第163話 「何とかする」
2016.04.20 1話め
「さて、帰りましょうかセツリさん」
「……うん」
アマツ君を迎えに来た車が見えなくなってから、私は彼女の方へ振り向きました。セツリさんのことは、冷躯さんからある程度聞いていますが……。
やっぱり何か特殊な事情を抱えていてもおかしくないようです。私にはわかりませんが。
ゼクス君はセツリさんに何か言ったのでしょうか。その言葉に私は従いますかね。
「あの方は?」
「神牙アマツ君です。……で、こちらが蜂統アガミ君」
私は、ゼクス君と入れ替わりでやってきた男の子を手で示しながらそう説明します。
人見知りが激しいらしいセツリさんは、いきなり飛来してきた少年に多少ながらも警戒心を抱いてしまったようで、私を壁にするようにさり気なく移動していますね。
これは……私が信頼されているという解釈で間違っていません、よね?
ゼクス君へは素直になつき始めているので、私もそうなればいいかなとは思っているのですが。
「アマツがゼクスを呼ぶって言われたから、やっと護衛に付ける」
「そうですね」
「そちらのお嬢ちゃんは?」
アガミ君は、セツリさんの存在を知らされていなかったのか興味深そうな顔で見つめていました。
絶世の美少女ですもの、仕方ないですね。……アガミ君のことですから、変な気は起こさないでしょうし。
……起こしませんよね?
「八龍雪璃さんです」
「うぇ!? ……失礼しました」
私が説明すると、アガミ君は素っ頓狂な声を上げ……。
セツリさんが怯えます。……驚きすぎですし、流石に護衛としてその反応はどうかと思いますが。
……アガミ君もまだ学生ですから、仕方ないといえば仕方ないのでしょうけれど。
私はふぅ、と溜息を付きながら彼の次の言葉を待つことにしました。
「いつの間に妹なんてゼクスに出来たんだ?」
「冷躯さんが引き取ったのですって。何か特殊な事情があるとお聞きしましたが、詳しいことは分からず。……セツリさん、こちらは私の護衛です」
「護衛?」
セツリさんに、アガミ君の事を紹介するとやっと警戒を解いたようでした。
本当に良かったです。
アガミ君、……まあとっつきやすい性格なので、問題は無いと思うのですが。
私はにっこりと笑って、誇らしげに彼のことを評価します。
「ええ、正式な護衛です。護りの才能であれば、この学園では一番かと思います」
戦闘力で言えばゼクス君のほうが上でしょうし、それは比較対象にならないのですが。
ただ、私は。彼の守護能力が突き抜けてしまったせいでこうなっているとは知っていますから。
セツリさんも、私と同じ考えなのかもしれません。
「凄いね」
「……そう? 家系的にずっとこんな感じだから、普通だと思ってたわ」
……おおー。
やっぱり、アガミ君は驕らないから凄いですね。
「誰かを守れる、って、凄い」
「……ありがとな」
何で頬を染めているのでしょうかね、アガミ君。とも感じましたが……。
女性である私から見ても、美少女だと思うのですよね……。
人工的に作られたような美しさなのですが、そこに不自然さがない。
「あれ? ってことは、将来的に古都音さんも義姉になるってことか」
「そうでした」
確かに、そうですね。
「おねーちゃんになるってこと?」
「そうです、将来的には私はセツリさんのお義姉さんになるらしいですよ」
……ニコニコとするセツリさん、文句無しに可愛いですね。
それよりも、今心配なのは……。
冷撫さん、大丈夫なのでしょうか。
……それだけが心配です。
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「……アマツ、元気ないな」
「まあ、仕方ないって思ってくれや。……刀眞に冷撫がやられてから、なんか人形みたいになっちゃってさ」
車の中で、アマツと向かい合い話をする。
彼はかなり疲れているようだ。純粋に冷撫のことを心配しているのだろう。
何をやられたのかわからないから、どうすれば良いのかわからないってのも問題だ。
「ごめん」
「ゼクスは悪くねえよ。……冷撫を守れなかった俺の責任だ」
完全に神経が参っている。彼が俺を呼んだのは、何か理由があるはずだろう。
「……でも、俺には何も出来ないんだ。何をされたのかすら分からねえし、証拠も何も残ってねえ」
そこでやってほしいことがあるんだ、と。
アマツは藁にもすがるような顔で俺を見つめている。
「……なんとかして欲しい」
「漠然としすぎだな。……まあ、出来ないことはないけれど」
……今回は、誰かを傷付けることしか出来ないこの能力で、人を救えそうだぜ。この世界に特殊な作用を起こすなら、【顕現】関係のものしか無い。
つまりは、刀眞獅子王たちから【顕現】の関係を断ち切るか、関係を書き換えてしまえばいい。
……簡単に行くか、わからないけれどもな。
古都音も連れてきたほうが良かったかもしれない。
朝に間に合うよう更新ができなくて申し訳ありません!
次回更新は明日です。




