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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第6章 元兄弟
153/374

第153話 「特殊な事情」

2016.04.14 2話め

「……あの、冷躯さん? どういうことなのか、説明していただいても宜しいでしょうか?」


 ゼクスに対して回復促進の顕現特性を使用しながら、遠慮がちに冷躯へ質問したのは他でもない古都音であった。

 黒と薄紫色の髪の毛をした少女、セツリは俯いている。古都音はあくまでもやはり、好奇心というよりは状況を把握したく質問をしているのだが、セツリは声をかける度に一段階萎縮してしまっていた。


「先ほど少々傍観させてもらったが……出来れば、あの【顕煌遺物】も教えてほしいです」


 便乗するように、はやても口を挟む。颯は目の前の美少女よりも、冷躯が展開していた14本の剣が気になったようではあった。

 冷躯は、さてどうしたものかと首を傾げて少々思案する。


 セツリの存在はこれから彼女たちにも大きく関係することであるが、14本の【顕煌遺物】は関連性が少ない。

 どちらかと言えば、これから密接に関係する彼女を紹介したほうが良いか、と考えて口を開いた。


「うーん、どれから話そうかな? 俺の知っていることからだから、最初は雪璃せつりについてのほうが良いかな?」


 冷躯の言葉に反論を示すひとはおらず、一同頷いた。

 その中で、セツリのみが恥ずかしそうにしている。思わせぶりなセリフや、一見クールそうに見える容貌とは、性格に差異が存在するらしい……と、古都音と颯は同じように判断した。


「彼女は八龍雪璃。新しく引き取った養子で、立場上はゼクスの妹ということになる」

「……立場上は、ですか?」

「ちょっと特殊な事情でね……。来月初めからこちらに転入してくるから、仲良くしてくれると有り難いなって」


 特殊な事情……と、古都音は少々考えてみた。ゼクスのように捨てられた、または元から孤児……というのが一般的に考えられる「特殊」な事情であるが、それならすでに経験している冷躯ならそう言わないだろうと判断する。


 それなら、他になにか本当にぼやかさなければならないほどの「特殊な事情」が存在するのだろう……と。

 判断して、セツリへ「宜しくおねがいしますね?」と話しかける。


 同じ女の子同士、やっと安心できたのか弱々しく微笑んだセツリをみて、古都音は「可愛い」と感じ取ってしまった。


「この【顕煌遺物】も、少々特殊なものでね」


 次に、話し始めたのは先程の【顕煌遺物】に対して。先程まで刀眞夫妻が居た場所を一瞥し、周りを見回して自分たち以外誰も居ないことを確認してから、冷躯はもう一度空間の白い「穴」から合計14振りの剣を展開させる。


「こちらの黒い7本が【大罪ペッカータ】で、白い7本が【美徳ヴァーチェ】。それぞれ7本で纏まり、ペアで俺と契約してるよ」


 7本で1つであり、それがペア……つまり対称。


 7本、という数と。

 【大罪】【美徳】というワードを聞いて、古都音は何かピンときたようだ。

 恐る恐るながら、しかし確かな確信を得たような口調で、授業の質問に対して答えるように口を開く。


「7つの美徳と、七つの大罪、ということですか?」

「そうだね。……これのいいところは、相手の身体に傷をつけるものじゃないってことかなー」


 先ほど観戦していたならわかってると思うけれど、と。

 指揮者のように展開したり、ひとまとめにしたり、くるくると回しながら【顕煌遺物】を慈しむように優しい目で見つめると、もう一度「穴」の中に収納した。


「この【顕煌遺物】達は、相手の精神を削りとるんだ」


 その言葉に、古都音は首を傾げた。

 終夜家は【顕装】を扱う家系である。そのため、この世界に正式で発表されている、見つかった【顕煌遺物】は知識として頭のなかに入っていた。


 しかし、その中でも。「外傷を与えず」「精神に影響を与える」「ひとまとめで扱う」【顕煌遺物】はしらない。


「でも、今までに前例が無いものだと思います」

「勿論。そもそも、【顕煌遺物】ってそんなに数が出揃ってないから、研究もほとんど進んでいないんだぞ?」


 冷躯は、その高すぎる思いの力……によって創りだされた「AXoL抗体」によって、向かう先々の神殿や遺跡から【顕煌遺物】と契約を交わしていた。


 しかし、次の言及が始まる前に冷躯はゼクスに目を向ける。

 古都音の回復が行われているとはいえ、人目でわかるほど酷い怪我であり、そして顕現力も多くが失われている。


 けれど。……ゼクスの搬送よりも、もっと大切なことを。

 冷躯は、周りの人に伝えなければならなかった。


「そんなこと、よりもだ。これから俺たちが考えないといけないこと、重大なことが、ひとつある」


 真っ先に自体に気づいたのは、セツリであった。

 八龍家の仲間入りをしたのはほんの数日前である。しかし、当主である冷躯がセツリを「家族」と認めてしまった時点で、自分に「恩恵なにか」が僅かながら、流れてきていることを認識できる。


「……【神座:雷】の選定家が、切り替わったということよね」

「そう。……日本の情勢が思いっきり変わってしまう」

「えっ」


 妙に納得したような、しかし険しい顔をしている冷躯とセツリとちがい、今状況を聞かされた古都音と颯は絶句してしまった。


 【八顕】が変わった。


 今まで、日本で【顕現者オーソライザー】が認められてから、一度として変わることのなかった地位の8家が崩れた。

 古都音は【八顕】でないため、ショックは少なかったが颯は違う。


 心のなかにズシン、と何かがのしかかるのを感じてしまった。


「どんな方法を使ったかはゼクス本人に訊かないといけないが……。少なくとも、刀眞は【八顕】で無くなってしまった。代わりに選ばれたのが――」


 一息ついて、冷躯は言葉を続ける。

 


八龍やりゅう、いや――御氷みこりだ。俺の継いでいた、元々の家名が選ばれてしまった」


 少なくとも、良家に生まれた家庭で【御氷】の名前を聞いたことのない人間は存在しない。

 颯の親であるおろしも、奏魅かなみも。

 古都音の親であるスメラギも、カンナギも、知っていたが。


 子どもたちには伝えなかった事だ。

次回は少々時を遡ります


更新は明日です。

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