第146話 「欠けた遠慮」
2016.04.11 1話め
ゼクスと栄都アインが、強く激しくぶつかり合っているその少し離れた場所で。
俺……善機寺颯は、隣りにいるかつての友人を抑えつつ、その戦闘に目を奪われていた。
ゼクスは、あらん限りの「力」を持って攻撃していた。非公式ではあるが【四煌】と囁かれているだけはある。
【顕現】した幾つもの剣を宙に浮かべ、【顕現属法】にてそれを操作する。
擬似的ではあるが、アインの顕現特性を扱っている状態だ。
さらに、それに加えて彼女にいまだ【選別】を使っている。彼女の顕現力に間接的に干渉しているため、彼女自身の顕現特性を扱えない。
「うーん、難しいな。身体を動かしながら操作するのは」
宙に浮かんだ剣は扱いに慣れていないのか、直線的な動きしかしていない。
しかし、それでも十分であったのだろう。少なくとも、栄都アインは自分の使っていた顕現特性を相手に奪われたと錯覚しているに違いない。
その顔には、かなりの動揺が紛れている。
そして、単に手数が増えただけでも優位に立っていることだろう。
剣がきりもみ回転しながらアインに襲いかかり、彼女はそれを刀で弾く。
次は虹色に発光した【顕煌遺物】、【髭切鬼丸】。
戦えることを喜ぶように、煌々と輝くその刀は、交えることによって強烈な火花を散らした。
ゼクスの気迫、一撃の重さ。それにアインが軽くよろめき、その一瞬を見逃さない。
右足を振り回して足払いを掛け、反撃しようとしたアインの手を無数の剣が拘束する。地面に突き刺さった剣が、複数個繋がり合って拘束具へ代わり、そこへゼクスが馬乗りになって【髭切鬼丸】を
構え直した。
「ちょっと、待って」
「……お前は、俺の敵になったんだろ?」
少々距離的には遠いが、ゼクスの声は冷酷に徹したものであった。
それは、「敵」に対する声色。きっと、その目も殺意に満ちたものなのだろう。
やはり、彼を「敵」にするのは危険過ぎる。俺は、そのつもりは一切ないが。
「敵なら、特にいらないよな? 遠慮とか、容赦とか」
切り替えが速すぎて、正直ついていけない。
が、流石に殺すのはまずい。「敵」としても、相手にはまだ未来がある。
「ゼクス」
「……ん?」
「やり過ぎだ」
俺が話しかけると、ゼクスは頭を振って我に返ったようだ。
アインから離れ、「頭に血が」といったん落ち着こうとする。
アインは動けない、その間にも、ゼクスは【顕現】を解いていないのだ。
「……栄都アイン、負けを、認めるか?」
「……そんな、前はこうじゃ……」
キッと反抗的な目線をゼクスに見せるアインだったが、その間も彼女の顔は怯えきったものであった。
当たり前だ。一切容赦のない「それ」を、俺も一度見たことがある。
あの時にはすでに、「敵」ではなくなっていたが。
「俺の復讐の邪魔を、するな」
しっかりと、釘を差してゼクスは遼へ向き直る。
遼は断罪を受け入れているように目を閉じているが、それを見たゼクスは……。
「味方」になったはずの俺でも、背中に戦慄が滅茶苦茶に走り抜けるほど、恐ろしい顔をした。
「俺は、本日を持って、刀眞家を崩壊させる」
その言葉に、妙な説得力が合って。
覚悟をしたはずの遼が、目を見開いたのは言うまでもない。
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「アレが、ねー」
ゼクス達の決闘が2度めの「静」を迎えた頃、同様に静まり返る観客席の片隅で1人の少女が納得するようにうんうんと頷いた。
髪の毛は黒が基調で、所々水色に近い銀色の混じった長髪。
顔立ちは異性が10人中10人振り向くように整っており、どこか気の強さと優しさが入り交じるようなもの。
背丈は標準より少し小さく、また体つきもほっそりとしている。
そして何より、腕に一つの紋章が刻まれていた。
「あの人が、八龍ゼクス」
少女の視線は、ただ一人の男に注がれていた。
【顕現】の使いすぎで脱色された髪の毛、その身体の周りを焔のように虹色の顕現力が渦巻いているのを、彼女は見ることが出来る。
「今の日本の、【八顕】と【三劔】の力関係を壊すことの出来る人。そして次代に時代が移り変わった時、頂点に君臨する可能性のある、1人」
意味深な言葉を呟き、少女は我に返って。
周りに誰も居ないことを確認し、ふぅと溜息をつく。
「私に見せてよね――」
目の前では、八龍ゼクスによる第2回めの復讐が、始まろうとしている。
すでに観客席には目をつむっている人もいるなか、少女はショーを楽しむように、目を爛々と輝かせていた。
新キャラ。
ミステリアスな少女は悪く無いですが、個人的には古都音さんタイプのほうがいいです。
次回更新は明日の予定です。




