第018話 「【re】から始まる顕現術式」
本日3話目
蒼穹城進という人間は、結果のみを重視するタイプの人間だった。
東雲契という人間は、結果が全てと洗脳されてきた人間だった。
刀眞遼をはじめとして刀眞家の人間達は、過程を無価値と判断する人間だった。
その気持ちが、ゼクスを見捨てた。
ゼクスの何がダメだったのか、何が試験に引っかかったのか。
誰ひとりとして疑問に感じていなかった。
結果が全てなのだから。
それがたとえ、ゼクスが「試験に不利で、実戦に有利」な能力で。
方法が違えばいくらでも挽回できるものだったとしても、気づくことがなかったのだ。
ゼクスは、そんな彼等を赦すことがない。
八龍冷躯はそうではなかった。
八龍カナンもそうでなかった。
神牙家も、鈴音家もそうでなかった。
だから、八龍ゼクスは。
自分を見捨てなかった人々を、深く思うことができる。
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「【4】:【re】:【coil】」
俺の唱えた『式』は、この世界で一番奇妙なものであっただろう。
他の人が、例えば形式に則った『式』を詠唱したり、他の人のものをパクって使ってもある程度は扱えることが多い。
けれど、これだけは違う。
他の人がこれを発声したところで、何も起こらない。
正真正銘俺だけが使える『顕現式』が、ここにある。
俺は右手に一振りの冷たい片刃剣が握られているのを感じながら、金色の焔へと飛び込んだ。
「アマツ!」
彼本人は、すでに自身すら喪失しているようだった。本当に暴走状態で、ただ試験場を破壊し尽くす獣へと化している。
流石にまずいか。
俺は右手に握られた剣を、左上に向かって力任せに薙ぎった。
轟々と音を立てて唸る焔を、剣の斬撃が切り離すように分断する。
焔は、俺の剣を苦手とするように遠ざかり、分断された焔は別方向へ勢力を伸ばそうとしていた。
その先には蒼穹城がいたが、この場で焼き殺されちゃたまらない。
殺したら相手に救いを与えるようなものだから。
もう一度、同じ『式』を唱える。
次は左手。ただ、前回と違ってこちらは細剣というよりは長い杭に近い。
十字架に近い形状をした杭だ。色は水色。
それを、蒼穹城のそばに投げてぶっ刺す。
地面に刺さった瞬間から、半円状に広がり蒼穹城を結界のようなもので包んだ杭をみて、問題のないことを確認する。
あれは氷属性の【顕現物】。
この世界には属性にある程度の相性はあるものの、明確に「勝てない」ということはない。
蒼穹城はこのくらいでいいだろう。死んでもらっては困るが、重傷なら重傷なほど俺としてはありがたい。
さて、次はアマツだが……?
「う、う。……がが」
アマツは、俺を認識したかしていないかの状態で自分をなんとか制御しようとしているらしい。
先ほど俺が失ったと判断した自我を、取り戻そうとしているのか苦痛に満ちた声が漏れていた。
後は、この状況が収まるまで俺がすべきことは殆ど無いな。
いや、早く状況を改善させるなら、俺が力を出したほうが良さそうだ。
「アマツ、俺が分かるか?」
返事はない。けれど、目線はおぼろげながら俺の方を向いている。
このまま、俺が敵だと判断されなければいいが。
「……拘束するよ」
彼に確認するように話しかけて、左手にもう1本「杭」を顕現した。
蒼穹城を守っているそれと同じく、水色に煌めいているそれは俺が真下の地面に刺すと同時に効果を発揮する。
しかし、今回は蒼穹城のときのように誰かを守る目的じゃない。
氷属性の結界で未だ金色の焔を噴き出しているアマツを囲み、彼を元の姿へ「巻き戻す」するためだ。
焔自体に自我はない。だが、この焔はアマツの固執の結果。
ならそのほとぼりが冷めるまで、申し訳ないが拘束させてもらおう。
「【4】:【re】:【strain】」
地面から、虚空から、結界の壁から。
四方八方から合計4属性の鎖が飛び出し、アマツを「拘束」する
その姿を見て、俺はどう感情を持てばいいのか分からなかった。
この能力を使ってよかったのか、と聞かれれば「アマツのためなら」と答えていただろう。
しかしこの状況は。
どうしても、何か虚しいものを感じてしまったのだ。
もし自分が同じ状態になっていたら。
……だめだな、あまり考えないほうが良さそうだぞ。
次の更新は明日のお昼ごろになる予定です。




