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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第7章 御雷氷・八龍・御氷
182/374

第182話 「義務」

2016.05.01 1話め

 僕は少なくとも、ずっと復讐を考えてきたわけじゃない。

 もちろん、考えた時もあった。でもそれを考えられるのは短いスパンの時だけで、すぐにもっと大きな事態が舞い込んできたから。

 特に、今は亜舞照家の当代当主になってしまった。けれど、僕は知識が有るだけの少年で。


 僕だって、立場さえ変わっていたらゼクス君のようになっていたのかもしれない。

 義のための復讐なんて絶対にない、ただの私怨だ。どちらが正義かはわからない、が、僕はそんなことどうだって良いのだ。


「また今日も、殺せなかった。やろうと思えば出来たのに」


 僕は、ザスターが目覚め出て行った医療室を憎々しく見つめながら、はぁと溜息をついた。

 本当に、僕は甘すぎるんだ。そのまま宇宙へ飛ばすとか、精神を崩壊させたりとか、彼に対してなら簡単であるというのに。


 なのに、僕は怖い。人を殺す、ということはあの抗争で何回か体験した。すべて決闘という方式だったから罪には問われなかったけれど。

 僕は……内側から人間を殺したことは、なんどでもある。決闘が始まった瞬間に相手の感情を操作しきってしまえばいいのだから。


 けれど、意識を持って復讐するというのは、何度決意しても難しいものだ。

 強い憎しみを持っていたとしても、それに必死になることが出来ない。明確な意図をもって人を殺すということ、それが何か、僕にはよく分からない。それどころか、相手に外傷を与えることすら僕は躊躇してしまう。


「やめて、鳳鴻。貴方がいなくなると、ミサキが悲しむから」

「……守れなかった僕に、価値なんて無いよ」


 ぼくはそう言って、自分を卑下した。

 自虐的な言葉だ。実に自虐的で、いえば言うほど自分を自分で陥れているような感覚すらする。


 でも、それをやめられない。この数年、ずっと後悔してきた。

 ずっと、ずっと。それをやめることが出来なかった。


 アズサが僕のことを心配してくれているんだろう、ミサキのことも親友なりに気遣っているに違いない。

 けれど、それは本当に僕に届いているのだろうか。

 僕は……悩んでいる。


「なら、責任をとってこれから支えなよ」


 彼女の言葉は、飽くまでも力強いものだった。僕の背中を後押ししようとするものだった。

 僕の、幸せを願って言う言葉だ。同時に、亜舞照家の当代を理解して言っていることで、この日本の【顕現者オーソライザー】未来を考えていることなのだろう。


 だからこそ、俺はその言葉をなんとか聞き入れようとした。


「鳳鴻が行ってない間、私が行ってないわけじゃないんだぞ。頼むから目をさましてくれ、鳳鴻」

「でも」


 でも、だ。けれど、僕はそれを聞き入れられないのが悔しい。


「でも僕は、許せないんだ。ミサキを壊したトンラン=ジェンタ・ザスターを」


 もし【神牙結晶】が開発されていなかったら。

 もし、僕に才能と普段からの努力によって培った戦闘能力が備わっていなかったら。


 今以上にひどい状態になっていたのかもしれないのだ。


「だから、次は僕が彼を壊す番だ。憎しみの連鎖は止まらないのかもしれない、けれどそれでも僕は……自分が死んだとしてもそれを何とかしたい」

「ミサキを手放しても、か?」

「ミサキは手放さないよ、ミサキは亜舞照家が幸せにする」


 その瞬間、頬に強い衝撃が走った。


 原因が彼女の振るった平手打ちだと分かるまで、時間を要し僕は目をパチクリとさせる。

 アズサは、泣いていた。今まで自分で殻を作っていたからかもしれない、相手の顔を見ていなかった僕は、彼女が泣いているのを認識してしまい狼狽する。


「……ミサキのこと、なんも分かってないんだね。鳳鴻、貴方も幸せになる【義務】があるんだ。それを私も斬灯りとも、アマツも今まで言わなかった意味くらい分かれ」


 アズサは踵を返し、そのまま去っていった。男勝りな彼女が泣くのを見るのは初めてだし、おそらく人の前で初めて泣いたんではないか、と推測する。


「女性を泣かせるなんてサイテー」

「……斬灯もいたの?」

「最初からいたよ。……私から貴方に言えることは限られているけれど、古都音とゼクス君に、聖樹と自分を重ねているんでしょ?」


 僕は頷いた。ただ、僕にはまぶしすぎる存在だと感じて、今の今まで接触できなかっただけで……。


「なら、彼等を目標にすればいいんじゃないかな。貴方は聖樹を幸せにして、貴方も幸せになる。聖樹を幸せにするのは義務だけれど、貴方が幸せになるのも充分に義務だと思うけれど? 少なくとも、聖樹は貴方の不幸を望んでいない」


 斬灯がそういって、うつむいた。彼女も聖樹に会っているのだから当たり前か。


「聖樹は、貴方を責めてなんかいないのよ。彼女には何でもお見通しで、貴方が彼女の前では仮面を被ってるのもわかってる。だからこそ、聖樹は……」


 それ以上の言葉は、言わなくても分かっている。

 僕は深く頷くと、「ありがとう」と声をかけて自分の部屋に戻ることにした。


 僕も、もう少し考えなきゃならないことがたくさんある。

 人を殺すのって難しいことだ。殺意を覚えていても、それに対して素直になることは難しい。

昨日は更新できず申し訳ありませんでした。


次回更新予定は今日です

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