第177話 「愛詩聖樹」
2016.04.27 1話め
昨日は更新できなくてすみませんでした。1度はしたけど。
「……何時でも、何度目でも、ココに来るときは緊張するね」
愛詩家は、天舞照家より北に3キロの場所にある、どちらかと言えば名家の出身だ。
インターホンを押してすぐに、両親は居たようで出迎えてくれた。
どちらも此方が来るのを嫌がる様子もなく、こうしてくれるのはとても精神的にありがたい。もし、天舞照家と抗争していなかったら、こうなっていなかっただろうから。
「鳳鴻君、また来てくれたんですね」
「お邪魔します。……聖樹はいらっしゃいますか?」
ミサキの母親は、すぐにミサキを連れてくるようだ。
父親は俺に柔らかな顔を浮かべ、「わざわざ来てくれてありがとう」と頭を下げる。
僕は慌ててそれを直させ、連れられて車椅子に乗ったミサキに話しかける。
「……ミサキ。来たよ」
「いらっしゃい」
眼帯をした少女、それがミサキだ。
黒い髪の毛は艶やかに太陽の光を浴びて反射し、薄紫色の目は僕をじっと見つめている。
こんな状態になっても……美しいんだから、俺はミサキがどうなろうとも愛し続ける自信はあるのだけれど……。
「ちょっと、外に出たい気分だね。車いすは僕が押すから行こうか」
「……うん」
ミサキにそう話しかけ、僕はミサキのご両親に頭を下げた。
天舞照の当代だから、とか。【三貴神】の代表だから、とか。
そんなこと全部合わせても、彼等は僕をずっと「鳳鴻君」と呼んでくれるのが、堪らなく僕は幸せだと思うんだ。
実家でも、何処言っても「様」「さん」付だからね。
「身体の調子はどう?」
「……大分、よくなった。神牙ミソラ様からもらった【神牙結晶】のおかげで、精神も乱されることが少なくなったよー?」
ミサキはキャイキャイとはしゃいだように、首にかかっている【神牙結晶】を見せてくれる。
……ゼクス君も、そして今は冷撫ちゃんもつけているそれは、彼等と変わらず何かの負荷を受けて淡く光っていた。
ゼクス君は、憎しみだった。彼は自分の激情を抑えることが出来なくて、それを抑えるために……同時に、自分の【顕現】の発動時間を無理やり抑えるために使っている。
冷撫ちゃんは、原因不明。けれど、まだ何が起こるかわからないからこそ、それを使って予防線を張っているんだと思う。
ミサキは……恐怖心を抑えている。
今でもご両親の話しを聞くと、【神牙結晶】をつけていないときは時折フラッシュバックでパニックに陥るらしい。
ゼクス君が実験台になったおかげで、かなり貢献できているんだねって思うよ。
「……最近、楽しい?」
「学校には行けないけれど、鳳鴻が来てくれるから」
僕が訊くと、にこやかにそうミサキは答えた。
本当に優しい娘なんだな、ッて思う。けれど、やっぱり申し訳ない。
僕のせいなんだ。全部。幼なじみのミサキが僕の許嫁だったから、あの時巻き込まれたんだ。
あの日、僕が一緒にデートに行こうと言っていなかったら、こうなっていなかったかもしれないのに。
「そっか、……ごめん」
「謝らないで、鳳鴻。貴方は私を助けてくれた。それだけで充分」
僕ももしかしたら、【神牙結晶】が必要なのかもね。
溢れ、止められない後悔の念を抱きながら僕はそう思った。
これだけは、ミサキやミサキのご両親になんて言われようとも、僕の罪である。
だから、僕は……。
「……かなりの特例だけど、来年から私も八顕学園に入学することになったよ。……あれ? 編入だったかな」
「父さんが何かやったかな」
「うん、白虎様がやってくれたの」
僕は、亜舞照家は。
愛詩家を援助する。
「でも、仲良くできるか少々不満」
「大丈夫だよ、きっと」
ミサキの性格なら、なにも問題は無いはず。明るい娘だからね、基本的には。
と、言ってる間に家の周囲を一周しちゃった。もう一度回れれば良いのだけれど、そんな時間がない。
今回は、ミサキに会うためだけに許可証を取らず、「抜けだして」きちゃったからね。
「足が治ったらいいのにね」
「…………」
そういって、ミサキは自分の両太ももをなでた。
おそらく、おそらくミサキ的には希望的観測で言っているんだろうけれど、僕には責任や後悔が重くのしかかる言葉。
きっと僕の顔にもそれがうつっていたんだろう、彼女はそれに気づき慌てて弁解するように僕をねぎらった。
その姿は、僕にとっては天使そのものだ。心の救いそのものだ。
「ああ、ごめんね? 鳳鴻を責めたわけじゃないんだよ?」
「わかってるよ。ミサキはそんな子じゃない」
もう、あっという間にこんな時間か。早く帰らないと、この前のゼクス君みたいになってしまう。
まあ、タクシーを呼べばいいんだろうけれど、でも表立って入るのもアレだし、やっぱり徒歩で帰るとしますか。
「……ね、来年からは毎日会えるね」
「そうだね。……じゃ、そろそろ僕は行こうかな」
「またきてね!」
おかげで元気がもらえた。来週も来ようと心に誓って彼女を自室まで送り届け、ご両親の方へ向き直る。
「鳳鴻君、……ありがとう」
「いえ、僕の責任ですから。最後まで責任を取りますよ」
また頭を下げられた。今度は両親ともども。
僕はまた慌てて、上げさせる。
でも、何度も頭を下げられたんだ。
きっと、焦りとかあるんだと思う。こんな状態のミサキが、将来嫁に行けないのではないかと。
「聖樹のこと、お願いします」
「はい」
僕は頷く。
「愛詩家は、天舞照家が守ります。そして、ミサキは僕が命を賭けて幸せにします」
そこまではしなくていい、とは言われたけれど。
せめてもの罪滅ぼしなんだ。
次回更新は今日だと思いたいです。
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