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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第7章 御雷氷・八龍・御氷
168/374

第168話 「思いの強さ」

2016.04.24 2話め

1話めを読んでない方はそちらを先にどうぞー。

 結局、俺はその後古都音の部屋で寝た。

 古都音は文句を言うどころか、嬉しそうな顔で添い寝してくれたけれど。あの感覚は、中々味わえない幸福感を与えてくれる。


 出来れば毎日お願いしたいところで、いきなり合鍵の役目を覚えてしまったのだが。


 それはともかく、時は過ぎて今。俺はアガミの部屋にいる。

 古都音から交換留学の事を聞いたからだ。古都音の護衛が、護衛を放棄するってどういうことじゃとな。


「ああ、丁度良かった。ゼクスに言いたかったことがあるんだよね」

「どういういみだよ、交換留学って」


 俺は単刀直入に聞き出すこととした。相手はもこちらを待っていたようだが、もし古都音が俺に伝えなかったらどうなっていたことか。

 ……古都音とずっといたアガミのことだ。彼女がきっと伝えると思って何も言わなかったのかもしれない。


 アガミは、大真面目にこちらを凝視している。


「いや、これは前々から決まってたことだ。正しくは入学前から、かな」


 入学前から、か。それなら仕方ない……のか?

 俺は働かない頭を動かして、さて彼が何を言いたいのか考える。


「ほら、俺には【顕現オーソライズ】による攻撃が不可能だろう?」


 これも違う。多分。

 アガミが恥ずかしそうに、自虐を言うのを俺は静かに聞き取りながら次の言葉を待つ。


「だから、それを可能にするためにね。アメリカ連合国に2年になるまで行ってくるんだけれど……、正直、ゼクスが古都音さんの近くにいてくれて本当に有り難いと思っているんだ」


 あ、これだわ。

 俺は、彼の口調がとたんに優しく、そして真面目さを確かに増したのを感じ取って、確かに確信する。

 やっぱり古都音のことだ。俺が思うよりも多く、彼は古都音のことを思っている。


 古都音に、彼氏が出来たとしても。生涯の護衛として。

 もしかしたら恋慕をもっていたのかもしれない。けれど、それは決して許されない感情である。

 だからこそ、それを全て「任務」への思いとして昇華させているのだろう。


「古都音さん、ゼクスにべた惚れしているからさ。本気で頼むよ。俺のいない間、守り通してくれ」

「顔上げろ」


 俺は、アガミが土下座を始めたのを慌てて呼び止めた。

 彼の声は震えている。俺が考えていた以上に、彼は「思い」を持っていたのだ。


 おそらく、誰かを守護したいという思い。それが古都音や俺たちに常に向いているからこそ、彼はアレほどまでの防御力を持っているのだろう。


 だからこそ、俺はこう言った。本心から、一切飾らず。


「……誓うよ。【神】に誓って大切にするって。御雷氷の、八龍の……ゼクスの名に賭けて」


 だから、顔を上げてくれ。と俺は続ける。

 その言葉を聞いてやっと安心したのか、アガミは泣き笑いのような表情でやっと顔を上げてくれた。


 その思いの強さに当てられ、俺は今回こそ自信をなくすのをこらえる。

 俺も、これ以上に古都音を思えるはず、なのだ。


「良かった……。そこでちょっと注意して欲しい奴が居るんだ」

「んお? 学園内か?」

「学園内にも何人かいるけれど、一番注意して欲しいのは俺と入れ替わりの形になる交換留学生。ブリンク学園からの学生で、名前をトラン=ジェンタ・ザスターって言うんだけれど」


 目に浮かんだ涙を拭って、アガミは俺に忠告をしてくれた。

 彼がわざわざ名指しで警告してくるということは、相当な奴なのだろう。


 学園内の奴らたちは、俺が特に何もしなくてもなんとかなると考えているようだ。というかそれを口にした。

 アガミ、流石に少々俺を買いかぶり過ぎではないかね。


「うん、けれども何で?」

「古都音さんが小さい頃から、言い寄ってた人間だからだよ」


 言葉に、俺は目を細める。

 そんな俺を見て、目の前の護衛はヒッと一歩下がっていた。


「怖い怖い。やめて。俺にその視線向けないで」

「いや、すまん。最近付けてないんだわ、これ」


 俺はどういう性格か。

 どちらかと言えば、独占欲が強い方ではない。

 勿論古都音と一緒にいる時間はかけがえのないものだし、何処までも一緒にいたいというのはあるが、彼女がある意味ではかなり「まとも」で、俺と違う価値観を持っていても問題はない。


 けれど、例えば俺と古都音、斬灯りとやアマツやはやて、そしてこれからは雪璃ともう一度、冷撫。

 そんな、かけがえのない時間を一緒に過ごせる場所に邪魔が入ると……理性のタガがはじけ飛ぶ人間だと分析できる。


 目の前で友人たちが仲良く、和気藹々としているのを見るのが好きなのだろうな、俺は。


「ああ……ゼクスも頑張ってんな」

「まあね」


 アガミは、俺が【神牙結晶】をつけていないという情報から、こちらがどんな訓練を始めているのか理解したようだ。

 その言葉へ俺は頷く。ずっと、アガミも頑張ってきた。なら俺も頑張らないわけには行かない。


 それにしても、トラン=ジェンタ・ザスター。ね。

 トラン=ジェンタ・ザスター。

 トラン=ジェンタ・ザスター、トラン=ジェンタ・ザスター、トラン=ジェンタ・ザスター。


 よし、覚えた。5回も復唱したら覚えるだろ。


「とにかく、その人はなんかやったらぶっ殺していいから」

「……ああ、そんだけ敵視してるのか」


 アガミが明確な敵意を露わにするのは、刀眞遼のあの時以来か。

 大体理解した。


『殺して良いのなら、斬ってしまっても構わんのじゃの?』

『斬る必要もないよ。とんでもないゲス野郎なら、【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】が汚れてしまうほうが一大事だ』


 俺はいきなり血気盛んになって話し始めたオニマルをなだめ、彼女をザスターよりも上に位置させる。

 勿論、いつか……。


 実力が伴ってきて、オニマルもあの輪に入れられるときが来たのなら、そうするつもりなんだからな。


「そんな寂しそうな顔すんなって。来年の4月にはかえってくるさ。何倍も強くなってな」

「いや、ちょっとザスターがどんな状態になるのか想像して可哀想と思っただけだ」


 勿論、警戒はするけれど最初からは敵ではないからね。

 でも、4月までは護衛も担うことが出来るわけだ。特に古都音とは結婚を前提に付き合っている事を、昨日彼女に耳にタコが出来るほど言い聞かされたからな。


 そんなことに精一杯になれるから、俺には勿体無いと言っているのにのぅ。


 アガミはすっかり元気になったのか、じゃあ俺は準備に戻るからと俺から背を向ける。

 部屋を眺めてみれば、確かにスーツケースが一つ広げられていた。


 ……アレ? 入院してたり、昨日はいろいろあったから時間の感覚が狂ってるんだが、今はいつ頃だい?


「出発って何時いつだっけ」

「明後日」




 ……うわぁ。

次回更新は今日です、多分。


今日は筆が乗っているのです。

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