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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第1部 第1章 入学
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第017話 「暴走する神牙アマツ」

 地面を砕いたような音がして、俺ははっと目を開けた。


 今さっきまで、俺は何をしていたっけ?



 ……ええと、何をしていたんだっけ?


 ああ、確か善機寺ぜんきじに圧勝して、やる気を無くして寝てたんだっけか。

 最近妙に眠気がくるんだよな。何が原因なのかわからないけれど。

 現実逃避が目的なのかも、もしかしたらそうなのかもしれないけれど。


「何が起こったんだ?」


 どうやら、フィールドで何かしらが起こったらしい。

 俺は隣に座っている須鎖乃アズサさんに聞いてみた。


 冷撫れいなは近くに居ない。


「うーんちょっとやり過ぎかな。一般人が怖がっちゃうじゃないか」


 彼女は特に説明せず、困ったような顔をしてフィールドを見つめている。

 俺は意識が戻ってから初めてそっちに目を向けて、そして愕然とした。





 フィールドが、クレーターのように凹んでいる。

 その両側にいるのがアマツと蒼穹城そらしろしんだ。


 周りには焼き焦げた痕跡やら、切り傷とかが散乱していて痛々しい。

 同時に、2人もかなり傷を負っている。


 その果てには、試験場のかなり高いはずの天井に巨大な穴が開いていて。

 天井の部分が、2人を挟んだちょうど真ん中に落下していた。


「パフォーマンスにしてもやり過ぎだな」

「うん。……結局何が起こったんだ?」


 寝てたのか、とアズサさんが溜息をつく。

 隣りにいたからわかってたろ……。


 まあ大方、アマツも蒼穹城も相手に対する敵意を隠しきれずぶっ放したんだろうけれど。

 その結果がこれだろう。


 大惨事だ。

 こう考えてしまうと、俺の戦いが如何に地味なものであったのかわかりやすいというもの。


「今まで俺は何をしていたんだろうね」

「寝てたんだろう」

「そう言えばそうでした」


 敬語はいらんぞとアズサさん。

 冗談で口から飛び出ただけなのに、マメな人間だな……。


 フィールドに目を戻すと、2人共自分の顕現した剣を杖に立ってやっとという感じだった。

 だが、両方共引かない。相手への執念で意識を保っているのか。


「くっそがあああああぁぁぁぁ!」


 吼えたのは、アマツだった。

 憤然とした態度でゆらりと立ち上がると、剣を投げて霧散させる。


 対して蒼穹城は全く動けない。【顕現オーソライズ】には精神力と似たようなものである顕現力と、体力を同時に使う。

 顕現力の密度で強さが決まり、顕現力の量が多ければ多いほどそれを使っていられる。


 そんなものなんだ。だから、顕現力の密度が低い冷撫は【顕装】に頼らなければならなくなる。

 冷撫は容量が凄いらしいけれど。彼女の顕現調査記録までは知らないからね。


「もう手加減なんて洒落しゃら臭え! 全力を持って燃やし尽くしてやるよぉ!」


 自暴自棄になったように吼えて、アマツは両掌から金色の焔を噴き出した。

 神々しいことこの上ない。背中からも焔が噴き出し、それはまるで翼のように展開して……


 周りを見境なく破壊し始めた。


「あのっ、馬鹿っ」


 どうやら、暴走したのは心配された俺ではなく。

 心配したアマツの方だったらしい。


 その自体に試験官たちはやっと気づいたようで、慌てて『試合は中断とする、結果は引き分け!』などと騒いでいるがもう遅い。

 試験会場の機材は愚か、ドアや窓や設備すら破壊しつくさんとばかりに火の手が伸び始めていた。


 東雲しののめたちは、すでに逃げる準備を始めている。

 善機寺は医務室へ行っているから此処には居ない。

 後は刀眞とうま遼が、東雲をかばうように試験場から離脱していた。


 おいおい……ついに気力が耐えられなくなって倒れた蒼穹城を置いてかよ。


「須鎖乃アズサ。これはどうすればいい?」

「私には何もできないぞ。……全く、あの出力は完全に規定外じゃないか」


 そりゃあ、機材や設備を破壊している時点で規定なんて度外視だろうな……。

 あれが【八顕】の、正当に能力が開花した人の実力。


 実力テストでは満点だろうな……ハハッ。

 乾いた笑いしか出てこないや。


「八龍ゼクス、君ならどうする?」

「正直、関わりたくないな」

「ほう」


 まったく、アズサさんも俺をなんだと思っているんだか。

 さっきのワンサイドゲームを見てなんとも思ってないのか。


「君は、仲間思いの強い人だと聞いている。赤の他人でなく、彼は君の仲間ではないのかい?」


 ああ。

 この人も、冷撫みたいな人間なんだな。


 傾向は違うけれど、人を持ち上げていうことを聞かせるのが上手な人種だ。

 ……俺が今、【神牙結晶】を装着しているから、アマツを止めようと思っていないだけなのか?


「冷撫は何処へ?」

「鈴音さんなら……ほら、戻ってきたよ」


 彼女が指し示す先には、慌ててこちらに駆け寄ってくる冷撫の姿があった。

 状況を理解しているようで、どうしましょうと冷撫は早くも泣きそうな顔をしている。


 本当、泣き虫だな。


「冷撫、これを持っててくれ」

「はい……アマツくんが」

「大丈夫だから」


 【神牙結晶】の括りつけられたペンデュラムネックレスを彼女に渡し、俺は自分の様子を確かめてみる。 


 オーケー。良好。

 能力を縛る必要はない。


 それなら、精一杯やらせてもらおう。

 






 俺はアマツに向かって走りだしながら、世界で一番短いだろう『顕現式』を呟いた。


「【(フォ)】:【re()】:【coil(コイル)】」

本日午後5時に予約しました。本日3話目。

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