第184話 「前半20秒」
2016.05.04 1話め
「【顕現属法】は全然OKだからね!」
古都音さんの合図が聞こえるとともに、僕はそう叫んで彼の様子を伺ってみることにした。
僕、ネクサス・ファルクシオンはずっと退屈していた。日本に来たって出来ることは限られているし、そもそも驕りでしかないけれども自分の実力、【顕装】のスペックに見合う相手が国内外どこにも同年代で存在しない。
そんななか、【ヨスガラ】が今度招き入れようとしている少年のことを知った。
古都音さんが一目惚れに近いものを起こしてしまい、そのまま今に至るという。
その行動原理は「復讐」で、強い怒りを常に蓄えているだとかなんとか。
僕はその人に興味を持った。「トウマ」から捨てられて「ヤリュウ」へ、そして最近「ミカオリ」として【八顕】に復活した少年、ゼクスを知りたかった。
【八顕】同年代を圧倒的な力でねじ伏せる事ができる。その噂や流出した動画を見て、僕の彼への関心は更に強いものになったのだ。
「【選別】」
こちらが行った「許可」に対して、御雷氷ゼクスは忠実にそれを行った。
僕の顕現力が、ゼクスに干渉されているのが分かる。が、それは自分に特に何もしていないようだ。
僕は【Vy-Dialg】を手に持ち、さてどうしようかと考えた。【選別】というおそらく【顕現属法】が何を意味するのかはそのニュアンスで大分分かったけれど、それが明確にどんな効果を示すのか、よく分からない。
さて、と。構えた【Vy-Dialg】に顕現力を込め、槍を投擲するようにして光線を放つ。顕現力は空気と同じで、圧縮すれば質量を持つ。無色透明、というわけには行かなかったが僕の持つ【風】属性をまとった顕現力は、薄黄緑色を孕みながら高速でゼクスへ迫っていた。
ゼクスは特別何かをするでもなく、しかしその「一筋」を正確に捉えていた。
身体に力を込めるようにして顕現力を纏うと、そのままゼクスを中心に全方位に顕現力を「爆発」させる。
こちらが驚くほど、濃厚な顕現力は僕の光線を跡形もなく吹き飛ばしてしまった。
……なるほど。
僕は、少しだけ考えた。彼は【顕現属法】型の【顕現者】なのか、と。
詠唱が混じっているのは、きっとまだ訓練中なんだろう。けれど無詠唱でやった先ほどの「何か」も十分に顕現力は纏えていたし、その一瞬だけだけれど顕現力が視認できる状態で東洋龍のように「うねった」のを僕は見逃さなかった。
「次はこちらの番だな」
ゼクスが……一瞬ニヤリと笑ったのを、見逃さなかった僕は本能的に危険を察知し、【Vy-Dialg】を上に投げつつそこに追従するように上へ、上へ。
下を向けば、先ほどまでお腹があった場所に彼の掌が突き出されている。
僕は空気を顕現力で壁にし、それを蹴って空を駆けた。
しかし、その瞬間――
――僕は、自分が「空ならついてこれないだろう」と驕っていたことが、驕りでしかなかったことに気づいた。
「それ、便利だな」
ゼクス君は僕の下に迫っていた。顕現力は一切感じられなかったし、他の特別なチカラ、例えば顕現特性が使われた様子もない。
そもそも、顕現特性も顕現力は消費する。【顕装】だって維持に、長期的に見れば多大な顕現力を使用するだろう。
……けれど、それを使った形跡が……!?
横っ腹に一撃、強い衝撃を受け僕はフィールド上へと叩き落とされる。地面を数回転がり、すぐさま立ち上がって【Vy-Dialg】を投擲した。
このくらいの攻撃なら、丈夫な【顕現者】にはどうってことはない。
命に別状はないとはいえ、脇腹がまだ針に刺されるような痛みを訴えているのを見るに、相当強い力で蹴られたらしい。
【Vy-Dialg】は、ジグザグに起動を変えながらゼクスに迫った。
僕が空間を把握し、描く通りに動く。脳でラジオコントロールを行うようにし、思考で【顕装】を操作する。
一般的に、【顕装】は操作者の手元を離れることが出来ない。維持するための顕現力が、手元を離れてしまうとどうしても供給できなくなって【顕装】がシャットダウンされてしまうからだ。
けれど、これだけは違う。【Vy-Dialg】は、普段から市販されている【Neo Val Xione(ネオ ファルク シオン)】社製【顕装】の維持顕現力の……平均の、数倍を僕から吸い取る代わりに、最大2分の遠隔操作を可能にしている。
並外れた顕現容量を持った僕レベルでしか動かせないし、思考で動かしている限り相手に軌道が読まれることは少ない。
僕の考え方が単純でないこともかなり影響しているんだろうけれど。
「……こういう戦いを」
待ち望んでいた、と僕は本心からそう思った。まだ試合は開始してから20秒ほどしか経っていない。
けれど、確かに相手の技量を測ることが出来る。僕と同等、それ以上に戦える人はいなかった。僕の「一筋の光線」を自身の【顕現属法】のみで弾き飛ばした人間なんて、少なくとも同年代では彼が初めてだったし。
ゼクスが、【始焉】を起動して構える。避けることを放棄して、受け流すことに専念しようとしたのだろう。
絵に描いたような二次元的なジグサグではなく、上にも下にも左にも右にも、前にも後ろにも脈動する僕の【Vy-Dialg】を、捉えることなんてかなり難しいと思うけれど。
……ここで「無理」と言わなかったのは、彼ならやってくれるだろうと期待してのことだ。
そして、彼はそれを実現した。
僕は、手応えがなく不満気に激しく点滅している【Vy-Dialg】をキャッチし、いたわるように軽く握りこむ。
さて……手の内を周りには見せたくないのだけれど、そろそろそうも言っていられないかな?
次回更新は書ければ今日、書けなかったら明日の予定です。




