第173話 「過去の記憶」
2016.04.25 3話目
少々短め
トラン=ジェンタ・ザスターは、「Thestar」家の長男である。アメリカ連合国でも有数の名家であり、財力も権力も有り余っているザスター家で幼少期から手に入れたいものはなんでも手に入れられた。
その結果、彼に形成された性格は大変なワガママ。それに加えて秀才でもあったため、かなり自信家でもある。
例にとって言えば、悪かった頃の蒼穹城進の状態をさらに悪くしたようなものである。
そんな中、トラン=ジェンタが13歳の時、日本へ観光目的でやってきた際に目をつけたのが「愛詩 聖樹」である。
柔らかな笑顔に一目惚れしたトラン=ジェンタはそれを欲した。
が、ミサキは鳳鴻の幼馴染であり、同時に鳳鴻と既に許嫁の関係であった。
それを受けてザスター家当主は流石に叶えられない、と断ったが……もちろん、トラン=ジェンタは激昂する。
結果、トラン=ジェンタは何でも言うことを聞く使用人に無理を言って誘拐させたのだ。
そこから、天舞照家とザスター家は血みどろの抗争となり……。
過程の中で、鳳鴻は自分の感情を抑えるために顕現特性を開花させた。
抗争が戦争に変わらなかっただけマシといえよう、と【八顕】は判断し特に咎められはしなかったが……。
鳳鴻は出会った仲の良い人たちを、どんな手段を使ってでも護るようになったのだ。
ザスターが、相手を壊してでも手に入れようとするのとある意味では同じく、また相対する考え方を持つようになってしまう。
最後にミサキは帰ってきた……というより鳳鴻が最前線に立って戦い取り戻したのだが、ショックによる左目の失明と誘拐時の【顕現】により下半身不随の身体となってしまう。
しかし、それを悲しむ暇もトラン=ジェンタ・ザスターに怒る暇も鳳鴻には与えられず、跡取りとしての責務を果たし始めなければならなかったのだ。
「……何回思い出しても胸糞悪いね」
ザスターがいなくなった校舎裏で、僕はただ1人立ち尽くしている。
……僕は、空を仰いだ。ミサキの左目には、この蒼穹を二度と感じることができないのだろうね。
でも、ミサキは僕の大切な人だ、たとえ人間でなくなったとしても、僕は彼女のことを想い続ける覚悟がある。
「今日の授業を休んで見に行くかな」
せっかくお休みで学園生活をおくれるのに、こんなことを考えてしまうのもアレだけれど。
あっちに行ったらミサキに怒られそうだ。
けれど、会いたいな。
やっとザスターを殺せる機会が巡ってきたと彼女に言ったら、ミサキは僕を止めるだろうか。
きっと止めるだろう。殺してしまったら、自分のせいだとミサキは自分自身を傷つけてしまうだろう。
自分が誘拐されたから、鳳鴻が壊れてしまったと。ミサキに悪い点など一つもなく、寧ろ巻き込まれた一番の被害者だというのに……。
だから、僕は。
どれだけあの男を殺して挽肉にしたくとも、それを許されない。
でも、周りの人を僕のようなことになって欲しくないから……。
守るんだけどね。ゼクス君も似たような考えだったから、特に口出ししないで間接的な補助をしているんだけれど。
あと、ゼクス君は負の感情が強くて、負の感情への干渉を受け付けないんだよね。
本当に強い人だ。そしてあの人が本当の意味で、「オーソライザー」なんだと思う。
だから申し訳ないけれど、僕はゼクス君を少しだけ利用させてもらった。
終夜さんを守るだろうと確信して、ザスターの終夜さんへの気持ちを増大させた。
決闘で決着をつけるといったのは僕の操作ではなく、彼の意思だけど精神を操作されてるなんてわからないからね、ああ言う風に思うのも仕方ないよ。
直接的に彼の心をいじったんじゃなく、親に頼らず自分の力で手に入れる気にさせた、ってのが正しいのかな?
細工をしたかしていないかと言われれば、勿論したんだけれど。
「今日じゃなくて明日にするか……。ザスターが何をしでかすのか監視しておかないとね」
鳳鴻さんの掘り下げは近いうちにあると思います。
ザスターが存在する限り、彼の復讐心も蓄積されていきますので。
次回更新は流石に明日です。




