第150話 「雷霆を斬る刀」
2016.04.13 2話め
「……くそっ」
八龍冷躯は、八顕学園に向かうまでの間に幾度なく頭痛を体験している。
それは、自分が【神座】に選ばれたからか、それとも嫌な予感のせいか、というのはわからない。
しかし、【神座:雷】が自分の場所にやってきた、ということは刀眞家に何かあったということ。
勿論、ゼクスが何かをやらかしたということも知るわけがなく、ただ、現場に急ぐことしか出来ない。
だが、今日は八顕学園に入るには都合のいい日だった。
決闘がある、ということもあり一応一般公開されているためだ。
「……もっとスピードを上げないと」
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少女は、長い髪を風に乗せながら全力疾走していた。
【顕現】のぶつかり合いが、頭に響き警笛を鳴らしているが、お構い無く発生源に向かっていく。
「遠いね……」
少女の顔は焦りに満ちたもの。もしかして、何かとんでもないことが起ころうとしているのではないかと。
すでに起こったあとで、その後始末が進行中だということを彼女は知らない。
「まだ、話しかけてないのに……。死んでもらったら困る」
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「ぐっ」
俺は、自分の背中を鋭いガラス片が幾つか突き刺さっていることに気づき、悪態をついた。
完全に不覚をとられた。【被覆】を使う余裕もなかったし、弱体化したはずで。
1撃目が難なく当たったから、完全に油断していた。
どうも、刀眞獅子王は……元々から「強者」の分類らしい。
慢心は敵だ、と前から言っていたのに何たる慢心か。
俺は自分の叱責し、ガラス片を【開放】で弾き飛ばして立ち上がる。
消耗が激しいのか、追撃が来ることはなく次は防御に徹しているようにも見える。
『大丈夫なのか? ゼクス』
『問題ない』
俺は、【髭切鬼丸】の切っ先を刀眞獅子王に突きつけるように構えを取り、走りだす。
防御がどれくらいなのかは知らないが……。この【髭切鬼丸】に今まで切り取れないものは何もなかった。
【顕煌遺物】に顕現力を流し込み、同時に【拒絶】を僅かながら発動させる。
詠唱は破棄。やっている時間が無い。
相手から動き始めたら、それこそ負ける。なにせこの狭い場所では、避けることが出来ないのだろうから。
「はぁっ!」
一点に集中するように刀を振り下ろし、俺はその手応えのなさにまず驚いた。
抵抗が一切なく、……そもそも刀眞獅子王はそこにいない。
さて、どこに行ったか。
「後ろに回り込んでいるんだろうよ!」
俺は声に出しつつ、答え合わせをするように左手で【始焉】を起動させた。
【始焉】が白に輝く刀身を伸ばし、後ろにいる何者かに当たったという感触が確かにし、後ろを向いた。
「ほぅらね」
そこには、何があったか。
刀眞獅子王がいた。まあ、簡単に言ったら……。
左足に、【始焉】がぶっ刺さっていた。
俺はそれを引き抜き、【始焉】の柄と【髭切鬼丸】の柄をくっつける。
説明書にかかれてあったように使うのは少々難しいものだけれど、いつでも分離が可能だとk何が獲れば、かなり特殊な使い方が見込めるだろうな。
薙刀? ……少々違うような気もするけれど。
『むぅ、終夜家も変なことを考えよるものじゃの』
『ヒーロー物っぽくて俺は結構良いと思うよ』
他愛無い話を戦闘中にしながら、俺は苦しそうに唸っている刀眞獅子王を見つめる。
防御。からのカウンターは失敗した。ただ、攻撃力が異常だということは分かっている。
それなら……追撃を加えるしか無いが、それも難しいんだろうな。
俺は顔をしかめつつ、足を若干引きずりながらもこちらへ向かってくる、強烈な殴打を、どう受け流そうか考えていた。
【髭切鬼丸】では、受け流しは出来ない。どうしても、斬ってしまう。
しかし、あれを切ったところで攻撃が止まるとは到底思えない。寧ろ、【顕現】によって貫通攻撃が飛んで来るのではないかと予想してしまう。
正直信じていなかったが、やはり目の前の刀眞獅子王という存在は、強者の一角なのだ。
恐らく、この人に限らない。【八顕】にはそれに選ばれる理由があり、【三劔】にもそれはある。
「剣戟を望むなら、俺も剣で向かうとしよう」
そういって、彼が【顕現】したのは……いや、刀眞獅子王の【顕煌遺物】……か。
「【雷霆斬】。これを使うのは何十年振りか……いいか」
【八顕】の中で、【雷属性】を担当していた刀眞家元当主の使い【顕煌遺物】が、まさかの【雷霆斬】ってのも、面白いものだな。
俺はその【顕煌遺物】を注意深く見つめた。
直刃の刀で、刀身は黒い。長さは1メートルほどだろうか。
「……驚いたか? まさか、自分だけが【顕煌遺物】を持っていると考えていないよな?」
それを構え、刀眞獅子王は俺を見つめる。
そこにあるのは少なくとも、「殺意」ではなかった、「怒り」でもなかった。
俺にはわからないな。「敵意」しかこちらは向けていないのに。
「……さて、そろそろ本気で行くことにしよう。……知っているか八龍ゼクス」
刀眞獅子王は、俺に先ほど貫かれた足の穴が徐々に塞がっていくのを見せつけている。
回復力か。……いや、しかし……【拒絶】した傷は、全くと言っていいほど治っていない。
「俺は、終盤になってから強くなるんだ」
「……なら、こちらも徹底的にそちらを【拒絶】しよう」
【拒絶】には顕現力を多めに使うが、今は仕方がない。
――精根尽き果てて倒れるまで、戦おう。
次回更新予定は明日です。
筆が乗ったらもう一話更新します。




