表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第1部 第1章 入学
16/374

第016話 「八龍ゼクス 対 善機寺颯」

 はじめ、という言葉が聞こえた瞬間俺はすでに飛び出していた。

 相手が取り回しの難しい刀なら当然、懐に入り込めば何とかなる。


 地面を駆ける音すら遅れて、前とまたちがう純粋な「凶器」となった手が弾丸の如く善機寺ぜんきじ向かって射出された。


 男の目が驚愕に見開かれるのを視界に捉えつつ、吸い込まれるようにして右拳は相手の左頬へと飛び込む。


 その行動に、俺は何の感情も抱かなかった。

 ゆっくりと流れていく時間の中で、左頬を強打された男が刀を取り落としてしまったことを。


 善機寺颯が俺を驚愕と戦慄の目で見つめ、取り落とした刀を慌てて拾い上げるまで、俺は動かない。


 丸腰になった相手に、一方的な戦闘を繰り広げても意味が無いのだ。


「……面白いな、オマエ」


 にやっと、好戦的な笑いを見せた善機寺は口から血を吐き出し、刀を構え直す。


 今さっきまでは不意打ちを食らったから、対応できなかったと判断しているのだろう。


 俺は無言で構え直し、再び対峙。

 ただ、今回は前よりも距離が近い。


 精神を集中させ、敵の呼吸による体の揺れすら感じ取る。

 


 一瞬だけ、相手と目が合った気がした。


「ド派手なものは、嫌いか?」


 


 そういった善機寺が、姿を消す。


 

 何処に消えた、と考える前に後ろでも横でもなく。


 「前」に現れた善機寺は、そのにやけ顔に刀を引っさげて俺を切り裁く動作に入っている。

 

 無意識に防御のため左手が伸び……






 【AVA】から伸びた爪が、刀の進行を止める。

 

 ナックルダスターと刀を接着させるように凍ったのだ。




「は?」


 疑問の声を上げるのも無理はない。

 ただのナックルダスターだと考えていたんだろう。


 違う。それは違う。固有名がある時点で何か能力はあると勘ぐるべきだ。


 俺のナックルダスターは、いろんな用途で扱える。



 伸びた爪を瞬時に戻し、刀を引き寄せて手で掴む。

 試験中の出力制限がかかっているそれは、俺の手を切ることなく収まってしまった。


 この程度か、なんて相手を愚弄した言葉は使わない。

 善機寺家とはいえ、まだ15歳だ。


 でも、調子に乗って【顕現】した上で敗北するのは、格好悪すぎないか?


「【顕現オーソライズ】で思った以上に体力を奪われてるだろ」


 俺の言葉は、相手の耳に届いただろうか。

 

 焦って聞こえていないかもしれない・


 掴み取られた刀を取り戻したくて、冷静さを欠いている。


 



 ……まあ、持ってる俺のせいなんだけど。


「善機寺颯。君には何の恨みもないが……」


 俺は刀を頑として離そうとしない彼を好都合と見て、刀を引き寄せた。

 善機寺さん、ちょっとアレですね。


 無様だよ。


 刀を引き寄せたと同時に、耐え切れなくなって善機寺の体もこちらへ向かってくる。

 その無防備な背中に向かって踵を勢い良く落とす。


 俺、体やわらか~い!


「ぐぇっ! ぐぇっ!」


 一回目のうめきがかかと落とし直撃の音。

 二回目が地面に着地した音。


 アヒルじゃないんだから、頼むからそんな情けない声を出さないでくれ。


 笑いを堪えきれなくなるだろ……?



 興味をなくした俺は、捨てるように【顕現】された大層な名前の武器を投げ捨てる。


 手応えがなさすぎる。

 先ほど噴き上がっていた戦闘意欲もとうに消え失せ、俺は10カウントを待った。




---




「あちゃー、あれは駄目だね」


 僕、蒼穹城そらしろ進は八龍君と颯の戦いを見て、ため息をついた。

 完全にワンサイドゲームだし、颯は自分の作った【顕現】に固執しすぎな感じがする。


 一撃目からもろに受けてるし、格好つけてる場合じゃないよ……。

 試合前に強者感だして、化けの皮が剥がれたらああなるのかぁ、僕も気をつけなくっちゃ。


「八龍ゼクスの【顕現】、面白いな」


 遼は、戦いじゃなくて顕現したものに興味を持ったみたいだ。

 確かに、面白い。最初は爪がなかったのに、途中から伸びる。


 つまり、「拳」であり「爪」という暗器でもあるわけだ。

 颯の刀を捕らえたことを考えても、かなり強い顕現力が込められてるんだねと考えられる。


『勝者、八龍ゼクス』


 アナウンスがなって八龍くんが僕達から背を向ける。

 やっぱり、目を合わせたときの表情が酷いね。僕達を心底憎んでるみたいな顔。


 何かしたかな。……覚えてないからなんとも思わないんだけれど。


「この次の次が神牙対進だけれど、大丈夫か?」

「何が? あんな地味な戦いじゃないとおもうよ。神牙君はド派手なものが好きだろうし、僕もパフォーマンスとしてちょっとは演出をね」


 それをやってして、神牙君に勝てばいいや。

 神牙君が弱いとわかれば、八龍君も僕達に付いてきてくれるかもしれないし。


 僕は遼の、中性的な顔を見つめた。ちょっと前に遼とちぎりはどっこいどっこいでなんとかなったけれど。

 今回は、相手も殺意満々だから何とかならないんだろうね。

次回更新は今日中で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ