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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第7章 御雷氷・八龍・御氷
162/374

第162話 「復讐の正義」

2016.04.19 2話め

「退院、おめでとうございます」

「ありがとう古都音」


 夕方頃、俺はやっと退院が認められ、医療室から解放された。古都音は授業が終わるなりやってきて、甲斐甲斐しく片付けなどをしてくれたが……。

 正直、そこまでする必要は無いらしい。それでもやりたがるのは、純粋に彼女の性格なのだろう。


 俺とはいうと、学園に来てからすでに2回目ということもあってか、なれたものであった。

 もう、色んな意味で医療室の方々には覚えられているような気がする。


 古都音は、すでにオレンジ色に染まり始めた空を見上げながら、俺と一緒に寮へ向かう。

 雪璃も一緒だ。……雪璃といえば、昼休みに古都音の案内で学園の見学をしていたらしい。


 かなり楽しんでいた様子だったし、俺もそれなら問題はないだろうなと話をしていたんだが。


「今日の授業、終わってしまいましたね。単位は大丈夫なのですか?」

「うん、多分大丈夫。……多分。申請書出すから、大丈夫」


 古都音は、俺が来年進級できるかという心配をしている。確かに、すでにかなりの期間を医務室で過ごしているけれど……。

 この学園は、例えば【三貴神】みたいな……特別な事情を持つ生徒のために授業免除の制度がある。

 入院も、勿論「事情」だ。だからそれを今度申請しに行く。


 ……俺はなんとかなるだろう。蒼穹城だって、数ヶ月来れない状態でもなんとかなっていると風のうわさで聞いたことがあるのだから。

 と、俺は雪璃の事を思い出して、何か父さんから聞いていないか質問した。


「そういえば、雪璃の転入はどうなってるとか、聞いてるか?」

「冷躯さんが、来月初めに転入と言っていました。今は見学で学園への立ち入りを許可されているらしいです」


 来月初め、ということは10月入ってからか。あと2週間ほどで転入という事になり、古都音の話によると更に次の4月までは全ての授業が免除されており、学園に在籍している間は全ての座学画面所、ということらしい。


 流石に優遇されすぎているような気もしたが、古都音はその概要を聞いただけで詳しい事情は全くわからないという。

 ……これは、やっぱり父さんを問いつめなければ。


「そっか、良かったな」


 俺は「座学?」「実技?」と何が何やらよく分からない様子の少女の頭をそっと撫でる。

 朝から昼までの間に彼女のことは大体わかった。まず、この見た目よりも精神年齢は小さい。

 あと、世の中を知らないというよりは「外の世界を知らない」。どこかに閉じ込められていたかのような感覚を受けた。


 あと……【顕現オーソライズ】的な技術は高い、はず。少なくとも俺の目測でしか無いのだけれど。


「それで……これからはどうなされるのですか?」

「どうするもこうするも、普通に生活を送っていくよ」


 今思い出した、とでも言いそうな古都音に話しかけられ、俺は首をひねった。

 どうする、か。普通に学園生活を過ごしながら、最期の1人「東雲しののめちぎり」に対する復讐の方法を考えよう。

 

 流石に、復讐対象とはいえ女性に手をかけるほど俺は野暮ではない。

 狂人なのかもしれないが、それでも最低限の理性は持ち合わせている。


 故に、じっくりと考えなければならない。

 特に、あの女は……まったくもって、反省などしていないのだから。


「あとは、1人か」

「そう、ですね」


 俺の言葉に対し、古都音は状況を重く受け止めているのか少々言葉を詰まらせる。

 そんな気はなかったんだけれど。


 勿論、雪璃は事情をわかっていないからか首を傾げてこちらに質問をした。


「あと1人?」

「おう、復讐な。あと1人で完遂するんだ」


 俺は出来るだけ元気にそう言った。


 ……が、返ってきたのは思った以上に理解されていない事を示すものである。


「……復讐って、何?」


 というか、そもそも「復讐」という言葉自体を知られていないかのような反応。

 俺はそれが、明確にどんなものを指すのかわからない。


 だからこそ、こう答えた。


「……ただの自己満足だよ」


 彼女はそれでも、よくわかっていないようだった。まあ、俺の説明があまりにも漠然としすぎているのかもしれないが。

 それはよく分かっている。けれど……俺には、その正否の判断が出来るほど、よく出来た人間じゃないから、というのもある。


「よくわからないけれど、それに善悪はないのよね?」

「無いと思う。少なくとも、俺は自分のやっていることは正義とは思っていない」


 善悪、か。

 それが義にのっとった復讐アベンジであれ、個人の意志である復讐リベンジであれ、それは本人達からではなく、他人から見ればそれは本当に正義なのか? それとも悪なのか?

 当人達を完璧に知っている人間だったとしても、それは本当に判断し、言い切れるものなのか?


 だからこそ、俺は答えを出せない。しかし、そもそも自分が正義を成しているとは思っていない。


「けれど、もう止められないところまで行ってしまった」


 そう、もう。止まらないのだ。今になって「もうやめる」は通じない。

 だからこそ。


 だからこそ、俺はもう止まれない。


「それに、古都音さん? はなんとも思わないの?」

「……私は、彼のとなりで彼を支え続ける。それだけです。私はそれを正義だと信じていますし、彼には救いがあるべきだと考えます。……世界中で、誰も彼の味方がいなかろうと、私は彼の救いになり続けると決めたのですから」


 刹那の質問に対して、古都音は笑顔でそう答えた。

 ……全く、俺には勿体無いほどいい女だと思う。慕っている人をそこまで信じられる人なんて、そうそう居るものではない。


「……そっか、凄いね」


 雪璃は、分かっているのかわかっていないのか、コチラでは判断できない言葉で妙に納得したようだった。

 ちょっとだけ、怖い気もする。けれど。


 俺が次の事柄に頭を傾ける前に……声をかけてきたのはアマツである。

 最後に見かけたのは入院の前、決闘の前……か。


 その時は幸せいっぱいの顔をしていたのだが、今は違う。

 どこか寂しそうな、悲しそうな、それでいて不安に満ちた顔をしているが、それを必死に隠そうとしていた。


「……んお? 何の話してんだ?」

「アマツ、久しぶり」


 神牙アマツは、俺と古都音、そして雪璃を見て一瞬だけ笑顔を浮かべる。

 彼も雪璃の状況を父さんから聞いているらしい、というのを俺は古都音の言葉で聞いている。

 だから問題はない。


「すまんな、見舞いに行けなくて」

「状況は聞いている。……冷撫は? 大丈夫か?」

「問題ねえよ。ただ、何をされたのかわからないらしく、今は【神牙結晶】の影響で抑えてる」


 俺は、思わず自分の首にかかっている【神牙結晶】に右手で触れた。

 結局、まだこれがないと普通の【顕現オーソライズ】ができないというのは流石に……だな。


「今日も、今から研究所に向かうつもりなんだ。ゼクスもどうだ? 話をしたいこともあるし」

「……そうだな、行こうかな」


 俺は古都音に、雪璃を頼むと言い残してアマツの後ろに着いて行くことにした。


「雪璃、ちゃんと古都音のいうことを聞いてくれよ」

「わかった。……うん」


 アマツから話、か。

 どういうことなんだろうな?

次回更新は明日です。

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