第178話 「カウントダウン」
2016.04.27 2話め
『あと……回、かな』
「なんだって?」
夢のなかで、『彼』が何かをカウントしていた。
何をカウントしているのかはわからないし、あと何回というのも聞こえなかった。
しかし、確実にカウントしていることだけが分かる。
「何をカウントしているんだ?」
『何、か。君がオーソライザーになるまでの使用回数かな』
『彼』の姿は見えない。けれど、その懐かしい声。
本当、何処でこれを聞いたんだったか。小さいころだ。少なくとも4年以上聞いていない声だろう。
それにしても、俺が【オーソライザー】になるまでの、「何か」の使用回数……とな。
「いや、俺はもう【顕現者】のはずなんだが」
『違うよ。【オーソライズ】っていう言葉は、元々【権限】を意味する言葉だよ?』
黒い世界、黒い空間。その中で、声だけが響いた。
それは知っている。その意味も、俺は学園で習っている。
けれど、何故今頃。こんな話を?
「それを、昔の人は知ってていた、と?」
『いや、ニュアンスは間違っていたんだろうけれどもね。飽くまでも思いを「顕現」できる【権限】を持つから【顕現者】。けれども真の意味はそれとは似て異なる物だ』
……だんだん、声が楽しそうなものから堅物の発する哲学のような物になってきた。
けれど、この声から俺は何か新しい発見が出来るのだろう。きっと未公開情報であり、これを聞いている俺はある意味の、世界の真理を見つめているような気分になる。
もしかしたら、俺が聞いてはならない話なのかもしれない。しかし、『彼』は俺の敵ではない、そんな気がする。
だからこそ、こうやって聞いていても問題はないような気も、する。
気がするだけだ。俺は何が正しいのかわからないし、そんなことをわかろうともしていない。
『感情の激化、思いの激化。それらによって、人間よりも高位の存在に達する。……【顕煌遺物】と心を通じ合える所有者になっている時点でそれは半分達成されている』
「……何を言っているのか、全くわからない」
意味深な言葉に、俺は首を傾げると『彼』は「すぐに分かるよ」と。
オモチャを見つけた少年のように、嬉しそうな声を響かせ笑う。
『君が本当に僕に相応しいか、見極めさせてもらうよ。……今回みたいに、【拒絶】することで自分の大切な人を救うのは、ポイントが高かった、けれど』
たかかったけれど、ということはその後なにかあるということだ。
俺はそれを理解し、次の言葉を待つ。
大切な人を救う、というのは意味合いが少々違うのだと思う。
やっぱり、感謝されても他人に評価されても、あれは自己満足だ。くどいかもしれないが。
俺がやりたいからやった。その結果、よい方に状況が傾いただけ、だろう。
『次の敵は、どうかな? 君一人で倒せるのかな?』
次の敵、か。
おそらく、ザスター家だろうな。
トラン=ジェンタ・ザスターもそうだが。
鳳鴻にも何かあったらしいし、何があったか聞いてみる価値はありそうだな。
……不意に、声が聞こえた。
「ゼクス君?」
その声で、俺は現実へ意識を引き戻される。
慈しむように優しげで、またこちらの精神をプラスに直接作用してくれる声の持ち主は、少なくとも俺が知っている中で古都音しかいない。
俺は、先程まで何をやっていたか、と首を傾げ……。ああ、昼寝をしていた事を思い出した。
「ああ、大丈夫」
「お昼寝、気持よかったですか?」
ちなみに、膝枕である。膝枕。
あと何が素晴らしいって、生足である。
肌触り最高なんだが、俺はどうすればいい? やっぱり堕落した生活も悪くないのではないか、という邪な考えが頭を付いてはなれない。
古都音は、男を駄目にする女性のトップに君臨できるのではないかと馬鹿な考えが頭をかすめ、俺は頭を振りながら意識を保とうとあがいた。
が、口から出たのは一言のみである。
「最高」
俺の言葉を聞いて、古都音がくすくすと笑う。
こちらの髪の毛を撫でながら、二度寝の誘惑をするのはさすがと言える。
もう一眠りしたい。したいが、確か午後は……。
「ふふ。午後はどうしますか?」
「古都音はどうしたい?」
「流石に、起きてから午前全部鍛錬に使うとは考えてはいませんでしたので、午後くらいは時間作ってくれますよね?」
午後は、古都音と学園内デートである。
学園の外に今から申請すれば行けるだろうか。今週の買い出しにも行っていないし、学生課に申請をだしてみよう。
今日はバイトがあるので今日の更新は今日でおしまい。
次回更新は明日です。




