと僕のすぐ前にやってきた。
――あっ、という間に僕は【始焉】の一撃をくらい、後ろに吹き飛ぶ。
その代わり相手が攻撃に専念していたためか、2本の【Vy-Dialg】が除け切られず、軽い傷をつけたらしい。
顕現特性【複製】が終了し、僕は苦笑いをしながら彼を見やった。
これで引き分け、のはずなんだけれど彼の一撃がやっぱり強すぎる気がする。
「ゼクスも、その【書換】は見せちゃって良いんだ」
「ちょっとなー。今まで無詠唱で発動させるってのが出来なくてさ、今その特訓をちょうどしていたんだよ」
だから、今回は訓練の成果を見せるってことで。
そういって、無邪気な笑顔を見せるゼクスに、僕は戦慄が身体を走り抜けるのを確かに感じた。
この人は……やっぱり、強者だ。
「さっきの……僕の使った跳躍に対して、追いすがってきたのは何で?」
「あれは訓練に拠る身体能力だ」
……やっぱり前言撤回。
このひとは、強者と何かが違う気がする。
八龍冷躯さんや僕の父親のような、次元の違う強さの類だ……。
次回更新は明日の予定です。
毎回【書換】と書く度にとあるフレーズが頭に浮かぶのは私だけでしょうか。




