第171話 「意識折」
2016.04.25 1話め
少々短め。
『……へえ、それはどういうことかな?』
トラン=ジェンタ・ザスターは、俺の言っていることが理解できなかったようだ。
首をかしげ、こちらを睨んでくる。
鳳鴻たちは、俺を見て「やってしまった」と頭を抱えていた。
「なにも、言ったとおりのことだけれど」
『君程度の人間で、僕よりも優れているとでも?』
自信を表に出しきったその言葉に、俺は思わず失笑してしまった。
これがきちんと古都音を捕まえられていたら、かなり説得力があったかもしれない。
けれど、この人は違う。今さっき、俺の【拒絶】でぶっとばされた後のセリフだ。
正直、滑稽だと思う。何故人をそこまで見下げることが出来るのか、俺にはわからない。
「その俺程度の能力によって、古都音に触れられないんだからたまげるよなぁ!?」
と、言うわけで俺は挑発をすることにした。簡単な挑発だが、高慢ちきな相手からすれば十分にプライドを刺激することが可能だろう。
勿論、俺の予想は間違っていなかった。すぐに相手は反応し、右手で俺を指差す。
『決闘しようか、君』
「ほう、良いのかねいきなりそれでも?」
敵認定は、してしまって良さそうだな。
俺は沸々とドス黒い怒りが身体にあふれるのを感じ取り、俺はこれが止められない域に達していることに気づく。
いつの間に、こんな敵意を養っていたのか不思議なくらいだ。
いや、突発的にここまでの敵意が湧いてしまったのだろう、そうにちがいない。
俺は拳を握りしめつつ、相手の言葉を待った。
『そうだね、決闘もしていないのにつべこべ言うのはワガママだからね』
「……そうか」
そうか、こんな人でも決闘主義なのか。
気は合いそうだが、仲良くは出来ないな。
俺はそう確信して、1歩前に進み出る。
「でも、俺はワガママなんだ」
そして、渾身の力で彼の顔を殴りつけた。
柔らかい感覚の奥に歯の硬い感触。たしかな手応えとともに殴り飛ばし、自分とトラン=ジェンタ・ザスターの間を【拒絶】する。
これで彼が俺に触れることは出来ない。俺がおもいっきり殴りつけても、殴打のダメージは負わず相手が吹き飛ぶだけである。
「……【拒絶】し続けるとこうなるのか、面白いな」
俺は、蒼穹城進へ最初の復讐を果たした時のことを思い出す。
あの時の颯よりも、かなりひどい状態だ。
俺は彼に触れていないが、面白いほど飛ぶ。まるで空中でリフティングをしているような感覚に陥り、これも悪く無いと思った。
おそらく、顔は嗜虐性が高い風防になっていたのだろう。
地面に降り立った俺を、古都音が慌てて止めようとする。
……が、俺はそれを制して彼に問いかけた。
「ほら、触れてみろよ。俺程度楽勝なんだろ?」
ぐ。と痛みをこらえながら立ち上がる音が聞こえる。
口撃をさらに加え、追撃とする。
「【顕現者】を見た目で判断したのかね? 俺は弱くないぞ」
結局、これは決闘ではない。決闘ならもっと手加減なんてしないが、今は彼の心を折ることが最優先である。
鳳鴻のことだから、今頃俺は感情が抑制されているのだろうと予想していたんだが、それがない。
おかしいなと思いつつそちらを見れば、鳳鴻がすごい顔をしてザスターを見つめていた。
強い憎悪、か。
気がつけば、周りの女子生徒の黄色い歓声は綺麗サッパリなくなっている。
「無様だな」
俺はそう吐き捨て、【拒絶】を解除し彼にもう一度話しかけた。
「決闘の日時は何時が良い?」
……っと、あ。
気絶しちまってるよ、とりあえず医務室に運んで尋問でもするか。
次回更新は今日です。昨日は5回更新できなくて申し訳ないです。




