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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第7章 御雷氷・八龍・御氷
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第164話 「変わるべき人」

2016.04.21 1話め


 遼の部屋は、いつもどおり何もないものだった。

 何もない、って言っちゃったら語弊があるかな。最低限の椅子、机。標準であるベッド。


 それに……獅子王さん、燐華さん、遼に、ツグの映っている写真が1枚。

 遼は今さっきまで写真を見つめていたようだ。丁度、僕が入ってくるときに慌てたのか、白い写真立てが倒れてしまっている。


 僕はどうして良いか分からず、とりあえず話しかけることにした。


「……遼」

「何だよ進、嫌味でも言いに来たか?」


 でも、返ってきたのは棘のある言葉。

 おもわず僕は、マヌケな声を出してしまった。


「え?」

「俺はもう【八顕】じゃなくなったんだけれど?」

「……そうだね、君はもう【八顕】じゃない」


 彼の気が立っているのは、しかたのないことなんだな。

 僕はそう判断し、特に気にもせず「座るよ」とベッドに座る。


 遼の反応は、ない。

 けれど。少々待っていれば。話し始めた。


「甘く見積もってた俺が惨めに見えてくるんだ」


 遼は、じっと写真立てを見つめている。

 きっと、その写真立てに入っているのは彼が戻りたい「過去」だろう。

 全員が幸せそうな顔で笑っていた。遼はツグへ肩を回し、それぞれ親が2人の肩に手を置いている。


「進の様子を見て、俺も身体的な損害が出来るものだと思ってた。正直、進以上にやられて殺されても、それでゼクスが満足すればいいと思っていた」


 じっと、それを見つめながら。

 ポツリポツリと話す彼には、どこか心に来るものがあった。

 わかってる。僕だって、ツグと良き友人であった頃に戻りたいと思っていたから。


 流石に、おこがましいことこの上ない、ただの我侭だけれど。


「結果、これだよ。死ぬよりもキツイ気がする」


 刀眞家は、ついに『顕現者協会』からも追い出されてしまった。

 一応他の議員からは【三劔】に格下げするのはどうか、という意見も出たらしいけれど、獅子王さんがそれを断ったらしい。


 潔く、抗わず刀眞家は去っていってしまった。

 置き土産で鈴音冷撫に何か、八つ当たりでしたらしいけれど、それがなければ完璧だったなぁと残念に思っている。


『つまり、八龍君は君に恨みを持っていたんじゃなくて【刀眞とうま】家に恨みを持っていたということなんでしょ? けれど、殺す事はできなかった。その代わり、【刀眞】家を刀眞家でなくした、ということだ』


 前までの僕なら、そう言ってしまっていただろう。そして、遼を更に傷つけてしまっただろう。

 けれど、今の僕は違う。……決して、そんなことを言うべきではないと判断することが出来た。


 代わりに、話題をそっと逸らすことにした。


「本当、ツグって凄いよね。刀眞家から捨てられて八龍家になって、それからもう一度返り咲いたんだよ。今は『御氷』だっけ? 『御雷氷』だっけ?」

「……随分とのんきだな、進」

「そうだね。……でも僕の家だって、没落はしていないものの今じゃかなり地位は低いよ? 今まで刀眞家と善機寺ぜんきじ家がいたからこそ張り合えたけれど、善機寺家が離反して。今じゃ刀眞家もいない」


 そう……。

 蒼穹城そらしろ家も、今は危機にひんしている。

 結局、今は対立じゃなくて「御雷氷・神牙かみきば・善機寺」の御雷氷派と、「亜舞照あまて月姫詠つきよみ須鎖乃すさの」の三貴神派が相互に仕事をこなし、それを蒼穹城と神御裂は中立として見守るという関係になってしまった。


 父さんに聞いたけれど、前ほどギスギスしていない、平穏な会議になったらしい。

 僕には政治のことがわからない。けれど、父さんは日本が危機に瀕しても、今の【八顕】なら一致団結して立ち向かうことが出来るだろうと断言していた。


 けれど。けれどもだ。

 今の僕にはそんなに関係のないことなんだ。


「でも、君が僕の友人であることに変わりはないよ」

「……お前は変わったな」

「そうだねー。寧ろ時代が変わり始めてる。僕達にはまだしっかりと気づかないだろうけれど、御雷氷家が存在を主張し始めたら、誰も止められない」


 ……本当はもう、存在を主張し始めている。当主の冷躯さんが主張しなくても、その名声が黙っていない。

 全国ネットのニュースで、『【八顕】、変動する』と何処の局もこぞって特集を組んでいたくらいのことだ。

 国民の声を聞いても、八龍――御氷冷躯が、御雷氷冷躯として【八顕】になった事を褒め称え、これからに期待する声は大きい。


 冷躯さんは国民のヒーロー。それがよく分かるものだと思う。


 でだ。話は変わっちゃうけれど、僕は遼に忠告をする。

 僕の体験を元に。そもそも、あの時は僕が馬鹿だったからただ突進しちゃっただけなんだけれど。


「あと、八龍君の襲撃が1度だけとは絶対に限らないんだ。自分にとって大切な人を護る準備はした方がいい」

「……進、分かってて」


 分かってて、というのはあれなんだろうね。

 遼が、契の事を好きだということかな?


 勿論わかっていた。遼は分かりやすいんだよね。


「ずっと友人だったし、わからないわけが無いでしょう?」

「……でも、契が本当に好きなのはゼクスなんだ」

「分かってるよ」


 僕は息を吸い込んだ。

 今回、多少変わったのは僕だった。颯も最初からあれではなく、変わっていたのかもしれない。


 けれど、次に変わるべきは遼だ。


「だからこそ、これから変わっていくんじゃないか」


 それでも……。






 それでも、八龍ゼクスという人間は、きっと復讐を完遂させるんだろうけれど。

次回更新は明日、の予定です。

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