第166話 「自責」
2016.04.23 1話め
「……どうすればいいんだ」
俺、神牙アマツはゼクスが研究室から去っていくのを見つめながら、自分の無力さに打ちひしがれていた。
思えば、この5年間の関係をぶち壊したのは俺のせいだ。あの日、俺が蒼穹城に対して勝手にキレて、ゼクスに救ってもらったあの日から……。
ゼクスも、冷撫も……神牙家の次期候補として幸せにしてやれなかったのは俺のせいだ。
こんな……こんなはずではないんだが……どこで計算を違えたのだろう?
いや、人と人との関わりで計算なんて何の役にも立たないだろう。ただ、俺が愚かだっただけだ。ゼクスを友人として、親友として幸福にしてやりたかった。
俺と冷撫と三人で……。でも、それも無理だったのか、と考えてしまうともう何も。
「ゼクス様は、帰ってしまったのですね」
「……そう、だな」
いつの間にか、冷撫が後ろにやってきていた。
もっとお話したかったのに、残念ですと少女は言った。その言葉を聞いて俺は自責の念が自分を襲うのを再確認する。
冷撫の頭のなかから、「ゼクス」という存在が一度消去されている。
ゼクスは下手に触らないことを進言したらしい。日本最先端の神牙研究所でも、対処法が不明ということは彼女をどうすることも出来ないということだ。
「冷撫、すまない」
「……どうしたのですか?」
いや、冷撫に言っても意味が無いのか。冷撫にはゼクスがいなくなったこと、を言ったってしかたがないことだろう。
とにかく、ゼクスの話しによれば【顕煌遺物】が関わっているということ。それがわかれば、それと同等の効果を発揮する【顕煌遺物】だって存在するはずなのだ。
……冷撫をそれで戻して……。もどして、俺はどうすればいいんだろう?
ずっと、ゼクスを救えている気になっていたのだ。ずっと、ゼクスを支えている気になっていたのだ。
飛んだ買いかぶりで、実際にその役目を真面目に担っているのは善機寺颯や古都音さんだというのに、俺は……。
「何故、そんなに悲しそうな顔をなさっているのでしょう」
「何も不思議に思わないんだな」
同じクラスで、俺と友人で、派閥も前まで一緒だったという事実があるというのに。
冷撫は、それなのに全く記憶に残っていないという。それを不思議と思わないという。
……ゼクスは少なくとも空気ではないはずなのだが。元とはいえ、冷撫の想い人でもあるのだろう?
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「結構歩いたな」
気がつけば、周りは高級住宅街だった。
ランニング代わりに走っているのだけれど、さすが【顕現者】足が速い。
もう半分くらいは進んだんじゃなかろうか。
昔は東京は、区で分かれていたらしいのだけれど今はエリアで分かれている。
第1から第3が住宅地、第4がオフィス街……ってな感じで。
【顕現者】は選ばれた人種、と考える人間も居れば。
【顕現者】を脅威に感じる人もいるわけで。
その結果、【顕現】を使える人のみが利用出来るエリア、【顕現】を使えない人のみが利用できるエリア、両方が利用出来るエリアと明確に分かれてしまっている。
俺は【顕現者】全てが悪だとは思わないが、勿論【顕現】の力を悪用して犯罪を起こそうとする人間も居るわけで。
俺も、結局は【顕現】の、顕現特性を使って復讐を行っている1人で。
まあ、そういうわけだから一概に「一緒の扱いにするべきだ」とはいえないわけなのだが、ね。
「うーん、しかし。このルートだとアレだな」
迂回しなければならないから、本気を出して走るか何かしなければならないかもしれない。
日が変わるまでには帰らないと行けないし、いやまだ6時間あるからそれは行けるのだけれど。
……1回実家に帰って、その後飛んで帰るか?
俺は【神牙結晶】を外し、颯の見よう見まねで竜巻を起こしてみる。
……少々、別の属性も混じっているな。やはり颯のように純粋なものは作れないか。
「よし、帰ろう」
おっとー? 全くの偶然だが目の前に実家があるぞー?
入らないわけないは行きませんね、入りましょう。
……とも思ったのだが、ダメだわ。
今実家に帰ったら、甘えて学園に帰れなくなる気がする。
学園も決して楽しくないわけではないのだが、実家が一番安心するというか。
……まあ父さんと母さんの安心感が半端ではないのが主なものだけれど。
そういえば、父さんは【不可侵】を自分や対象にかけて、守り通すという方法を使ったことがあるらしい。
……アレを、俺も応用すれば……。
誰かを護ることも、出来るのかね?
次回更新は明日です。




