第176話 「オニマルと古都音」
2016.04.27 1話め
「あら、おはようございますゼクス君。今日はお休みですし、一日中ゆっくりしていきます?」
「そうしたいところだけれど、一旦戻るよ」
朝目覚めると、古都音がなんの恥ずかしげもなく着替えている途中だった。
こちらがもぞもぞと起きだすと、太陽の照りつけるような笑顔で迎え堕落への第1歩を提案してくる。
魅力的だ、実に魅力的である。
が、それに屈してはならない。俺は首を振って自室に戻るという意志を見せると、古都音はむぅと膨れた。
「着替え持ってすぐ戻るから、そんな顔しないでくれよ」
「はい」
一旦風呂でもはいって、汗を流さないと。
でも、何かあったら行けないな、という心配性を俺は発動させ【髭切鬼丸】を古都音に手渡す。
「一応、【髭切鬼丸】をここに置いておくから。オニマル、なにか起こったらすぐに報告して」
『うむ』
古都音は俺が誰と話をしているのかわからない様子だったが、オニマルに古都音の話し相手になってくれるよう頼んだし、あとはオニマルがなんとかしてくれるだろう。
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ゼクス君がいなくなった自室は、なんだか物寂しいものでした。
私の手には、日本刀型の【顕煌遺物】、【髭切鬼丸】が乗せられていますが……。見れば見るほど美しい刀です。
【顕煌遺物】はいわゆる神話に登場してくるような神話の武器、ということを聞いたのでこれもその一種なのでしょう。
『初めまして、終夜古都音』
「……!?」
突然、声がしました。だれか侵入者でも入ってきたのか、と私は一瞬だけ身体を緊張させますが、すぐにその声がとても幼い事と、【顕煌遺物】から流れてくることに気づき恐る恐る声をかけます。
「……初めまして、【髭切鬼丸】様」
『オニマルで良いのじゃ。代わりに我も古都音と呼ばせてもらうがの』
【顕煌遺物】には人格が宿っている、というのは聞いたことが有ります。
所有者と【顕煌遺物】のコミュニケーションによって、高度な戦術をたてることが可能だのなんだの、神牙研究所のミソラ様から教わったことが有りますが、たしか所有者はゼクス君であり、私は今預かっているだけです。
疑問の尽きない私に、オニマル様は説明をしてくれました。ゼクス君が指定した「仮契約」の対象に私がなっているらしいです。
話は説明から雑談に、そしてゼクス君の話になっていきました。
所有者と【顕煌遺物】の関係ということもあり、やはりオニマル様もゼクス君を心配しているようです。
『古都音はゼクスのことをどう思う?』
「大好きですよ。……でも少し心配です」
勿論、私も心配です。ゼクス君は最近、かなり無理をすでにしている気がするのです。
いあっまで、彼なら復讐のことだけに専念すれば良かったはずなのに。
私が彼の傍にいたいといい、雪璃さんも妹になりました。
善機寺君は彼をサポートはしていますが、それでも……。
ゼクス君は、周りに気を配る必要が出てきたのです。
「オニマル様も、ゼクス君が無理をしたらなんとか出来ませんか?」
『……【顕煌遺物】は、基本的に人間よりも高位の存在だ』
私の頼みに、オニマル様はよくわからない返答をしました。
もしかして、高位の存在であるからしたくない、などでしょうか。
少々残念です、と考えたのですが……オニマル様は違うみたいです。
頭の中に、優しく笑うオニマル様の姿を感じることが出来ました。
『だからこそ、安心しろ。古都音が心配している分は、私が制御しよう。……ただ、精神的なものは古都音が頼む』
「はい」
……ゼクス君は、やっぱりいい人に恵まれていますね。
捨てられても拾われて、オニマル様のような高位の存在にも選ばれて……。
そう考えれば、私は……。
もしかして、迷惑しかかけていないのでは無いでしょうか。
「ただいま」
そうこうしているうちに、ゼクス君が帰ってきました。
……あら? 今、「お邪魔します」ではなく「ただいま」って言いました? よね?
「…………」
「どうした?」
不思議そうに首をかしげる彼に、私はただ微笑みを向けることしか出来ません。
……多分自分でも、意識していなかったのでしょう。
「おかえりなさい!」
次回更新は今日に、したい。
鳳鴻君回の予定です。




